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女神とお茶をするようです

 へべれけになりながら居酒屋から出るルナ。

 それを手厚くを介抱するように彼女が泊まっている宿に連れていくヒルデと、それに付き添っていったシグは、酔っぱらっている彼女を宿の亭主に任せることで、その日は解散することとなった。

 ほろ酔いな状態なあってかシグは、宿につくとごわごわとしている布団へともぐりこむとすぐに眠りに入ることができた。


 目が覚めたら白い空間が広がっていた。机に肘をついて目の前に座っているヘカテに地面に座っているシグは一つの答えを導き出した。


「また死んだのか?」

「いいえ、違います。とりあえずどうぞ」


 完璧な推理であると自画自賛したが、どうやら違うらしい。勧められたように、椅子に座ったシグを見たヘカテは指を鳴らす。

 すると机上には彼の好きなコーヒーとチョコケーキが出てきた。


「こちら顧客満足度調査センターです。担当のヘカテと申します」

「今日はそっちなのね」


 受話器を取って、もしもしーとあざとい動作を行っているヘカテ。楽しそうで何よりだと思ったシグだが、その受話器がポイと捨てられた。


「会話にこれは邪魔ですね。つまりですね、疑問に答えようかなと思って呼びました。どうも思うところがあるみたいですし」


 スッと目が細められたヘカテに、シグは降参と言わんばかりに、手に取っていたコーヒーを机に置いて両手をあげた。


「あのさ、いきなりヘイトシステムを変えるのやめてくれない?」

「ちなみに、どこから気づいたか教えていただければ」

「2回目のパーティで一番最初に戦闘したとき。あからさますぎるだろ」

「それにしても、あんな短い時間でよく掴みましたね」


 ルナと初めてパーティを組んだ際に、ヘイトが跳んだのはシグのせいではなかった。

 それではなぜか。その答えは簡単で、目の前にいる女神によって、ヘイトシステムの変更が行われていたからだ。

 前述した通り、ヘイトシステムとは多数の種類が存在していて、それらを組み合わせてシステムを成り立たせている。

 あの時に二人には説明はしていなかったが、単体と全体でのヘイト数値の蓄積の他に、時間の経過によって随時減少していく『揮発型』と、時間経過では減少することのない『累積型』というものもがある。

 その数値がモンスターに蓄積されて、最も高いプレイヤーを狙うといったシステムだ。


 クレリックのヒールは、前者である『揮発型』。ナイトのプロボックやハウリングといった挑発スキルは『揮発型』と『累積型』の混合で、反対にアタッカーのスキルは『累積型』のみ数値が蓄積することになっている。

 『揮発型』は使用をすると多大なヘイトの数値を稼ぐが、その代わりに時間によって減少していきなくなる。そして挑発スキルは使用した対象の『揮発型』のヘイトを稼ぐ他にも、攻撃を行うことで溜まる『累積型』も蓄積しやすい仕組みとなっている。

 定期的にモンスターを殴っていたのはことためだ。


 マックの時は、アタッカーのスキルを使用した際に蓄積されるヘイトは、その攻撃対象のみとしていたために、挑発スキルで彼の対象以外のターゲットを引き付けて、ヒールによって蓄積される数値のみだけを気にすれば、ターゲットを確保することが出来たのだ。

 ちなみに彼のモンスターのヘイトを取らなかったのは、一度プロボックをして引き付けた際にシグに対して攻撃を当てる『フレンドリーファイア』をしてきたからだ。


 それをみたヘカテは、攻撃スキルのヘイトを単体から全体へと変更を行った。

 またシグも、戦闘の回数を重ねることで大体の数値を推測して、タンクという役割を全うすることが出来たというわけだ。


「シャドウエッジはまだしも、ヒールをした瞬間にトードがヒルデを向きそうになったからな。挑発スキルの数値も変更しただろ」

「びっくりしちゃいました?」

「びっくりどころじゃねーよ。ヒーラーを殺すなんてタンク失格だぞ」

「だって、プロボック連打してヘイトを稼ぐだけの作業って、面白くないでしょう?」

「そうだけどさ。前回と同じように冒険者全員に報告してもよかったんじゃないか?」


 それを聞いたヘカテは首をかしげる。


「ヘイトを変更しましたって言っても、理解する人なんてシグさんだけですよ?」

「それもそうか……」

「でもルナちゃんはすごいですね。兎人の特徴ですかね?」

「それは俺も思った。そんなのってあるのか?」

「自然界の兎って感覚器官を駆使した危機察知能力ってすごいらしいですよ」


 ヘカテはルナをほめると、シグもそれに同意をする。

 ヘイトという概念を知らないにもかかわらず、回数を重ねるにごとに、ターゲットが向きそうになる一歩手前で攻撃を緩めたりしていたからだ。

 最初は偶然かと考えていたシグだが、次第にヘイト管理がうまくなっていったことに疑問を思うと、ルナにどうやっているのかと聞いた。

 すると彼女は「感覚」という二言を言い放ってきた。


「それにしてもやっぱりすごいタンクのうまさですね。見てて惚れ惚れします」

「努力の結晶」

「またまたご謙遜を。『タンクといったらシグ』と言われていたじゃないですか。でも、あなたに合わせて調整したら、初心者の人が育ちませんからね。定期的に緩くする予定ではありますので、お気をつけて」

「くそ運営かよ」

「いいえ、女神運営です。ちなみに女神なので少し緩くします」

「女神運営かよ」

「早く役割を普及させてくださいね?」

「無茶振りはやめてくれ。数年単位籠ってるやつらにすぐおいつけるわけないだろ」

「そこは気ままに待ちますから大丈夫です。第五階層をクリアしたら一気に普及することができますよ」


 前の世界では、あるゲームでは代表の一角として君臨していたシグだ。それに合わせた調整をすると、初心者はタンクという役割をすることが出来ないだろう。

 しかしぬる過ぎたらだめだ。そのちょうどよい塩梅を取るためには、シグはよい試金石になるが、今回の調整はやりすぎたと思ったヘカテは、少し緩いほうへと調整することにした。

 ちなみに意味ありげな言葉に対しては、シグも大体予想は出来ている。

 


「ちなみに……ナイトの攻撃スキルとかは?」

「ないです」

「そっすか」


 淡い期待を寄せながら、おずおずと質問してきたシグを一刀両断する。

 もともと期待はしていなかったからか、そこまで気にはしていない。


「それにしてもハーレムパーティですね。こっちのほうはどうですか?」

「その動作はやめんか」

「私って月と魔術や豊穣、浄めと贖罪や出産といったものを司る女神ですからね。そういう事情は任せてください!」

「どういう事情だよ」

「ふの──」

「ちゃうわ! とんでもない女神だな」


 親指と人差し指で輪っかを作って、反対の手の人差し指を通すハンドサインを行いながら、何を司っているかを説明を。さらには下を言おうとするヘカテの発言を遮る。


「そうは言いますけど、結構ドロドロなんですよ?」

「知らんがな」

「最近見てないんですよ!」

「知らんがな!」

「あの二人に私の祝福を……」

「俺じゃなくてあいつらに直接聞けや」


 『女神の祝福』はステータスの向上やスキルを獲得することから、よだれが出るほど欲している人が多い。

 自分の意思で拒否をすることはよくないと考えて、個人の自由にしろといわんばかりに言う。

 ヘカテしか神様は存在したいため、『女神の祝福』の他には『鍛冶の祝福』『製薬の祝福』といったような感じの名前で存在する。

 これらは『女神の祝福』ほど破格の性能をしていないが、製作されたものに多少の補正がかかることから、それらを生業としている者達からしたら欲しいものだ。


「それで、呼んだ理由は以上か?」

「まぁそういうことになりますね。後は雑談をしたいって感じです」

「雑談と言ってもなぁ……何をすればいいんだ?」

「あなたがあの世界で思ったことや感じたこと。なんでもです。話し相手がいませんからね。結構暇なんですよ」


 ヘカテは飲み物を追加する。二人の夜はこれからだといった感じだ。


 ちなみに解放されたのは3時間ほど経った後だった。

 目が覚めたらステータスカードを見るといいですよと言われたシグは、彼女の言う通りにステータスカードを確認する。

 そこにはスキルが追加されていた。


オラクル-U

・夜の暇なときに女神が一方的にチャンネルを開いて通信をしてきます。オフは無理ですよ?


(何様だよあいつ……)

『女神様です』

(やかましいわ!)

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