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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編百合

拝啓、夕焼けの君

肩にかかった、心地いい重み。

ちらっと視線を向けたら、彼女の旋毛が見えた。


「ねえ、寝ちゃった?」


一応声をかけるけど、重さでわかる。

うん、寝てる。

これは確実に寝てる。


それはいつもの事で、彼女と友達になって、帰る方向の電車が同じだとわかったあの日から続いていること。


心地良い電車の揺れと、夕暮れの穏やかな光。

それと私と彼女以外居ない、静かな車内。


そこに小一時間もいたら眠たくなるのも当然というものだろう。

彼女はいつも、このくらいの時間に私の方を枕にして夢の世界へ旅立つ。


彼女が降りるのはあと6つ先の駅。

その短くない時間の間……私は眠ったことがなかった。


だって寝たらもったいない。

せっかく好きな子の……無防備な姿を見られるのに。


規則正しい寝息と緩やかに微笑んだように上がった口角。

緩やかな弧を描く、黒いまつ毛に縁取られて閉じた瞼。

ほんのり上気した肌。

呼吸とともに上下する、ささやかに膨らんだ胸。


愛しい、この子の全てをこの目に焼きつける。

この、帰り道の30分。


どこが好きか、なんて分からなくて。

いつから好きかもよく覚えていないけれど。


だけど気づいたら私の世界は貴女でいっぱいだった。


学校での貴女はクラスの中心で、いつもみんなに囲まれているから私はその他大勢にしかなれない。


けどこの時間だけは。


貴女の隣にいるのは私だけ。


彼女の耳から外れたイヤフォンからは流行りのラブソング。

田舎の、しかもこんな時間の電車なんて他に乗客もいないから、やけに耳に響く。


安っぽい、愛とか、恋とか。


そんな言葉を並べた歌が、貴女も好きなのかな。


首を少し横に曲げて、彼女の頭に自分の頬を擦り付ける。

柔らかい髪から、最近変えたらしいシャンプーの甘い匂いがした。


最近、急に綺麗になった貴女が、誰かに恋をしているのは明白で。


きっと、きっとそれは私以外の誰かだって、私、知ってるわ。


それを否定したりしない、邪魔もしない。

だってこの思いを伝える気はさらさらないもの。


きっといつか、貴女はこの夕焼けの車内で。

『彼氏』になったその人の話をするでしょうね。


いいの。

私、その日を待ってるわ。


貴女の惚気を聞いて、おめでとうって言う日を。


貴女を好きになったあの日覚悟したもの。

どれだけ胸が傷んでも……私は貴女の幸せを、1番近くで喜べる友達でいようって。


でも、でもね。

今この瞬間。


夕焼けに染る、二人きりのこの世界で。

穏やかな吐息を立てて眠る貴女は私しか、知らないと。


そう、自惚れさせてね。


そしたら私は。

この夕焼けに貴女を、閉じ込めて。

2人きりで逃げてしまいたい、なんて烏滸がましい気持ちに蓋をして……貴女の前で明日も笑うから。


だからどうか明日もこの時間だけは。


(貴女を、独占させて。)

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