79.頭の痛い光景
悠里ちゃんはどう対処するのか!?
「っと、これは……」
【攻めて来たのは人類だけじゃなかったみてぇだな】
慌てて元隻眼の領地を確認してみれば、地表部にあったルツェルンの街が丸ごと消滅しているのが分かる。
それを為したであろう、アークの同類と小さな女の子を視認すると同時にダンジョンの監視機能では見れなくなってしまう。
恐らくルツェルンがあった一帯を奪われたのだろうと予想が付きますが、あそこまでの破壊行為をする意図が読めません。
「破壊した方が領域を奪い取り易いとかありますか?」
【まぁ、殴って弱らせた方が多少は有利になるか……? だが積極的に行うほどの利点はねぇと思うぞ】
「相手の権能やルーン文字が何か悪さしてる可能性はありますね」
どちらにせよ情報がありません。
そんな状態で必死に考え込んでも妄想や推測
域を出ず、先入観を生んでしまっては直接対峙した時に足下を掬われるでしょう。
現状で判明している事、起きている事実のみで考えるべきです。
「神核に人類の先遣部隊、隻眼に何れかのダンジョン。前者は足止めが効いていますが、放っておけば次々と侵入者の数が増えて来ていずれキャパオーバーになるでしょうし、後者は未だ復旧に至ってない隻眼の領地を大した妨害もなくそう時を経ずに奪ってしまうでしょう」
優先順位は……やはり宣戦布告して来たダンジョンを先に潰すべきですね。
人類側は改装したばかりの地形や罠が時間稼ぎをしてくれるでしょう。
速攻で敵ダンジョンを撃退、ないし吸収し、そして返す刀でアデリーナと呼ばれていた女性が率いる部隊を潰す。
「悠長に高みの見物をする暇は無くなりましたね」
【今度は隻眼の時と違って相手の本拠地を奪ってもいなけらば、弱らせてもねぇ……いきなりぶつかって大丈夫か?】
「しかしダンジョン相手に罠や配下を増やしても奪われるだけでしょう」
【奪われない戦力があるじゃねぇか】
「いったい何のことを――あぁ、そういう事ですか」
そういえば隻眼のダンジョン内部には未だに居座っている方々が居ましたね。
神核で時間稼ぎをしている間に、隻眼の地形や罠を変更し、また配下のモンスターで居座っている方々を誘導して敵ダンジョンにぶつけましょう。
彼らだけで倒せるとは思っていませんが、少しでも相手のリソースを削れるのであれば構いません。
ついでに復旧の邪魔になっていたゴミを処分できて一石二鳥ですね。
「後は――……あー、なるほど……」
相手ダンジョンと領域の奪い合いが起きた事により、私も相手のダンジョン本拠地が何処にあるのかを知る。
エスタライヒ公国のインスブルックという都市の様ですね、ルツェルンがあるシュヴィーツ誓約同盟とは隣国の関係にあります。
恐らく場所が近いからこそ私と隻眼の抗争をたまたま知れたのでしょう。
いえ、隻眼との近さなどを考えるとお互いに前々から存在を認知していた、あるいは接触していた可能性がありますね。
なんらかの事情で不可侵条約でも結んでいたのかも知れません。
「一応コチラにも配下を差し向けましょう」
のブランクルーンを刻んだ宝石を持たせた配下を大量に送り込み、せめて地表部の人が多く住む収入源だけでも奪い取りたいですね。
「……視線が切れたな」
「隊長?」
「いや、なんでもない」
ダンジョンに足を踏み入れた時からずっと纏わりついていた何者かの視線がふと途切れ、続いてダンジョン全体の雰囲気が変わったように感じられて思わず眉を顰める。
この神核のダンジョンに何か不測の事態が起きたのかも知れない。それが私達に有利に働くものであれば良いが、そうでない可能性を考えて警戒すべきか。
だが現状では私の直感以外に根拠はなく、何に警戒すれば良いのかも分からないのでは部下たちに注意のしようがない。
「ダンジョンとは本当に面倒臭いものだ……」
「隊長! 鍵が開きました!」
「慎重に開けろ」
「はっ!」
斥候からの報告で我に返り、今まで私たちの歩みを阻んでいた扉へと向き直る。
上手く仕掛けられていた罠と一緒に鍵を解除したらしい斥候が、慎重な手付きで扉を開けるのを他の部下たちと一緒に警戒しながら見守る。
「……なんだ、これは……」
扉が開くと同時に視界に飛び込んで来た強い光――瞬く間に赤、青、黄、緑と、切り替わっていく強い原色の光に思わず目を背けたくなる。
目に痛いその光の先には上下左右前後の全てが鏡張りになっている通路が続いているのが確認でき、そして網膜への衝撃に続いて甘ったるい匂いが鼻に届く。
「一旦閉めろ」
「はい」
扉が閉ざされ、無意識のうちに強張っていた肩から力が抜ける。
「なんだ、今の通路は……」
「すごく頭が痛くなる光景でしたね」
「全方位が鏡張りなせいで、何処に目を逸らしてもあの派手な光が目に飛び込んで来ますよ」
「下水の次は香木か何かか? 鼻が馬鹿になっちまうよ」
「鏡張りのせいで距離感も掴めず、正解の通路も見逃してしまいそうだな。敵と遭遇した時も厄介な物となる」
口々に不満を述べる部下たちに私も声を大にして同意したい。
たった数秒ほど部屋の中を覗いただけなのに、未だに視界がチカチカとしている。漂ってきた香りも強く、胸焼けがする思いだ。
あんな環境で戦闘や野宿など、出来る事ならば避けたい。
「他に道が無いか探るぞ」
「無かった場合は……」
「あれを進むしかあるまい」
無言で拒否感を示す部下たちを睨み付け、他に道が無いか周囲を探索するべく歩き出す。
私だってあんな道は進みたくはない……だが、何となく、私の直感が「あの道に進むしかない」と告げていた。
スマホとかで電光に慣れてる現代人でもキツイと思う()




