73.大改装その2
ルービックキューブって難しいよね
「さて、次は地下部分ですね」
【ここはどうするんだ?】
「立体パズルにします」
【あ?】
地下からは全てのエリアを正立方体で区切り、全体図を浮かび上がらせた時に巨大でブロックの数が多いルービックキューブの様な構造にします。
ポイントとしては数箇所ほど何もない空洞を態と作っておく事です。これにより、侵入者達が居ないエリアを上下左右前後に自由に移動させる事でそれまでのマッピングを無意味な物としながら、侵入者ごとに有利な地形へと誘い込む罠としても機能させます。
注意点としましては、ブロックの移動の仕方によってはダンジョンが呼吸不全に陥る事ですね。なのでここら辺はよく計算しながら行わないといけません。
しかし、それさえクリアしてしまえば後はもうやりたい放題です。ダンジョンの情報を外に持って帰るなんて絶対にさせませんし、地下部分にまで拠点を築こうものならグシャグシャにしてやります。
【何だか頭がこんがらがりそうだな】
「……早めに【脳髄】を手に入れておいた方が良さそうですね」
【どういう意味だコラ】
こんなもの、ちょっと難しいルービックキューブでしか無いですよ。
「それぞれのブロックはとにかく侵入者達を休ませず、疲弊させる事を目的とした部屋作りをします」
【無視しやがって……疲弊させるって、地表部だけじゃ足りねぇのか?】
「人を呼び込むお宝も存在せず、なんの旨みもないあの地表を突破して地下まで潜る者はダンジョンの破壊を目的としているとほぼ断言できます」
【あ〜、そうかもな?】
「そんな人物は恐らくこの世界でも強者の部類に入るでしょうし、生半可な即死トラップは通用しないと考えて、それよりも地形効果に重きを置きます」
即死も狙えるならば狙っていきますが……例えばダンジョン地表部の都市を落とす上で最大の障壁であった、ジョット騎士団長には落とし穴などは全く通用しませんでした。
最終的には亡き娘を人質に取る事で勝ちを納めましたが、やはりもっと工夫をすればもっと弱らせてもっと楽に倒せたと思うのですよね。
「なので途中から光、音、臭い、それらで五感を刺激して脳を休ませない構造にします」
壁や床、天井など360°何処を見渡しても鏡張りの部屋に青や赤など原色に限りなく近い光を絶えずランダムに点滅させ、極彩色に彩っていく。
遠近感が狂い、目が疲れやすくなるそこへさらに眠気を誘う効果のある香を焚いて集中力を途切れさせながら、モスキート音のような甲高い音を常に流し続ける。
そうする事で見えない精神的な疲労が蓄積していき、注力が散漫になる筈です。
「そして肉体を疲労させる高温多湿です」
【地上とは逆か?】
「そうですね、地表部の様子から準備した物を無駄にして差し上げます」
防寒具はただの荷物となり、その分もっと水を詰められただろうと軽く絶望して欲しいですね。
そしてこれらの罠は地表部からチラ見されて準備されるのを防ぐため、二段目以降のブロックに配置します。
地表部から暫くは従来の水流と落とし穴をメインにしたエリアにしましょう。
ダンジョンの改装や拡大はDPさえ消費できるのなら、パパっとすぐ終わるのが良いですね。
「ここまで用意した全てを突破した者を迎え討つ決戦エリアを作成して、大まかな物は全て完成です。後は細かい部分を少しずつ時間を掛けて詰めていきましょう」
【下水にたった一部屋しか無かった頃に比べりゃ、随分とまぁ成長したもんだ】
「あれは酷過ぎましたからね」
封印されてから長い時間を掛けて地脈から汲み上げたリソースを、全て私を召喚するのに使ったというのですからアークも大概ですよね。
【――まぁ、俺様は別に後悔してないがな?】
「……そうですか」
私の考えを読んだのか、指先で私の顎を持ち上げ、目線を合わせながらそんな事を言うアークに何と返せば良いのか分からない。
自らの目を取り戻してから、彼はこうやって度々私と視線を合わせようとしてきます。
視線を横に逸らせば顎から頬に手を移動させ、親指で目の下を撫でる。
【嫌か?】
「……少し慣れないだけです、人と視線を合わせるという経験もあまり無いので」
【そうか、頑張って慣れろ】
「……善処しましょう」
頬から手を離し、私の髪を一房手に取って弄り始めたのをそのままにしてあげて、誤魔化すように咳をしてから元隻眼の領地を画面に出す。
「元隻眼の領地は復旧に時間が掛かりますね」
【先ずは生き残りの人間共を駆逐しねぇとだしな】
「えぇ、その上で復興という事になるでしょう」
アークが優しい手つきで私の髪を梳かしていくのを感じながら、元隻眼の領地の情報を流し見していく。
突然ダンジョンで異変が起こり、地上と連絡の取れなくなった各地の拠点では混乱状態が続いている様ですね。
他の拠点と連絡を取ろうとしたり、減っていく物資の状況に焦って何とかダンジョンを脱出しようとしているのが分かります。
地上部に近いほど戦争の余波を強く受け、築かれた拠点は壊滅しており、拠点が無いのであれば改装を行って彼らが持っていた既存の地図を無駄にできる。
今の彼らは減っていく物資の状況に焦り、地形の変わったダンジョンに驚き、それでも何とか残された時間内に脱出しようと足掻いているところ。
「折を見て引導を渡してあげましょう」
【深い場所に居座ってた奴らほど強いらしいからな】
「えぇ、現に一番深い拠点に居た者たちは脱出ではなく攻略を目指すみたいですね」
ただまぁ、隻眼の玉座は私達が吸収したのであるのは《迷宮の種》によって生み出した擬似心臓なんですけどね。
「彼らを随時排除しながら、隻眼も同じく立体パズル式に――おや?」
ダンジョンとしての私の感覚が、侵入者の存在を捉える。
「割と早かったですね」
【しかもこっちか】
「それだけ神核が怖いんでしょうね」
今まで遠巻きに陣を張られ、監視されていたのは知っていましたが、いよいよ攻略に乗り出すらしいですね。
地表部の都市へと多くの人間が整然とした列で入り込んできた様です。
「さてさて、早速用意した罠がどれだけ効果があるのか……見物ですね」
【高みの見物とは余裕だなァ】
「まぁ、事実として余裕ですからね」
慌てるにしてもまだ早いでしょう。今のうちから焦っても良い事はありません。
それよりも彼らの事をしっかりと観察し、もしも地表部が攻略される様であれば新たな罠なども考えなければいけません。
「ま、気楽にいきましょう」
【そうだな】
侵入者達にはなるべく多くの罠を踏み、それぞれの効果のほどを確かめて貰いたいのですが……どうでしょうね?
どの程度やれるかな?




