6話 ぶつかってきた女子生徒とモヤモヤ
「あ、ありましたわ!一番上に!」
サーシャはテストの結果を見て思わずそう言った。 入学するときに受けるテストなのだが、サーシャは全て満点であり、順位も一番だった。
サーシャは嬉しくて少し小躍りしてしまったが、幸い誰にも見られていなかったため、ほっと胸を撫で下ろす。 そして、入学式まで少し時間があったため、寮に戻る。
嬉しくて少し小走りに帰っていると、誰かが歩いてこちらに向かってくる。
誰だろうかと思ったが、その美しい金色の髪とスフェーンのような輝きを持つ美しい緑色の目は忘れようもない。
サーシャの愛しい人、ルタだった。
「あ、サーシャ!なんだ、ここにいたんだね。わざわざ寮に行かなくてよかったのか」
「ル、ルタ様!?なぜここに……」
「あはは。ルタでいいって言ってるのになあ。サーシャは真面目だ。……そんなところも可愛いけどね」
「ちょ、ちょっと、突然褒めないでください……」
サーシャは驚いて思わず声を上げてしまったが、ルタに会えたのが嬉しくて、急いで駆け寄ろうとした。
すると、前にあった曲がり角から人が突然飛び出してきて、ルタにぶつかったのだ。
「きゃあっっ!」
「わっ」
ルタとぶつかったのは学園の女子生徒だった。
サーシャと同じくらいの年で、ピンク色のふわふわとした短い髪がとても可愛い子だ。
きっと前をよく見ていなかったのだろう。
「ルタ様!?大丈夫ですか!?」
「大丈夫だよ。……そっちの子は怪我してない?」
「ぅあ、は、はい。大丈夫です。怪我はないで……」
「ルタ様。その子、足首を捻ったみたいですわ。保健室へ連れていかなければいけません。少し腫れているみたいですし……」
その女子生徒は足首を捻ってしまったようで、少し腫れている。
青くなってしまっていて痛そうだ。
「あ、平気ですよ!これくらい。ちょっと我慢すれば……。いたっ!?」
「だめだよ。そんな状態で動いたらもっと腫れてしまう。僕が運んでいこう」
「きゃっ!?」
そう言ってルタはその女子生徒を横抱きにして、保健室の方へ運んでいく。
ルタは足が早く、慌ててサーシャもルタについて行く。
「あ、あの」
「サーシャは寮に戻っていていいよ。彼女は僕が送り届けるし、すぐに戻るから」
「わ、わかりましたわ」
なんだか少しモヤモヤしたものが胸に広がったが、ルタの言葉を信じてサーシャは寮に戻ることにした。
寮に帰ってサーシャはすぐに寝室に閉じこもってしまう。
ベットの上で枕を抱えてゴロゴロと転がっても、全く気分は晴れない。
ルタがあの女子生徒を一人で連れて行ったから、なんだと言うのだ。少しの距離を運ぶだけだ。
だが、そう思ってもやっぱりまだもやもやしている。
(ルタ様……。私、邪魔だったのかな。ルタ様があの女子生徒を運んでいるのを見ると、なんだか黒いものがふつふつと湧き上がってくる感じがして……。ルタ様が取られたりしないか不安になった。…ルタ様は私のものじゃないのに)
そう思うと、今度は胸がズキンと痛んだ。
そして、ルタが自分のことをどう思っているのかが不安になってきてしまった。
「まだ私とルタ様は婚約しかしてないのに。第二王子の病気が治ったら、ルタ様は違う国へ行かれてしまう。それは嫌。おいていかれるなんて、絶対に嫌だわ。……追いかけるのもいいけれど大変だもの」
そんなことを考えていると、侍女のリンが寝室の扉をノックする音が聞こえた。
「サーシャ様。入学式のお時間です。準備をなさってください」
「分かったわ」
モヤモヤする気持ちやズキズキとした胸の痛みを堪え、サーシャは入学式へと向かうのだった。