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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。

短編百合

拝啓、夕焼けの君

掲載日:2023/02/03

肩にかかった、心地いい重み。

ちらっと視線を向けたら、彼女の旋毛が見えた。


「ねえ、寝ちゃった?」


一応声をかけるけど、重さでわかる。

うん、寝てる。

これは確実に寝てる。


それはいつもの事で、彼女と友達になって、帰る方向の電車が同じだとわかったあの日から続いていること。


心地良い電車の揺れと、夕暮れの穏やかな光。

それと私と彼女以外居ない、静かな車内。


そこに小一時間もいたら眠たくなるのも当然というものだろう。

彼女はいつも、このくらいの時間に私の方を枕にして夢の世界へ旅立つ。


彼女が降りるのはあと6つ先の駅。

その短くない時間の間……私は眠ったことがなかった。


だって寝たらもったいない。

せっかく好きな子の……無防備な姿を見られるのに。


規則正しい寝息と緩やかに微笑んだように上がった口角。

緩やかな弧を描く、黒いまつ毛に縁取られて閉じた瞼。

ほんのり上気した肌。

呼吸とともに上下する、ささやかに膨らんだ胸。


愛しい、この子の全てをこの目に焼きつける。

この、帰り道の30分。


どこが好きか、なんて分からなくて。

いつから好きかもよく覚えていないけれど。


だけど気づいたら私の世界は貴女でいっぱいだった。


学校での貴女はクラスの中心で、いつもみんなに囲まれているから私はその他大勢にしかなれない。


けどこの時間だけは。


貴女の隣にいるのは私だけ。


彼女の耳から外れたイヤフォンからは流行りのラブソング。

田舎の、しかもこんな時間の電車なんて他に乗客もいないから、やけに耳に響く。


安っぽい、愛とか、恋とか。


そんな言葉を並べた歌が、貴女も好きなのかな。


首を少し横に曲げて、彼女の頭に自分の頬を擦り付ける。

柔らかい髪から、最近変えたらしいシャンプーの甘い匂いがした。


最近、急に綺麗になった貴女が、誰かに恋をしているのは明白で。


きっと、きっとそれは私以外の誰かだって、私、知ってるわ。


それを否定したりしない、邪魔もしない。

だってこの思いを伝える気はさらさらないもの。


きっといつか、貴女はこの夕焼けの車内で。

『彼氏』になったその人の話をするでしょうね。


いいの。

私、その日を待ってるわ。


貴女の惚気を聞いて、おめでとうって言う日を。


貴女を好きになったあの日覚悟したもの。

どれだけ胸が傷んでも……私は貴女の幸せを、1番近くで喜べる友達でいようって。


でも、でもね。

今この瞬間。


夕焼けに染る、二人きりのこの世界で。

穏やかな吐息を立てて眠る貴女は私しか、知らないと。


そう、自惚れさせてね。


そしたら私は。

この夕焼けに貴女を、閉じ込めて。

2人きりで逃げてしまいたい、なんて烏滸がましい気持ちに蓋をして……貴女の前で明日も笑うから。


だからどうか明日もこの時間だけは。


(貴女を、独占させて。)

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