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手紙

作者: 紀希



いつもの様に広告だらけのポストから。


入っているであろう、私宛の郵便物を取る。



玄関の鍵を開けて、無造作に。


ゴミ箱へと放り込んだそのひとつに。



古い紙が入っていた。



「ん?」



拾って、よく見ると。


それは手紙だった。



だが。宛先も宛名も、何も書いてはなかった。



間違いなのかと思い。


私はそのまま手紙をポストへと戻した。



暫くして。その手紙の事も忘れていた。



溜まった郵便物を、またいつもの様に取り出す。


そして流れる様にして、そのままゴミ箱へ。



「ん、、??」


ゴミ箱の中にあったのは、古い手紙だった。



「誰だよ。。」


その時には、封を開けてしまった。



『いかがお過ごしでしょうか。



私は、皆さんのお陰で、


何とか元気にしております。



風が少しずつ冷たくなって来ました。


御体には十分気を付けて、、』



丁寧な文章に。


綺麗な文字。


体調が悪いとかそういうものなのだろうか、、



でも、誰かを心配している様で。


私は何だか少しだけ、気になってしまった。



『いかがお過ごしでしょうか。



久しぶりに絵を描いてみようかと思ったのですが、


私には絵の才能が無い事を思い出しました。



どうやら芸術よりも、食欲の方が勝る様です、


御体には十分気を付けて、、』



度々来る手紙を読み。


そして何故だか。


その手紙に、温かみを感じた。



『いかがお過ごしでしょうか。



臭いの濃い食べ物は苦手ですが。


銀杏というのは、中々の美味でした。



大人になってまでの好き嫌いは良くありませんね、


御体には十分気を付けて、、』



こうして。私は、いつからか。


ポストを頻繁に、確認する様になった。



開ける度に。


手紙を探していた。



手紙を待ちわびて。


何だかそわそわもした。



もう、来ないのかも知れない。


と思っていた時。


手紙はまた、不要な物と一緒に入っていた。



私は手紙に、喜びを感じた。


同時にドキドキと、ワクワクも。



たかが紙一枚に心を踊らせたのだ。



『いかがお過ごしでしょうか。



葉が落ち。風に吹かれ。


それらが交わる音が、少し寂しく感じます。



温かい食べ物が美味しく感じられる季節になりましたね。


御体には十分気を付けて、、』



私はようやく返事を書いた。


宛先も宛名も書かない手紙を、私も書きたくなった。



レターセットは既に文具屋で買って置いた。


話したかったのだ。



誰かも知れない相手。


、、おかしな話だ。



文通。


生まれて初めての対話のやり取りの手段を用いた。



でも。なんて書いたら良いのか、、



何せ、初めての事だったのだから。



考えに考え抜いた挙げ句。


私が書い文章は。



『今度。


一緒に、散歩でもいかがですか??』



だった。


しょうもない、文章だと思った。



、、他には浮かばなかった。


これが私の限界だ。



文章を書く時は手が震えた。


すごく緊張した。



こんな感情は久しぶりだった。


手紙とは、こういうモノなのか、、



私は手紙を自分のポストへと入れ。


入れたその瞬間から。



返事が来るのが、もどかしかった。



だが。いつまで経っても。


何度ポストを開けようとも、、



ゴミ箱は要らない紙で溢れていた。



季節が変わり。


葉が無くなり。



年の瀬が、もうすぐそこに来た頃に。



ポストの中に、古い手紙が入っていた。



私は再びドキドキとした。


血液が脈打つのを感じた。



入っていた手紙を丁寧に持ち帰り。


テーブルの上に置いて。


ゆっくりと、深呼吸をする。



「よしっ、、」



だが。


手紙の中は、いつもとは違う文字で、


こう、書いてあった。



『稲荷様の神社を綺麗にして欲しい。



必ず、"鳥居を潜る様にして"入って下さい。』



その瞬間。


行った事の無い場所や。


その背景が。


全部私の頭の中に浮かんだ。



考えるよりも先に。


身体はその場所へと、急いで向かっていた。



文通の相手と



"逢えるかもしれない"



期待と、不安と。


定かでは無い、謎の確信。



頭の中通りの場所へと。



辿り着いた先の山の中の道にあった鳥居は、意外に小さくて。


浮かんでいたのとは、違った。



「これを、、



潜る??」



小さな3つ並んだ鳥居。


その先には、小さな祠があった。



地面を這う様にして。


ゆっくりと鳥居の中を潜るが、、


大人が通るには、だいぶ小さかった。



「っし、。



、、あっ!」



最後の鳥居に。


腰がぶつかってしまった。



「ぁああ、、」



古い鳥居だった為。


壊れてしまわないか心配だった。



潜り終え、鳥居を見ようとしたが。


目の前の景色が変わっていた事に気が付いた。

 


「えっ、、」



そこには、古い神社があった。



「、、ここは」



まるで化かされているかの様に。


さっき居た場所とは、違う世界だった。



近くの木に。


分かりやすい様に立てられていたホウキを見付け。


手紙の内容を思い出す。



私は身体を叩き、直ぐに掃除を始めた。



ザッ、ザッザザザッ、、



枯れきった葉や。折れた木々を集め終えた頃。



ふと、誰かの気配がした。



「、、ぁっ」



そこには、手紙を持った女性が居た。



私は胸ポケットからゆっくりと大切な手紙を取り出し。


軽く会釈をしたのだった。



「はじめまして。」














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― 新着の感想 ―
[一言] 古びた手紙から始まる不思議な文通にとても心惹かれました。 インターネット全盛のこの時代において、なかなかする人も減ったであろう文通。 昔手紙をやり取りしていた時のドキドキした気持ちを思い出し…
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