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85.踊る夢その4

昨日は更新が間に合わなかったぜ……


 寒い、自らが流す血が温かい。

 肺を一つ喪い、呼吸も浅い。

 寒さと痛みに震える余力すらなく動けない私を、優しく抱き上げる誰かの温もりを感じる。


【二つの権能を同時に発動とか、無理をしたな】


「……、……」


 聞くだけで安心する声に、返事が出来ない。

 大きく喪った組織を快復させるため、新たに拡がった自らの一部が縮小する感覚がある。


【今はゆっくり休んどけ】


 眠りに就く前に、貴方を一目見たい――けれども私の目は未だ戻らない。






『ねぇ、カミサマ――わたし、アナタの事が大好きなんです』


 私の意思とは関係なく、私が憑依した女性は目の前の美しい男性(・・・・・)へと苦しそうに告白する。

 彼女の言葉を受けて、ラピスラズリのように青い長髪を地面まで流していた黒い肌の男性は、酷く悲しそうに微笑んでいた。

 今までの夢と違い、ハッキリと生前のアークと思われる男性の姿形を視認できるのは、それだけダンジョンを吸収したからか……そういえばあれからどうなったのでしょう? アークはきちんと【鎧筋】を得る事が出来たのでしょうか?


【私は人の世界では存在できぬ。忘れ去られた神に居場所は無い】


 逸れかかった思考が、その声に掻き消される。

 とても優しげで、苦悶の感情が容易に読み取れる声色、相手を尊重し気遣う丁寧な言葉遣い。

 アークは自ら「生前の人格を残している」と言っていましたが、私の知る彼とは全く印象が異なる。


『それでも私は! ……わたし、は……カミサマの事が好きなんです……好きで好きで、仕方ないんです……』


 相変わらず私は自らの身体を思い通りに動かせない。

 私の意思に反し、夢の中の私は目の前の存在に必死に愛を乞う。

 幼少期に迷い込んだ自分を保護し、森の外までの道を示してくれた時からカミサマに惹かれていたのだと。

 小さな祠を清め、何度も言葉を交わし、一緒に居たのは決して信仰心なんて綺麗なものではないと。


【今の私に許された領域はこの祠の周囲のみ。ここから離れる事は依り代を持たぬ私には出来ない】


 カミサマが指し示す先にはダンジョンの玉座と意匠が似通った、不思議な祠がある。

 その祠を中心に大人が数歩だけ移動できる程度の小さな一帯が、そのカミサマが存在する事を許された領域であると直感的に認識できた。

 あまりにも狭く、まるで独房のようで……ここから一生出られないとなれば何とかして助け出したいと思ってしまう。


『だったら私が! 私がアナタの依り代になります! 巫女になって、布教して、人々にアナタの存在を思い出して貰います! アナタと一緒なら何処だって怖くないし、この場所で朽ちたって構わない!』


【其方は未来ある人の子――いずれ滅びる神と心中するものではない】


『でも私は――』


【其方は神という存在と親和性が高い稀有な才能を持っている。私ではなく、あの女神に仕えれば生涯苦労せず暮らせるだろう】


 拒絶されているのは一目瞭然だった。

 私が経験した事ではないのに、まるで自分の事のように酷く胸が締め付けられる。

 彼女が流す涙が、私のものであると錯覚してしまう。


『私の、神は……カミサマだけです……』


【いずれ死ぬ、死んだ神に執着してはならない】


 カミサマが私の事を想って拒絶してくれているのは分かる。けれど、私はそれでも長年育んで来た愛情を捨て切れなかった。


(アンスール)(ラド)


【なにを――】


 私はカミサマに教えて貰ったルーン文字を描いた。


『そんなんじゃ、納得できないから』


 自らの想いの強さを形にするため、そしてそれを彼の心に届けるために。


【――】


 この時、初めて私の想いの強さを直に感じ取ったカミサマは驚きに目を見開いていた。


『私の気持ち、ほんの少しでも分かってくれました?』


【あ、あぁ……】


『だったら、正直に返事をください』


 少しばかり咎めるような声で、カミサマに詰問する。


『気遣いとか、立場とか、そんなの全部取っ払ってカミサマが本当はどう思ってるのか教えてください』


【……】


『……その上で、カミサマが拒絶するなら諦めます』


 自分から尋ねておいて、答えを聞くのが怖いと耳を閉じたくなる。

 不安と恐怖から目をギュッと瞑って俯いた。


【すまない】


 聞こえて来た言葉に涙をポロポロと零す。


『――……』


 強がりを発しようした唇を塞がれ、耳元で――を囁かれる。






 瞼を開けば見慣れたダンジョンの天井があった。

 玉座の間の隣に作成した、自室のベッドの上に寝かされているのだとすぐに分かった。

 以前よりも明瞭でいて、意味不明な夢の内容を反芻しては疑問が湧き上がり、そして何故か不機嫌になる。

 生前のアークが何処で誰と何をしていようと別に私には関係ない筈なのに。


「アークと言えば――」


 あの夢に出て来た青い髪の男性が、あれが生前のアークの姿なのでしょうか。

 なぜ今になって、いつもは印象に残らず、モザイクが掛かっていたような姿をハッキリと視認する事が出来たのか。

 やはり【鎧筋】と、【鎧筋】が既に吸収していた一部を得る事が出来たからなのか。

 だとすれば、もしかすればアークの姿形も変わっているのでは?

 【隻眼】を吸収する事によってアークは片目を取り戻せた……では筋肉に該当するダンジョンを吸収する事によって、あの鎧を纏った炎の様な見た目から何かしらの変化が起きているのでは?

 それこそ、あの夢に出て来た男性のような――


【呼んだか?】


 天井を見詰める自らの視界にひょっこり入って来た醜悪な獣(・・・・)を視認して、思わず反射的に言葉を口にする。


「――誰だお前」


 いつもの姿でもなければ、夢に出て来たモザイクでも青い髪の男性でもなく、隻眼の醜い獣という全く予想していなかった姿にちょっとした混乱が私を襲った。

人外がイケメンになると思ったら大間違いだぜぇ!


アークはこのまま人化なんてしねぇ!一生このまま醜い獣の姿のままだ!


ヒャッハー!美少女と醜悪な獣のカプ最高!悪魔なんだから仕方ねぇよなぁ!?(性癖に忠実)

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― 新着の感想 ―
誰だお前 で草
どんな進化したんや!?笑
別に面食いって訳では無いでしょうけども思ってたんと違う変化してたらそらそんなセリフも出ますわw
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