渡せなかったクリスマスプレゼント
今年も昨年同様、クリスマスは聖女としてエティエンヌ様たちと孤児院を回ることになっている。
そう、何故かこの世界にもクリスマスがある。
違うのは、前世の様な神様の誕生日を祝うのではなく、1年間の恵みと健康に感謝する日となっている。
だけど名前はクリスマスのままだし、前世と同じで、サンタさんもトナカイもいる。
うん、深く考えるのはやめておこう。
昨年は、残ってしまうものをもらっても困るかな?と思ってお菓子を持って行った。それなら皆んなにも渡すから、先生も受け取ってくれるかな?と思って。
なのに渡せなかった。私が勝手に先生も来ると思ってただけで、元々先生は来ることになってなかったと聞いた時のショックたるや。
冬休みが終わるまで保たないから自分で食べた。
だから、今年こそはアルフ先生にクリスマスプレゼントを渡したくて、終業式の日に先生の研究室に行ったら鍵がかかっていて……。
前の日に会った時はそんなこと言ってなかったのに。
わざわざ言うほどの関係ではないと思われてるってことなんだろうね。
愛称で呼ぶようになってちょっとは距離が近づいたと思っていたけど、私だけなんだなって。
「はーっ」
先日のことを思い出し、思わず大きなため息が溢れた。
「どうしたの?盛大なため息だね」
エティエンヌ様に苦笑された。
「申し訳ございません」
「聖女様がため息をつくのは大体サージュ先生関係かな?」
「!?なっ、何故それを!?はっ!いっ、いえ、違います」
「あはは。聖女様って本当に素直だな」
エティエンヌ様ってこんなに笑う方だったのね。ゲームではずっと冷静沈着だったから意外。
それに昨年も一緒に孤児院を回りはしたけど殆ど話しかけられることもなかったのに。
「おじ、コホン、ちょっと用事があって、サージュ先生には終業式が始まる前に急遽ノエル領に行ってもらったんだよ」
「あっ、そうなんですね」
そっか、終業式が始まる前に言われたのだったら、前の日に言えるわけないよね。
内緒にしてたわけじゃないんだ。そっか。
ふふっ、私って本当に単純。
「機嫌が直ったみたいだな」
「えっ?!そんなにわかりやすいですか?」
「そうだな、顔に書いてあるレベルでわかりやすい」
そんなに……両手で顔を触ったら、またエティエンヌ様に笑われた。
「随分楽しそうだな」
いるはずのない人の声が聞こえて、勢いよく振り返るとアルフ先生がいた。
「!?えっ!なっ、アッ?」
「落ち着け」
先生が頭に手を乗せてくれた。
先生に頭をポンポンならぬポンされると落ち着く。
「すみません。ア、コホン、サージュ先生はどうしてこちらに?」
「王太子殿下の使いっ走り」
と言いながら、先生はエティエンヌ様の前に大きな袋をいくつも置いた。
尋常じゃなく多いのに軽々と持っていたのは魔法を使っているのだろう。
「ありがとうございます」
そう言ってエティエンヌ様はその場で1つの袋を開けた。すると、綺麗に包装されリボンの付いた、たくさんのプレゼントが入っていた。
「せっかくのクリスマスだから、今年はみんなにノエル領のプレゼントを配りたくてね」
ノエル領はクリスマス関連の物が有名で、クリスマスにノエルのプレゼントを渡すと必ず喜ばれるんだよね。
さすが「あなデア」1番人気のエティエンヌ様、わかってらっしゃる。
「みなさんきっと喜んでくださいますよ」
「そうだといいな。じゃあ早速配りに行こうか。サージュ先生もこの後予定ないんですよね?手伝ってください」
「ったく、人使いが荒いな」
なんだかんだ言って結局手伝ってくれる優しいアルフ先生。うん、知ってた。
クリスマスにアルフ先生と会えるという思いがけない幸運に、自然と笑みが溢れてしまう。
エティエンヌ様と同じ生徒会で副会長のベルトラン様や書記のパトリック様、護衛騎士のリアム様(今さらだけど、みんな「あなデア」の攻略対象)など、みんなで協力して孤児院を回り、体調が悪そうな方には聖魔法も施しつつ、プレゼントを配り終える頃にはすっかり日が沈んでいた。
「聖女様、今年もありがとう。無事回ることができたよ」
「いえ、いつも貴重な機会をいただきありがとうございます。みなさんに喜んでいただけて良かったです」
「すっかり遅くなってしまって悪かったね。サージュ先生、俺たちはまだもう少し用が残っているので、聖女様を送ってあげてください」
「えっ!?そんな、先生もお疲れなのに悪いですし大丈夫ですよ。馬車に乗るだけなので」
「……行くぞ」
先生はエティエンヌ様に何か言いたげな目線を送ったけど、結局何も言わずに馬場に向かって歩いて行った。
馬車に乗ってもずっと黙っている。
「先生、ごめんなさい」
「何を謝ってるんだ?」
「疲れてるのに私の家まで送る羽目になって」
「別に怒ってない」
「でもずっと黙ってるし」
「ああ、エティエンヌが……いや、なんでもない。ちょっと考えごとしてただけだ。誤解させて悪かったな」
そう言ってまた頭をポンしてくれた。
ズルい……。
「ノエル領って今の時期はやっぱりイルミネーションとかすごいんですか?」
「ああ、すごかったな。お前が好きそうな雰囲気だったな」
私の好きそうなもの、知ってくれてるのかな?先生のひと言ひと言に一喜一憂してしまう。
その後も先生にたくさん質問した。
会えないと思っていたクリスマスに会えた。それだけでも十分幸せなのに、ダメだね、もっといっぱい話したい、もっと一緒にいたいと思ってしまう。
私、全然聖女に相応しくない。とても欲深い人間でごめんなさい。
屋敷に着き、馬車が停まるとシンデレラの魔法が解けるみたいに寂しい気持ちが襲って来た。
「ほら、忘れもん」
「えっ?忘れ物?」
馬車から降りると同時に先生から差し出されたそれは、綺麗な包装がされていた。
「聖女様は毎年配るだけで貰えないのが気の毒だからな」
胸がいっぱいですぐに言葉が出なかった。
すると、
「おい!泣いたら返してもらうぞ!」
先生が慌てたように言うので頑張って瞬きしないようにした。
「なっ、泣いてません!」
すると先生は「ふっ」と笑って、
「メリークリスマス」
そう言って踵を返し馬車に乗り込んだ。
「メッ、メリークリスマス!」
先生の背中に声をかけた。
手だけで返事が返ってきた。
扉が閉まり、馬車が再び動きだした。
本当にズルい。
肩に何かかけられたので振り向くといつの間にかナディアが立っていて、ストールをかけてくれていた。
「お嬢様、顔がぐしゃぐしゃですよ……。風邪を引くとサージュ様に心配かけてしまいますから、早く中へお入りになってください」
先生を引き合いに出されると弱いので、大人しく入った。
結局泣いてしまったけど、先生見てないからいいよね?返さないよ?
お風呂に入って身体を温めてから、先生に貰ったプレゼントを開けた。
髪留めだった。
雪の結晶を象った金細工の真ん中に小粒のエメラルドがハマっていた。
大丈夫。勘違いしないよ。だって、もし先生が本当に自分の色の物を送る気なら、クリスマスには髪の赤と緑の瞳をイメージできるポインセチアというピッタリなものがあるもん。
だから深い意味はない。クリスマスに雪の結晶の髪留めを送っただけ。
でも、それでも先生の瞳の色と同じエメラルドが入ってるだけで、私にはとても嬉しかった。
それに、雪の結晶……ふふっ、私たち気が合うんだね。
はっ!また私のプレゼント渡せてない!
せっかくノエルから取り寄せたのに。
今年は賞味期限がなく、残るものにした。
休み明け、学校に持って行ったら受け取ってくれるかな?
その時はもちろん貰った髪留めをして行こう。




