ファンシーカラーダイヤモンドを見る際の作法について
こんな作法なんてありません。
ダイヤモンドといえば、ほとんどの人が無色透明を思い浮かべるだろう。事実、ダイヤモンドは透明度が高ければ高いほど価値が高く、逆に透明度が低いものや黄ばんでいるものは価値が低いとされている。
しかし、色が付いているダイヤの全てが価値が低いものかというと、そうではない。これをファンシーカラーダイヤモンドと呼ぶ。その価値は色の種類によってばらつきがあり、例えばイエローの場合はDからZまであるカラーレスダイヤのカラースケールの内、Z以上のものをファンシーイエローと呼び、最上級のFancyvivid(彩度が高く鮮やかなものに与えられる評価)の評価を受けたものは、Dカラーのカラーレスダイヤと同等、或いはそれ以上の価値を持つと言われている。イエローやブラウンダイヤはカラーダイヤの中でも産出量が多いため、ファンシーカラーダイヤモンドの中では一般人でも手が届きやすく、一〇カラット以上のものも珍しくない。
ファンシーカラーダイヤモンドは、彩度が高く、鮮やかであればあるほど希少で、さらに、内包部や傷などのクラリティーの度合いによってその価値に差が出る場合がある。
さて、このファンシーカラーダイヤモンドだが、実は、見る際の作法というものが存在している。その歴史は明治時代にまで遡るとされ、最古の文献は大正時代に出版された『金剛名石図譜』という有名なダイヤモンドを網羅した図鑑に掲載されている『金剛彩石鑑賞の手引き』である。これは、山田瑞悦という人物により記されたもので、ファンシーカラーダイヤモンドを見ることを『拝見』と、いう。基本的には個人的に楽しむものであるが、自らのコレクションを披露する場合は、持ち主を主人と呼び、呼ばれた側を客と呼んでいる。
拝見の手順としては、まず、目の前に盆を置き、その上に黒いフェルトを敷いたのち、ルースケースとピンセット、ルーペを置く。次にルースケースを持ち、もう片方の手で底を押さえるようにしながらまず、正面を拝見する。次に、時計回りにルースケースを回しながら四方向から拝見したあと、ルーペで内包物を確認してからルースケースを置いて蓋を開けてからピンセットでダイヤモンドを裏返して、姿を拝見したあと、ルーペで裏側を拝見してから見どころを述べたあと、元に戻す。
また、他人のダイヤモンドを拝見した場合は、主人に向かって一礼してから盆の正面を主人に向けて返す。この時、他に人がいる場合は、主人に返さずに次の人に回す。
同書では、ファンシーカラーダイヤモンドの見どころを『地色』『差し』『雑味』『辛味』『姿』の五つに分けて紹介しており、これらの特徴を総合して景色と呼んでいる。
まず、『地色』と『差し色』についてだが、ファンシーカラーダイヤモンドには二つ以上の色で構成されたものがある。『地色』は、メインとなる色を指し、『差し』は、補助となる色のことを指す。また、『地色』は、主に、並み、やや強し、深い、暗い、鮮やかの五段階に、『差し』は、なし、弱く、やや弱く、並み、やや強し、強し、の六段階に分類される。
次に『雑味』と『辛味』だが、これはダイヤモンドの内包物とテリを指す。『雑味』は、内包物を指し、なし、少なく、やや少なく、並み、やや多く、多く、の六段階に分類されている。
『辛味』は、ダイヤモンドのテリを指し、弱い、並み、やや強い、強い、の四段階に分類され、テリの良いダイヤモンドは、日本刀と同じ《凍れる美》であり、優れた刀剣愛好家は優れたダイヤモンド愛好家であるといわれている。
『姿』は、言うまでもなくダイヤモンドのカッティングを指しており、悪し、並み、良し、の三段階に分類されている。
これらの見どころは、ダイヤモンドを拝見したあと述べることになっており、例えば、ファンシーブラウニッシュイエロー I1 ラウンドブリリアントカットの場合は、以下のようになる。
地色黄色で、並み、差し茶で弱く、雑味やや多く、辛味並み、姿、円形でよし。
この他にもダイヤモンドを見て、色や内包物から和歌や自然の情景を思い浮かべる『見立て』や銘を付ける『名づけ』などがある。