私のかわいい主君
皆様、はじめまして。レイモンと申します。
アルフレッド様の本当の名はアルフォンスと申します。
アルフォンス様の専属執事となって早二十年。
アルフォンス様と初めてお会いした日を昨日のことの様に覚えております。
私は代々騎士の家系である侯爵家の三男として生まれ、子どもの頃から主君を守る盾となるべく厳しく教育されました。
アルフォンス様とお会いしたのは、王太子とご学友だったすぐ上の兄に連れられ王宮を訪れた時でした。
アルフォンス様は5歳になったばかり。
今となっては見る影もございませんが、まるで天使の様に愛らしいお方でした。
これは極秘事項ですが、アルフォンス様は聖・魔以外の全属性をお持ちで、しかも光・雷・風魔法の適性が高いというとても稀な方でした。
そんなアルフォンス様が近付いて来て私の左腕に触れました。その瞬間私の左腕にピリピリとした電気が走った様な感覚と温められたような感覚がありました。
突然だったので思わず構えてしまったのですが、次の瞬間、日々の訓練で慢性的に痛めていた左腕が嘘のように治っている事に気付きました。
騎士になることは無理なのではないか?それを知られるのが怖くて、誰にも気付かれない様にしていた怪我を、アルフォンス様はお会いしてすぐにお気付きになられたのです。しかも誰にも気付かれない様に治してくださったのです。
後で教えていただいたのですが、自分でも気づいていなかったのですが、私が微かに左腕を庇っていたそうです。そして、光魔法の治癒と回復に加え、雷魔法で電気を発生させて筋肉に刺激を与え……と途中から耳に入って来なくなりましたが、簡単に言うと光と雷の複合魔法を施してくださったそうです。
それをたった5歳の時に既に理解されていたのですから本当に才能溢れるお方なのです。
その時、私はこの方の盾になりたいと心底思ったのです。
アルフォンス様の側にいて相応しい者となるため、私は今まで以上に訓練だけでなく、マナー教育や勉強にも励みました。
しかし2年後、あの事件が起きてしまいました。
その知らせを聞いた時に感じた私の絶望は言葉ではとても言い表せません。
そして、一命を取り留めていたと聞いた時の私の喜びもまた言葉ではとても言い表せません。
再び命を狙われるかもしれないと、一命を取り留めたことはごく一部の者を除いて隠されました。
我が家はそのごく一部であり、父はアルフォンス様の専属護衛騎士について相談され、その話を父は私にもちかけました。
限られた人数しか付けることは出来ないので護衛だけではなく、執事の様なこともしなければならないと。
「存在しない者」の側近なのですから、自身も目立つわけにはいきません。輝かしい功績も名誉も諦め、影にならなければならないと。もちろん家名を名乗ることもできません。
でも私は喜んで引き受けました。
アルフォンス様の専属護衛騎士兼専属執事になれるのです。私にとってこれほど名誉な事はありません。
結局、アルフォンス様は私よりもお強いので、護衛騎士としてお役に立てることはなく、執事の仕事がメインになりましたが……。
事件の方はというと、アルフォンス様の暗殺に使われた凶器が、モーヴェ公爵家の家紋の入った特注品のナイフだったのですが、モーヴェ公爵はシルヴァン王太子の後ろ盾であるノブレス公爵と敵対しており第二王子派でした。また事件直後からシルヴァン様の専属執事が行方不明になっておりました。
モーヴェ公爵は「ノブレス公爵と王太子殿下が執事に命じてアルフォンス様を殺害し、自分の家紋入りのナイフを使って自分を陥れようとしているんだ」と主張しましたが、ノブレス公爵も「モーヴェ公爵の家紋入りのナイフは簡単に手に入れられる物ではない。私が策略したと思わせるために、シルヴァン様の執事をモーヴェ公爵が攫って隠しているのではないか?」とお互い主張を譲りませんでした。
「モーヴェ公爵が黒幕」説と「ノブレス公爵の陰謀」説、はたまた「第三者の策略」説など上がったのですが、実行犯が見つからず解決に至らないまま月日だけが流れました。
存在しない存在。
その事がアルフォンス様から愛らしさを奪うのはとても早かった。
名前もアルフレッドと変え、ふと「自分は一体誰なのか?」と呟かれることもありました。
高度な光魔法の姿隠しを使い、次第に隠密の様な任務もこなし始めました。
淡々と任務を遂行するだけの日々が続いたある日、「ソラネル領に聖女が現れた」という知らせとモーヴェが動き出したと言う知らせが届き、すぐにソラネルへ向かいました。
その途中で泣いている少女を見つけ、姿隠しの魔法を解除して近付くアルフォンス様に驚きました。
あれ以来、誰にも関心を示さず、ただ任務を熟す日々だったアルフォンス様が、自ら他人に近付き声をかけたのです。
いまなら、運命の相手を前に何か感じる物があったのだろうと思うのですが……。
私まで姿を見せると目立ってしまいますので、私は隠れて様子を見ておりました。
遊びたい盛りなのに遊べない。
昔の、いえ、本来なら学園に入学し、ご学友を作り青春を謳歌していたであろう今の自分も含め、少女の姿にご自分を重ねたのでしょう。
「いや、無駄遣いはダメだな。言葉を間違えた。買いたい放題じゃなくて、10個ぐらいは買えるな」
……アルフォンス様はもっとスマートだった気がするのですが。
きっと子ども相手なので勝手がわからないのでしょう。
その少女が聖女様と気付きすぐにその場を離れましたが、その後聖女様が王都に移られるまでの3年間、そっと陰から見守ってらっしゃいました。
そしてさらに月日は流れ、聖女様が王立魔法学園に入学する事が決まり、限られた者のみが集められ、聖女様をお守りするための計画が密かに立てられました。
初めは同じクラスのエティエンヌ様と担任であるユベール様で授業中だけでなく放課後もお守りするのが自然だろうという話になっておりました。
しかし、アルフォンス様は急に教員として学園に潜り込み、エティエンヌ様に「聖属性魔法について話が聞きたい」などと、取ってつけた様な理由を並べ立て、聖女様をご自分の元に案内する様に依頼したのです。
エティエンヌ様は大変聡明な方ですので、もちろんアルフォンス様のお気持ちを汲み、見事聖女様をアルフォンス様の元へ誘導なさいました。
先ほど久々の再会を果たしたアルフォンス様ですが、聖女様が自分のことを覚えていないことにとてもがっかりなさっておられました。
それはそうでしょう。
この国では髪には魔力が宿っていると言われており、その魔力を覆ってしまう様な、髪を染めるという行為はあり得ないと言われております。アルフォンス様のように存在を隠したい方が染めるくらいのものです。
でもアルフォンス様を見ていると「髪を染めると魔力を覆ってしまう」と言うのは迷信だなと思いますが。
話を戻しますが、あの時のアルフォンス様の髪はチョコレートの様なとても見事な茶色でした。
存在を隠すには目立つ髪色は避けなければなりません。ずっと国民に多い茶色に染めておりましたが、アルフォンス様が国王陛下を始め他の方々を守るためであれば、ご自分の命を軽んじる様になり始めたことが心配になり、気晴らしに髪色を変える様に進言して今の色になりました。
今からでもお伝えした方がよろしいのでしょうね?
でも、聖女様に関する事となると、アルフォンス様は少しポンコツ、失礼しました、とても感情が豊かになるのが、私としてはとても微笑ましいのです。
もう少しだけそっとしておいてみましょうか。