異世界転生RTA(リアル タイム アタック)
「さぁ始まりました。異世界転生RTA。
実況はわたくし、山口がお送りします」
「解説の田中です。よろしくお願いします」
「まずは転生シーンから。
今回は赤ちゃんからのスタートですねぇ」
「とりあえずレギュレーションを確認しておきましょうか。
1、ハーレム要員を最低でも3人集める。
2、魔王の撃破。
3、ライバルに対するマウントとりですね」
「マウントについて解説していただいてよろしいでしょうか?」
「はい。
ライバルに対してのマウントですが、
主人公がライバルを殺害、あるいは再起不能に追いやった時点で、
成立したとみなされます」
「今回のライバルは誰になるのでしょうか?」
「一緒に転生してきたいじめっ子ですね。
この物語ではスミス君です」
「つまり、スミスと魔王を撃破しないといけないということですね?」
「はい」
「ちなみに魔王とは?
その定義とはなんでしょうか?」
「一言で説明するのは難しいですが、
主人公と戦う存在であるわけですから、
それなりにカリスマ性があるキャラクターでしょう。
あと、人がたくさん死ぬと笑ったりします」
「性格悪いですねぇ」
「ええ、それが悪役と言うものです。
魔王は常に主人公の予想の斜め上をいくものです。
もしかしたら意外な人物が魔王だったりするかもしれませんねー」
「なるほど、ラスボスですもんね。
それではさっそくVTRを再生したいと思います」
「さーっそく赤ちゃんの状態で動き始めましたねぇ」
「おおっと! ハイハイしたままベッドを抜け出しました!
いったいどこへ行くつもりなのでしょう!」
「お父さんの財布から金貨をくすねていますね。
おそらく、このまま奴隷を買いに行くつもりかもしれません」
「まだ赤ちゃんなのに⁉」
「主人公はチートで他人を洗脳できるようです。
モブを操って奴隷を購入し、さっそくハーレムを形成するようですね」
「ここでハーレム要員の定義について確認しておきます。
絶対服従を誓った奴隷を3人集めることが条件です。
この際、少しでも口答えするような奴隷を購入した場合、
条件を満たしたことにはなりません」
「なろうの奴隷ヒロインは絶対服従が必須条件ですからね。
おお……どうやら通行人を洗脳して、
さっそく奴隷市場へ向かうようです」
「洗脳チートはRTA向きかもしれませんね。
赤ちゃんの状態でも他人を洗脳して操り人形にすれば、
行動範囲が広がりますから」
「さらっと怖いことを言っている気がするのは私だけでしょうか?
主人公君は奴隷市で奴隷を購入するつもりのようです。
しかし、疑問なのはどうして金貨をくすねたかということです。
洗脳チートがあればお金は必要なかったのでは?」
「一応、奴隷を購入したという建前を守るつもりのようです。
洗脳して無料で購入した場合、
絶対服従の条件が満たされない可能性もあります。
金貨は保険のつもりなのでしょう」
「絶対服従の条件?」
「ええ、奴隷は購入した時点で、
魔法とか都合のいい力で行動が制限されており、
購入者には逆らえない設定になっているようです。
正式に購入した場合は奴隷商人がその魔法を使ってくれるみたいですね」
「恐ろしい世界ですね……」
「なろうではよくあることです」
「どうやら、奴隷に購入が済んだようです。
きっちり3人で条件1をクリアしました。
オークに、リザードマンに、リッチ。
三人とも戦闘力に全振りしていますね」
「新記録樹立のためにAPP(魅力)の値は捨てましたね。
堅実にクリアを重視した人選です」
「おおっと、主人公君。
さっそくライバルの自宅へと向かいます」
「条件3を先にクリアするつもりのようですね」
「赤ちゃんの状態でどうやってライバルにマウントを取るつもりなんでしょうか?」
「自宅に侵入した主人公君ですが、
どうやら禁じ手を使うつもりのようですね」
「禁じ手……ですか?」
「ええ、見ていれば分かります」
「おや? おむつを下ろして……うわああああああああ!」
「汚いですねぇ……さすが主人公君、汚い」
「ライバル君のベッドの上で……ウンコを」
「顔面にべっとりついてますね。
これで条件3はクリアです」
「え⁉ これで⁉」
「はい、一応マウントを取ったことにはなります」
「なんか微妙な気分になりますね……。
条件をクリアした主人公君は外へ出ましたが……。
外で大勢の人たちが待機しています。
いったいどうしたのでしょうか?」
「どうやら町の住人、全員を洗脳したようですね。
このまま魔王を撃破しに殴りこみに行くつもりのようです」
「ええっ……」
「道中も敵を洗脳しながら進んでますね。
魔王の配下たちが次々と洗脳されていきます」
「洗脳スキルで敵を味方につけて、
そのまま魔王を倒すつもりのようですが……。
ちょっと心配ですね」
「え? どうしてですか⁉」
「まぁ、見ていれば分かりますよ(にっこり」
「主人公君は魔王城へたどり着きました。
洗脳したモブキャラを侵入させてトラップを解除させています」
「どんどんモブが死んでいきますねー(笑)」
「いや、笑えませんよ(真顔)」
「失礼。
ですが、このまま全てのトラップを解除したところで、
魔王が倒せるとは思いません」
「どうしてですか?
魔王の配下はアンデッドや機械生物も含め、全て洗脳済みですよ?」
「まぁ……見ていれば分かりますよ(にっこり」
「ああっと! 魔王の間に魔王がいない!」
「どうやら逃げたようですね」
「いったい魔王は何処へ逃げたのでしょう⁉」
「さぁ、世界中を探さないとわかりませんね」
「主人公君、悔しさのあまり涙を流しています」
「ついでに糞も漏らしていますね」
「魔王に危機を察知され、逃してしまうとは……。
RTA走者としては、痛恨のミス。
これはリカバリーが厳しいか⁉」
「おそらくですが、魔王は洗脳のスキルを察知して、
見つけられないような場所に一人で潜伏しているのでしょう。
何年かかったら見つかるんでしょうねぇ」
「これは……記録を出すのは難しいでしょうか?」
「ええ、ターゲットに能力を悟られた時点で負けです。
彼はもう少し慎重になるべきでした。
おそらく、魔王を倒せるのは数十年後のことになりますね」
「え? 数十年⁉」
「魔王なんて名前からして適当な設定ですからね。
称号を他人に移譲したり、転生したりして、
いくらでも逃げ切ることができます」
「魔王を倒すのも一筋縄ではいかないわけですね?」
「はい、そう言うことです」
「今回はこのような結果に終わってしまいましたが、
次回の挑戦者はきっともっとうまくやるでしょう。
あたらなる挑戦者が現れるまで、しばらくのお別れです」
「ご閲覧頂きありがとうございました!
解説はわたくし、田中がお送りしました」
「実況はわたくし山口がお送りしました」
「ばぶばぶ!」
巨乳の金髪エルフに抱っこされた赤ちゃんが不機嫌そうに何か言っている。
魔王が見つからないことに不満を漏らしているようだ。
「申し訳ありません。
何としてでも魔王を見つけ出します」
男はぺこりと頭を下げた。
「ばぶばぶ……うとうと」
「どうやらお疲れのようですね。
ベッドで横になってゆっくりお休みください」
「……すやぁ」
疲れていたのか、赤ん坊はベッドに横にされた途端にぐっすりと眠り始めた。
「いまだ、絶対服従の魔法をかけろ」
「はっ!」
男の命により、彼の配下たちが赤ん坊に絶対服従の魔法をかけて奴隷化する。
これでもう何があっても絶対に逆らえない。
「ふぅ……これで一件落着だな」
「さすがですね、魔王様」
「うむ」
魔王は配下に紛れ込んで洗脳されたふりをしてやり過ごしていたのだ。
いくら強力なスキルとはいえ、使われなければどうということはない。
「これで一件落着ですね、魔王様」
「気を抜くな。すぐに次の転生者がやって来るぞ。
こいつを倒しても、第二第三の転生者が……」
「ええ、分かっています」
魔王の言葉にうなずきながら答える部下。
この世界には大勢の転生者たちがやってきている。
彼らの持つチートスキルについても分析が進み、対処法もマニュアル化されている。
それでも、犠牲者は後を絶たない。
やはり今回も無傷では済まなかった。
「奴らが何人やって来ようとも、
我々は絶対にこの世界を守り通す。
異世界人なんかに好き勝手されてたまるか」
魔王は決意のこもった顔で言った。