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異世界に来てまで働きたくないでござる症候群  作者: 明和里苳


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今回も、読んでくださってありがとうございます。

後日談2話目です。

 オーエンたちの音楽活動は、やがて一つの楽団を形成し、それをウントとドランクが動画にして配信を始めた。異世界の楽器を練習し始めたばかりの彼らの腕前は、彼らの長い寿命に裏打ちされた知性やスキルをもってしても、一般的な市民楽団の域である。だがしかし、その様子は、異世界でもって「異色のコスプレ楽団」として好意的な目で受け入れられた。


 彼らは、心の底から音楽を楽しんだ。神によって最初期に創造された精霊、その精霊のすえである。よってエルフ族は、後進の種族の手本であり、目標であり、教師であった。彼らが他の種族から後塵を拝することなど、これまで一度たりともなかったのである。だが、異世界の人類は、彼らの歴史よりも遥かに短い間に、そのわずかな寿命を燃やして、彼らが築いたものとは全く異なる文化文明を築き上げた。先人の磨き上げた芸術を、なぞり辿り、学んで追いつこうとする、その道のりの何と楽しいことか。


「しかも、彼らは短い間に次々と新たなものを創造していく。たったの10年で、彼の人類の音楽は一変しました。これからもより速度を増して変わり続けるでしょう。ああ、我らは何という僥倖に出会えたことか」


 そう言って、オーエンに真っ先に洗脳された側近が五体投地を始める。もう最近はいちいちツッコミを入れるのもアレなんで、放置することにした。


「音楽の根底の部分は変わっていない。我らの知る音楽の体系、原型、それらとあなたがたの音楽の基になっている基礎の理論は何も変わらないのです。ですが、そこに更に混濁と洗練を繰り返し、混沌としながらも更に枝葉を伸ばして栄えようとする。あなたがたの音楽の力は、生命力そのものです」


 オーエンは途中から涙を流しながら静かに解説する。言ってることは難しいが、何となく分かる。エルフの音楽って、洗練されすぎてて、シュッとしているのだ。泥臭さが無いというか。人類の音楽の未完成なところが、逆に彼らに受けているのかもしれない。


 彼らの音楽活動は、まずはオーエンがハマったクラシックから、ジャズ、邦楽、その他エスニックミュージックまで多岐に渡った。それぞれ愛好家が生まれ、楽しそうに音楽を語り合う。マーラーの壮大さとかブラームスの生い立ちとか、私に話を振られても分かんないし。そう返すと、エルフたちは私がたった27歳であることを思い出し、また五体投地する。彼らからすれば、27歳は乳飲み子なのだ。そして27歳で既にオーエンよりも強力なステータスを持つ。さながら生まれた瞬間に「天上天下唯我独尊」とのたまった彼のような扱いである。おかしいな、私ついこないだまでフツーのOLだったんだけど。


 そのうち、彼らの中からシンセサイザーや軽音楽を志す者が現れた。いち早く現代のテクノロジーを習得し、使いこなしているウントのところにも、ちらほらエルフが教えを乞いに現れるようになった。最初はドワーフたちも「あの気位の高いエルフ族が」と驚いていたが、好奇心と向学心の塊である彼らはすぐに打ち解けた。ウントによると、


彼奴等きゃつらは風の精霊の裔、音の妙味に惹かれるんじゃろう。我らは土と火の精霊を親に持つ、じゃから物質を変質させて動力で動かすことに抗いがたい魅力を感じる。これまで我らが交わることがなかったのは、その性質の違いなんじゃろうな」


 そして、音楽という共通点でもって、風と土と火が交わることで、こうして互いの種族に調和が生まれる。お主は奇跡のような人族じゃ。こう言い終わると、彼はそっぽを向いて鼻を鳴らした。いつもの照れ隠しである。ウント、何気にいいヤツである。


 そう感動していた時期が、私にもありました。


 やがてエルフたちはウントから音響機器や打ち込みの技術を学ぶと、次第に時代の最先端の方向へ暴走していった。時系列で言うと、ロックバンドやパンクバンドからの、ビジュアル系エルフバンドの発生。歌って踊れるアイドルグループの誕生。楽園に売り出したブロマイドは飛ぶように売れ、一躍エルフたちの主な収入源に爆上がりした。


 その後、打ち込み系に情熱を燃やしたエルフの間では、人工音声を使った歌聖・歌姫を開発。語学が堪能な彼らは、瞬く間に各国語に対応した歌聖や歌姫を開発し、電脳歌聖・電脳歌姫の世界に殴り込み参戦した。彼らは競合するどころか温かく迎え入れられ、電脳世界に溶け込んで行った。時々エルフ族の会話から「ワイ」とか「草生える」とか聞こえて来たのは幻聴ではなかった。エルフ族、順応早すぎである。


 北側のエルフ居住区は、東側のドワーフ居住区と違う意味で、異世界のカルチャーおよびサブカルの洗礼を受けていたのだった。

後日談2話目、エルフ居住区編はこれで終わりです。

一旦これで完結させていただきますね。

また追加エピソードが書き上がりましたら、更新させていただきます。


いつも読んでくださってありがとうございます。

評価、ブックマーク、いいね、とても励みになります。

温かい応援、心から感謝いたします。

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