表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/17

大きなクスノキの上で2


 あの日は何故か寝付けず、魔法で姿を隠してこっそり部屋を抜け出した。

 

 近侍のヒューゴに怒られるかな?

 お兄様はびっくりするかな?


 いくら「類稀なる才能の持ち主」と言われようと7歳の子供。普通に悪戯もした。



 俺は兄が大好きだった。

 母は違うが10歳も歳の離れた俺を本当に可愛がってくれた。


 俺の母は俺が生まれてすぐに亡くなった。

 父は忙しくて殆ど会えなかった。

 俺にとって兄が唯一の家族と呼べる人だった。


 俺が悪戯をすると「ダメだぞ、アルフォンス」と言いながらも満面の笑みを浮かべ、「あそこは風魔法よりも雷の方が良いと思うぞ」とアドバイスまでくれた。

 そして決まって「悪戯するのは俺だけにしろよ。他の人は俺ほど魔法耐性が高くないからな」と言った。


 兄は魔法を使うのは苦手だったが、耐性がとても高かった。



 兄の執務室に繋がる廊下に差し掛かった時、ジスランがいた。何か思い悩んでいるようだった。

 父の代からいる兄の執事で、兄に会うたびに彼にも世話になっていた。


 俺はまだまだ子供だった。

 顔見知りということで何の警戒もせず、魔法を解いて声をかけてしまった。


「どうしたの?何かあったの?」


 さすが執事とでも言おうか。驚いているはずなのに、ほんの一瞬気配が揺れただけで表情を変えることはなかった。


「アルフォンス様、どうしてこんな時間にこんな所にいらっしゃるのですか?」


「……ごめんなさい。お兄様を驚かそうと思って」


 怒られると思った俺は素直に謝った。


「そうでしたか。きっと驚かれるでしょうね……突然ですが、アルフォンス様はシルヴァン様が王になることをどのように思われますか?」


 本当に突然の質問だったが、常に思っていたことをそのまま伝えた。


「僕はお兄様みたいな優しい王様の国で暮らしたいです。だから、いっぱいお勉強をして早く大きくなってお兄様をお助けするんです」


 するといつも表情を変えない彼が、見た目にも苦しそうな表情をし、辛そうに言った。


「そうですか……でも、とても残念ですが、それは叶わないでしょう」


 彼がそう言った瞬間、胸の辺りが熱くなり、次第に痛みが増していった。


 俺は本当に兄を慕っていて支えたいと思っていた。疑われるような言動などしたことがなかった。


 だから、何が起きたのかわからなかった。

 まさか彼に刺されるなど微塵も思い浮かばなかった。


 彼からは殺気などは感じられず、寧ろ情愛のようなものしか感じられなかった。


「シルヴァン様よりも前にあなたにお会いしたかった」


 彼が何かを言った様な気がするが聞こえなかった。

 その時宮殿の方から足音がした。部屋の主人がいないことに気づいたヒューゴが探しに来たのかもしれない。


 思ったより見つかるの早かったな。

 そう思ったのが最後だった。 


 第二王子がモーヴェ公爵家の家紋が入ったナイフで暗殺され、王太子殿下の執事が姿を消した。謎だけが残った事件だった。

 

 それからは長い長い夢を見ていた。

 ただひたすら、ゆらゆらと揺れる温かい光に包まれていた。

 何故かはわからないが、守られているとわかっていて安心して眠っていた。


 ふと、頬に何か触れた気がして目を開けると天使が微笑んでいた。


 俺はこの天使を知っている気がする。

 海の底を覗いている様な深い深い青。

 その瞳が揺れ眩いばかりに輝くと、一気に花開いたような笑顔をした。


 エリー……



 目を覚ますと見慣れた木の上だった。

 

 久々にあの日の夢を見た。

 本当は記憶を失ってなどいない。今でもはっきりと覚えている。でも、言えば間違いなく兄にとって不利な材料になると思い黙っていた。


 途中からあの日見た夢なのか、今見た夢なのかあやふやだったが……。


 そして気づいた。


 あいつの名前を口に出していなかったか?


 慌てて辺りを見回したが誰もいなかった。


 良かった。


 本当にたまにだが、あいつがここに来ることがある。

 

 教員棟への通り道にもかかわらず、この場所は人通りが少ないため、モーヴェの手の者の侵入経路になることがあった。


 普段は結界を張って不審者は入らない様にしてあるのだが、証拠集めのためにたまに結界を緩めてわざと侵入させたりすることもある。


 そこに聳える様に立つこの木は、生い茂った葉が姿を隠してくれるので見張るのにちょうど良い場所だった。


 だが、あいつは俺が寝ている時に限って来るので、ただ昼寝をしているだけだと思っているようだ。別に構わないが。

 

 光魔法で姿を隠しているのにあいつには見えている様だ…し……?

 周りには誰もいないのに、ふと何か魔法の残滓を感じた。


 聖魔法?何故?


 それに頬に微かだが何か触れた様な感覚が残っている気がする。


 まさかな?


 放課後あいつが来たら聞……けないな。

 様子を探るか。



*****



 あっという間に3年生になってしまった。


 今日はなんとなくお昼に散歩したい気分になって、早めに食堂を出た。


 なんとなく歩いたのだけど、気づいたら先生お気に入りの木に腰掛けて、先生の寝顔を眺めていた。


 でも今日の先生の寝顔は少し苦しそう?


 夢に効くかどうかわからないけど、なんとなく聖魔法で先生を包んでみた。

 心なしか表情が和らいだ様な気がする。


 そして本当に自分でもよくわからないのだけど、それをするのが当たり前の様に、ごくごく自然に先生の頬にキスをしてしまった。


 ハッ!!!

 いやいやいやいやいや!当たり前なんかじゃないから!

 

 自分のしでかした事に気付き、急ぎ、でも気付かれない様にそっと風魔法を使って降り、その場から逃げた。


 しばらく先生の顔をまともに見れないかも。

 今日は研究室に行くのやめておこう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ