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名もない感情


 僕にはずっと憧れている人がいる。


 聖魔法と同じくらい稀少と言われる光魔法の使い手。


 存在を隠し、魔法で姿を隠し、国王陛下のため、国民のために飄々と任務を熟す彼に僕はずっと憧れていた。


 僕も得意魔法を火と水の2つ持っていて稀少だと言われているが、彼は光を含む3つも持っている。しかも聖・魔以外の全属性を持っていて、1番苦手な火属性でも宮廷の魔道士レベルなのだから、その凄さは歴然だ。


 あり得ない程の才能を持って生まれたにもかかわらず、表舞台に立てない。そんな無慈悲すぎる運命に他人事ながら憤りを禁じ得ない。


 でも彼はなんでもないことの様に常に飄々としていた。諦めていただけなのかもしれないけど。


 そんな彼が初めて関心を示した相手。聖女様が入学して以来、彼の様子がおかしい。いや、今思えば入学する前からおかしかった。


 聖女様が入学するにあたり、クラスメイトである僕と担任のユベール先生で見守っていこうということでほぼ話が纏まっていたのに、いつの間にか彼が臨時教員として潜り込むことになった。


「聖魔法に興味がある」「光魔法との違いが知りたい」と僕に何度も言ってくるので、魔法のことになると研究熱心だなと思い、たまたま入学式の日に聖女様と会うことが出来たので、彼の研究室に行くように伝えた。


 聖女様が聖魔法を使ったので、その流れでとても自然に言えたと僕は思っていたけど、その場にいた護衛騎士のリアムに「唐突すぎて怪しまれてましたよ」と言われてしまった。


 怪しみながらも聖女様は彼の研究室に行ってくれて、それ以来通い詰めになり、ユベール先生はあっという間に御役御免となった。ユベール先生は婚約者との時間が増えて喜んでいたけど。


 彼は初めから聖魔法ではなく聖女様に関心があったのかもしれない。

 レイモン曰く「遅れて来た青春を謳歌している」らしい。



 ある日、雪解け間近のエルブ領の森に魔物が大量発生したと報告を受け、急ぎ準備して僕たちは件の森に来た。


 歴代の聖女様達の結界のおかげで、魔物が街に入ることはないが、魔物が大量発生した森には上位ポーションの生成に必要な素材が多く、エルブ領の重要な収入源の1つだった。


 今回初めての遠征となる聖女様を心配し、彼も一緒に来ることになった。

 彼は素性を隠しているため風魔法しか使わなかったが、それでも圧倒的な強さだった。


「くっ!」


 しまった。よそ見をしていて魔物の爪が掠めた。


「大丈夫か?」


 近付いて来た彼が、僕を支えるフリをして患部に触れた。温かい感覚の後、痛みが消え血も止まっていた。


「よそ見してんなよ」

笑ってそう言うと、彼はまた別の群れに突っ込んで行った。


 やっぱりかっこいい。


 そんな彼が気にかけている聖女様とはどんな方なのだろう?


 聖女様とは同じクラスなのに、彼が大切にしている方だと思うと近付き辛く、殆ど話したことはない。


 幼い頃は領地で領民の子達と一緒に野山を駆け回って遊んでいたらしく、学園でも、孤児院を訪問した時も、誰とでも分け隔てなく接している姿を目にする。



 急拵えの救護所へ向かうと、聖女様が真剣な面差しで治癒魔法を施していた。

 重傷に見えた兵士の傷が見る間に消え、意識が戻ると周りから歓声が上がった。


「見事なものですね」


 思わず声をかけてしまった。


「ふふっ、エティエンヌ様、初めてお会いした時と同じセリフですね」


 艶やかな銀の髪、透き通った白い肌に深い青色の瞳は一見冷たそうにも見えるのに、桃色の唇が弧を描くと一気に辺りが明るくなった。

 まるで昔見たフレスコ画の天使のようだ。


 すると、その蒼玉の瞳が微かに揺れて輝き、ひときわ嬉しそうな表情になった。


 振り返ると彼がいた。


 彼は僕を見て少し困った様な表情をしたので、僕が彼女に見惚れていたことに気付いたのかもしれない。


 先程治して貰った腕に触れながら、


「先程はありがとうございました」


 気にしないでくださいという想いも込めて努めて明るく言ったつもりだが、ちゃんと笑えていただろうか。


「いや、大したことはしていない」


 そう言って彼は僕の頭に大きな手を置き、一拍の間ののち、聖女様の元へ向かった。


 憧れているあなたが気にかけている方に、ほんの少し興味を持った。ただそれだけ。


 隠すことなく真っ直ぐに向けられる好意を羨ましいだなんて、決して思っていない……


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