まだまだ手のかかる主君
皆様、こんにちは。レイモン=ファキュテルでございます。
この度、アルフォンス様の公爵位授与に伴い、私も表舞台に戻ることとなり家名を名乗れることになりました。
といっても、私は変わらずアルフォンス様の専属執事ですので、することは殆ど変わりません。対人作業がかなり増えたぐらいでしょうか。
さてさて、やっと、やっとアルフォンス様がエレオノール様にお気持ちをお伝えになられました。
まさかアルフォンス様が、臨時にもかかわらず教師ということを気になさって、エレオノール様のご卒業までお待ちになっていたとは。
それまでにすべて解決して、公爵位を受けてからお気持ちを伝えるおつもりだったとは。
意外と常識人だったのですね。
私もまだまだですね。さらに精進いたします。
それにしても長かった……。
やっと肩の荷がおりました。
と思っていたのですが。
今度は何やら逆の現象が起こっているようです。
ただいま王宮のアルフォンス様の執務室にエレオノール様がお越しになられて今週末の予定についてお話をなさっているのですが、今度はアルフォンス様が先走り、エレオノール様が尻込みしておられるようです。
「今週末お前の家に挨拶に行くことになった」
「えっ?なった?決定事項ですか?」
「ああ、話はつけてある」
「いつの間に……挨拶と言うのは、その、どういう?」
「結婚の挨拶に決まってるだろ」
「けっ、結婚!?」
「なんだ嫌なのか?」
「いえ、そうではなくて、その、この前やっと告白のお返事をいただいたばかりだし、その、まだプロポーズもされてないんですけど……」
「そんなものはいらん!」
「ええっ!?」
アルフォンス様……。
「アルフォンス様、少しよろしいでしょうか?」
目に余る横暴さに、つい割って入ってしまいました。
「ちっ、なんだ?」
「王族ともあろうお方が舌打ちなど品がないですよ」
「うるさい。で、なんだ?」
そう言いながらも執務室の隣にある私の控え部屋までお越しくださったので、まだ少しは素直さが残っていて安心いたしました。
「アルフォンス様、人にも依りますが、プロポーズに憧れている女性は多いと聞きます。その憧れている女性に対して何もしないと、私の兄のように、後々大変な目に合ってしまうこともございますよ?」
「ああ、ロジェ様か……そうか……わかった」
「おわかりいただけて良かったです」
そして席に戻られたアルフォンス様はエレオノール様と翌日のディナーの約束をなさいました。
きっとプロポーズなさるのでしょう。
まだまだ私が見守らないといけないようですね。
そうそう、私の兄に何があったのかと気になる方もいらっしゃるでしょうが、身内の恥ですので説明は控えさせていただきます。
*****
先生とディナーをした後、先生がたまに来ていたと言う夜景が見える丘に連れてきてくれた。
「綺麗……」
「名前も変え、髪の色も変え、姿も隠して生きてると、たまに自分が何者なのか、何のために生きてるのかわからなくなることがあってな。そんな時にここに来て家々に灯る明かりを見て、この国で生活している人々を守らないとって、俺の生きてる意義を思い出してた」
「先生……」
「で、いつまで『先生』なんだ?」
しんみりしそうな私を気遣ってか、先生が話題を変えた。
「あっ、そうですよね。はっ!先生だって、私のこと全然愛称で呼んでくれないじゃないですか!」
「なんで『エル』じゃないんだよ。『エル』なら『アル』に似てるから雰囲気でなんとなく呼べたのに」
雰囲気でなんとなくって何?「エ」と「ア」の中間で発音するってこと?
「他の人と同じ呼ばれ方は嫌だったんです」
「だからといって呼びづらくて結局呼ばない愛称に意味あるのか?」
「でも木の上で一度呼んでくれましたよね?」
「呼んでない」
「呼びましたよ」
「聞き間違いだ」
絶対に認めない気だ。
「それより、初めてお前が俺の研究室に来た時に、俺を見て固まってたのはなんでだ?」
えっ!?それ聞かれると思ってなかった。
「固まってないって言うなよ」
先手を打たれた。
でも、さすがに前世の話はできない。自分のことも碌に覚えてないのに、ゲームの推しキャラだけ覚えてて、その人に似てたので驚きましたなんて言われて気分良いわけない。
「だから好きになったのか?」なんて勘違いされたくない。
きっかけはそうでも、ちゃんと先生と向き合って、先生の人柄を好きになったんだから。
「似てる人を見たことあるなと思って」
嘘ではない。
「そうか」
それ以上先生は聞かなかった。
確認がしたかっただけなのかな?
「私も聞いていいですか?先生はいつから、その、私のことを……」
「さあな、いつだろうな?」
あれ?「知らねえよ!」って一蹴されるかと思いつつダメ元で聞いたんだけど、意外にちゃんと考えてくれてる。
「増えた勉強で遊べなくなったのが嫌で逃げ出して、木の下で泣いてたお前に声をかけたこと自体が、俺にしては珍しくて自分でも驚いたんだけど、もちろんそんな趣味はないから、その時は違うだろうな」
やっぱりあれは先生だったんだ。
先生は私の質問に誠実に答えようとしてくれてる。自分と向き合うようにじっくり考え、ゆっくりと話してくれた。
「お前が入学して久々に会った時も、大きくなったなって言う感慨の方が強かったな。ただお前が俺のことを覚えてないのは面白くなかったな」
「だって髪の色が……」
「ふっ、そうだな。それから、お前と聖魔法の話をしなくなっても、俺の任務を知らない先生から、お前が俺の研究室に来過ぎだと注意されても、お前が来ることを止めなかったのは、任務だけが理由ではないんだろうな」
エメラルドの瞳と視線が合った。
「いつから?って言われると正直、ここからとは言えないが、結構早いうちから気になってたと思う」
先生の手が伸びてきて私の手を取った。
「俺は言葉が足りないし、キツイし、きっとこれからも不安にさせたりすると思う。でも、俺以外のものからは不安にならなくて済むように、いつも笑顔でいられるように守るから……俺と結婚してくれるか?」
先生は長い間「存在しない者」だったせいで、自分の価値を低く考えすぎだとレイモン様がおっしゃっていた。
自分以外のものが私を笑顔にしたり、不安にさせたりできると思っている。
先生それは違うよ。
「私を心底笑顔にできるのは先生だけですよ。そして心底不安にさせるのも先生だけです。私には先生を外の不安から守るような力はないからそんな約束はできないけど、その分、家の中では安心できるように、私に対してだけは不安になることがないように、これからも「大好き」って気持ちをたくさん伝えていきますね。だから、ずっと一緒にいてください」
言い終わると同時に抱き寄せられ、卒業式以来の大人のキスをされた。
私は一応貴族の令嬢で聖女で、そしてなにより先生は意外に常識人だから、きっと結婚まではキス以上のことはしないでいてくれると思う。
だから、昨日は「結婚の挨拶に行く」と聞いて、早過ぎない?って思ったけど、先生からしたら遅いくらいなんだろうね。
本当はもう少し恋人の時間を楽しみたかったけど、先生と一緒なら恋人でも婚約者でも夫婦でも、きっと楽しくて嬉しくて幸せだと思う。だから……
「早く結婚したいです」
もう一度大人のキスをされた。
〜fin〜
お読みいただきありがとうございました。
思ったより長くなってしまいましたが、お楽しみいただけたなら幸いです。




