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93.ぎこちない会話

おじいちゃんの正体や如何に――!?


【変な事になったな】


(そうですね、まさか一緒する事になるとは)


 野営の焚き火を挟み、老人と向かい合って座ってはいますが会話はありません。

 私に何か用があるのか、探りたい事でもあるのかと思いましたが、ずっと喋る気配がないのです。

 コチラから用件は何なのかと尋ねても口篭るばかりで、それでいて何かを言いかけるという事を繰り返すのですから判断に困ります。

 いったいこの方は何がしたいのでしょうか? 目的も思考も読めません。


【俺様の気配は分かるんだよな?】


(悪魔の気配がしたと言っていたのですから、そうなのでしょう)


 面倒臭い事実です。この世界の強者には、ダンジョンの関係者を嗅ぎ付ける事が出来る人物が居ると目の前で証明されてしまいました。

 本体である【神核のダンジョン】から切り離され、アークも私の中に深く潜っている状態だというのに、どうしてあんな遠くから気配を感じる事ができたのでしょうか。


(気配を探れる秘密があるのなら探って、ただの実力というのなら、その時は――)


「――今、幸せか」


 声に出さず、アークと会話していると不意にそんな言葉を投げ掛けられる。

 前方へと視線を向ければ、焚き火に照らされた瞳がジッと私を窺っていました。

 質問の意図は分かりませんが、その内容に対して返答する事なら出来ます。


「幸せになる真っ最中」


 アークと二人で、この世界を面白可笑しく、誰にも縛られず奪われず、自由を謳歌する為に私は今ここにいる。

 それはそれとして、私からも聞きたい事がありますね。


「何処かでお会いしましたか?」


 率直に尋ねてみる。


「……いいや、人違いだ」


 数秒の逡巡の後に、老人は絞り出すようにそう答えた。


「名前をお尋ねしても?」


「……ジンライと呼ばれている」


(呼ばれている、ね……)


【強さといい、謎の多いジジイだな】


 どうやら本名を答えるつもりは無いようですね。


「……君はまだ子どもだろう? 両親はどうした?」


「母は殺しました。父は知りません」


「……」


【おいおい、正直に答え過ぎじゃないか? ジジイ絶句してるぞ】


 と言われましても、そうとしか答えられませんし、私はこれを偽るつもりはありません。

 まぁ、せっかく会話が進展したのに相手を黙らせてしまったのは失敗でしたかね。

 

「……君にとって、両親は……」


 数分の沈黙を経て、再び言葉を発したかと思えば、老人はまたもや口を噤んだ。

 そんな彼の様子に首を傾げつつも、先回りして答えてあげる。


「私にとって両親は敵ですよ。一人だけ逃げた父も、頭のおかしな母も、どちらも私に一度は自死を決意させた存在です」


「……そう、か……」


 それっきり再び押し黙ってしまう老人でしたが、私の方はもう一切の興味を失ってしまいました。

 彼が黙っていたいのであれば、もうそれで構いません。

 アークの呼び掛けも無視して、私は心の底で小さく疼いた古傷に蓋をして目を閉じる――


「目的地は教皇領だろう?」


「……なぜ、そう思ったのですか?」


 少しばかり、警戒心を引き上げる。


「数世紀ぶりに神器が表に出て来るという噂で、あそこは信者や観光客で溢れているからな」


「……そうですね、私も一目見れたらなと思いまして」


 なるほど、神器が移動する、あるいはお披露目されるのではないかと既に市井に広まっているのですか。


【記憶はどうだ?】


(そうですね……あぁ、ありました。これですね)


 今まで取り込んで来た人々の記憶の海を探り、求めていた情報を拾い上げる。

 これは、家族で神器を一目でも見ようと話していた女の子の記憶ですね。

 ふむ、という事は目の前の老人のカマかけ等ではなさそうですね。


「私も目的は同じだ。どうだ、道中一緒に行かないか?」


「なぜです?」


 面倒な申し出ですね。


「少女の一人旅は危険だ」


「私はそこそこ戦えますよ」


「それは分かってはいるが、大人として見過ごしてはおけない」


「……そうですか、勝手にどうぞ」


 あくまでも私は心から同意した訳ではないと、歓迎していないという雰囲気を前面に押し出しつつ了承する。


【いいのか? 道中の仕込みも出来なくなるぞ】


(逃げようと思って逃げられるとでも? あの動きを見たでしょう)


 どんな思惑があるのかは分かりませんが、本気で追跡されたら振り切るのは難しいでしょう。


(少なくとも都市まで行けば人混みに紛れる事もできますし、彼の大義名分も失効します。無理に避けようとして、私たちに何かあると確信を持たれる方が面倒です)


 確かに道中の調査や仕込みに支障は出ますが、後でいくらでも挽回できる程度のものです。

 どちらにせよ、私たちに気付かれない様にコッソリ後を尾けられる可能性もあったのですから、むしろ目の届く範囲で行動を共にできるのはマシな部類かも知れません。


【なるほどな】


「それでは、私は一足先に休ませて頂きます」


「……あぁ、見張りは任せるといい」


 貴方には任せませんよ。


【安心しろ、俺様がしっかりと見張っててやるからよ】


 えぇ、よろしくお願いいたしますね。

途中まで一緒!

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― 新着の感想 ―
一先ずはどちらかが死ぬまで争う事は無さそうですがいつかは殺りあいそうだなあ
謎のつよつよおじいさんは何者なのか!? それはそうと獲物が自分からやってくるとは……
悠里ちゃんのことを気にかけたり、両親についてダメージを受けたり、やっぱりパパんか? 正体が判明する時と末路が愉しみです! 次に来る集団は一般野盗かどこかの騎士等の組織所属の人間か楽しみです!
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