72.大改装
ダンジョンを改装していくぜ!
さて、では先ずは【神核】表層部の都市を升目状に別エリアとして予め区切っておきます。
隻眼がそうされていたように、ダンジョン内に陣取られて改装などが出来なくなる場合に備えるのと、侵入者達を分断しやすくする為です。
表層部にはそのまま都市としての外観を残し、各建物には様々なトラップや配下を配置して、建物を利用しようとした侵入者達を安易に休ませないようにさせる。
その上で、常に広範囲に渡って計算された位置に『風石(特大)』と『氷石(特大)』を設置する事で、屋外で寝泊まりする際に体力を奪えるように、また悪霊がこっそり活動しても気付かれにくくします。
【そうか、人間は気温も脅威になるのか】
「そうですね、屋内はモンスターだらけ、屋外は氷点下の極寒ともなれば攻略するのに必要な物資も多くなりますので彼らのリソースを削れます」
何もしなければ体温を奪われ続けるのですから、防寒具はもちろんのこと燃料の消費も激しくなるでしょう。
「冷たく乾燥した空気はそれだけで病気に罹りやすくなりますし、レイスが近付いた時特有のヒンヤリとした違和感も誤魔化せます。朝起きた時に冷たくなっている仲間の死因が凍死なのか、病死なのか、それともレイスによる呪殺なのかは直ぐに判別が付きません」
【ダンジョンを冷やすだけで三つも死の可能性を作れるのか】
「適当にゾンビでも徘徊させておけば、それだけで疫病のリスクは上がるでしょう」
【でもそれだけで勇者達を足止めできるか?】
「これは勇者達というより、彼らを後方支援する者たちに対する……所謂足切りのようなものなので大丈夫ですよ」
全盛期のアークと渡り合えたという勇者達がこの程度で死ぬとは思えませんか、非戦闘員なら話は別でしょう。
ただの洞窟型のダンジョンとは違い、ここに拠点を築くのはリスクだらけです。しかし後方の拠点を築き、運営する上で必要な人材の誰もが戦闘技能を有している訳では無い。
彼らが死なない様に厚いサポートをすればするほど、築いた拠点の守りを固め、室内を暖め、絶えず医療を受けられる様に環境を整え続けるのは地味ながらも痛い出費を相手に強いる事が出来ます。
「ま、要するに少しでも相手のDPを削る為の罠ですね」
【それを厭って拠点を築かなかったら?】
「それならそれで構いませんよ。無い方が良いのですから」
【そりゃそうか】
拠点なんて築かれない方が良いに決まってますが、ここに築くのでしたら通常よりも割増になりますよという事です。
さらに言うのであれば、サポート要員は勿論のこと、更なる拠点を築く為に棟梁などを奥へと連れて行くのを躊躇ってくれれば万々歳ですね。
【ダンジョンの建物がそのまま利用されたら?】
「なんとビックリ、ダンジョンの建物の床は全て落とし穴になっているのです」
【ひでぇなオイ】
どんだけ侵入者達を雨風に曝したいんだよというアークの突っ込みをスルーして、更なる改装を行う。
表層部から地下エリアへ到達する為の階段を無作為に選んだ数箇所に作り、そして何時でも閉ざせるようにします。
【……なるほどな、侵入者が近づいた入口を閉ざし、遠い場所を開くのか】
「そうです、要は呼吸が出来れば良いのですから、その都度で鼻呼吸か口呼吸か選べば良いのです」
【やけに多い鼻と口だな】
「といっても五つ程度ですよ」
少な過ぎてもダメですが、あんまり増やしても、人海戦術を取られた時により多くのルートを相手に渡す事になるだけですからね。
「そして都市を囲う城壁に指を掛けられる程度の出っ張りを用意します」
【……なんの為に?】
「玉座と繋がるルートを確保しながら、もしもの時は水攻めする為です」
表層部に作る地下への階段の一つを城壁の上に開き、その上で城壁内を水で満たして溺死させるトラップを作成します。
城壁の上部に内向きの門をそれぞれ配置し、内部に『水石(特大)』と『毒石(特大)』を大量に設定しておく。
こうする事で、私が任意でトラップを発動すれば水門が開き、都市へと大量の汚染水が流れ込むという訳です。
「洪水に流されながら目や口から入る毒に、絶えず身体の熱を奪っていく冷気、城壁の頼りない出っ張りを登ろうにも手は濡れ、濡れた箇所から足場は凍り付き、常に強風が自身を揺らし、そして汚染水の飛沫を運んで来る……そういった罠です」
【絶対に生きて返さないという強い意志を感じるな】
「人の家に土足で上がり込んで勝手に荒らしていくのですから、当然の末路でしょう」
そうですね、ついでに城壁それ自体にも等間隔に『風石(特大)』と『氷石(特大)』を設置しておきましょうか。
都市内部がさらに冷える事になるのは勿論のこと、水責めから逃げようと足掻く方々の体勢を崩し、そして足場を滑りやすくしてあげましょう。
「後はまぁ、適当に夜中に行う睡眠妨害などを詰めれば表層部は完成です」
【徹底してんなぁ】
当然です。もう二度と奪われはしません。
巨大な水洗トイレの完成()