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本編

まず本編ですが、短編の予定でしたので長くなっておりますのでご了承ください。


 ふむふむ、なるほどね。

 転生しちゃいました。


 目の前の状況を冷静に分析して導き出した答えがそれだった。


 目を開けるとどこかで見たことのある風景が広がった。

 そして痛む頭を手で押さえながら視線を少し動かすと、心配そうに覗くとても綺麗な青年の顔が見えた。


 思い出した。学生時代にキャラデザに惹かれ、全シナリオ全セリフを覚えるくらいに何回も繰り返しプレイした乙女ゲーム「あなたに出会えたなら」の攻略対象の1人、スプロンドゥ王国の王太子エティエンヌ様だ。


 金髪碧眼の美形で背も高くスタイルも良く文武両道という王道中の王道の王太子殿下である。

 声優さんも「イケメンキャラの声はこの人!」ランキング、3年連続1位の有名声優さんだった。


 そのエティエンヌ様が画面越しではなく目の前にいるのだから、ただごとではない。

 そして冒頭に戻る。


 転生したことはわかった。でも何故か自分に関することが、ゲーム関連のことしか思い出せない。自分の名前も顔も。

 年齢が25歳で年上好きってことぐらい。


 そんなに薄い人生を送っていたのかな?

 ちょっと落ち込む。


「聖女様、大丈夫ですか?」

 私が何も話さないので、エティエンヌ様に心配されてしまった。


 そう、私は聖女様でこのゲームのヒロイン、エレオノールに転生していた。


 5歳の時に教会で聖女認定されてしまい、入学前から目立っていた私は入学早々噴水に突き落とされ、運悪く縁に頭をぶつけて気を失ったみたいだ。ゲームでは噴水に落ちて濡れるだけなのに。


 エティエンヌ様の側にいる護衛騎士のリアム様(彼も何気に攻略対象)の服が濡れているので、彼が私を噴水から助け出してくれたのだろう。


「はい。大丈夫です。ご心配をおかけして申し訳ございません」


「何が起こったのですか?」


 本当はここで噴水に落とした犯人の名前を言うとエティエンヌ様のイベントが始まるんだけど、私は微笑んで誤魔化した。


「わかりません」

 

 頭に手をかざして治癒魔法をかけると腫れが引き、痛みも治まった。ついでに風魔法で髪と服を乾かし「失礼します」と言ってリアム様の服も乾かした。


「見事なものですね」


 エティエンヌ様がおっしゃった。

 聖魔法はキラキラ光ってちょっと演出が派手だからね。


「いつでもいいので、サージュ先生を訪ねてみてもらえませんか?彼は聖属性の魔法について研究しているんですけど、協力してあげてほしいんです」


 研究?モルモット的な?怖いんですけど。

 でもゲームにサージュ先生なんていうキャラはいなかったからイベントとは違うみたいだし、王太子殿下直々の依頼を断れる身分でもないので、伺わせていただきますとも。


 エティエンヌ様の取ってつけた様な台詞にちょっと不安になりながらも、次の日の放課後、早速サージュ先生が詰めているという教員棟にある研究室へ向かった。



 訪を告げ入室の許可をいただいたので中に入り、挨拶をしようとして固まった。


 何で彼がここにいるの!?

 ワインレッドの髪を後ろで1つに束ね、切長のエメラルドグリーンの瞳に通った鼻筋と薄い唇。


 これまた前世でハマった「Eternal Flame」通称「EF」というRPGに出てきた推しキャラのシオンにそっくり。というか、そのもの。


 主人公ではないのだけれど、強くて頼りになるライバルポジションだった。

 口が悪くて俺様なんだけど、面倒見が良いという、所謂「ツンデレ」キャラ。


 戦闘中「もうダメだ!」と諦めかけた時に必ずと言っていいほど、敵の攻撃を回避したり、クリティカルヒットを繰り出したりしてくれて、本当に何度も惚れた。


 OPムービーで護衛対象のお姫様が怯えていると、彼が颯爽と現れて「すぐに片付けてやるから、目瞑っとけよ」って言って、本当に秒で片付けちゃうのがまたカッコよくて。そのムービーを何回もリピートしたのも良い思い出。


 その彼がなぜ「あなデア」の世界にいるのか?モブキャラ?


 思い返してみれば「EF」のキャラと「あなデア」のキャラはテイストが似ていた様な気がする。もしかしてキャラデザが同じ人?


 それにしても、さすが美形揃いの乙女ゲーム。モブすらもカッコいいなんて!というか、モブが一番カッコいいなんて!(私的に)


 繰り返しになるが、私は年上好きなのだ。年下はどんなにカッコよくても対象外なのだ。


 あんなにハマって何回もプレイした「あなデア」の世界に生まれ変わり、しかもエティエンヌ様を目の前にしながら何故あんなに落ち着いた対応ができたのか?

 しかも何故エティエンヌ様ルートのイベントを回避したのか?というと、ゲームをした時は彼らは年上だったのだけど、記憶が戻った私にとって、今の彼らは年下。つまり対象外なのだ。


 本当、何様?って感じよね。自分でもわかってる。でも、ごめんなさい!

 その点、サージュ先生は年上。多分。


「エレオノール=プロストと申します。エティエンヌ様が先生をお訪ねするようにとおっしゃっていました」


「アルフレッド=サージュです。わざわざお越しくださりありがとうございます」


 推しの名前ではなかった。

 まあ、そうよね。違う人なんだから。


 そして、助手のようなものというレイモン先生も紹介していただき、聖属性魔法について話をした。


 サージュ先生は俺様系の見た目とは違って、とても丁寧だった。私からも質問したのだけど本当に丁寧に教えてくれた。


「他にわからない事はありますか?」


 本当に丁寧だ。でも、う〜ん、なんだかムズムズする。

 違う人なんだから、しょうがないんだけど、しょうがないんだけど……。


「どうかされましたか?何か気になることでも?」


「いえ、すみません。その、私の勝手なイメージなのですが、本当に本当に勝手なイメージで申し訳ないのですが、もっと砕けた言葉を使ってそうだな〜と思いまして……」


 つい、思わず言ってしまった。すると形のいい眉がピクッと動いたかと思うと一段低い声が聞こえた。


「どっかで会ったこと、あったか?」


 おぉ〜。そんな感じ!そんな感じ!イメージ通り。


「いえ、お会いしたことはないです。本当に単なるイメージです」


「ふうん?」


 怪しまれてる。それはそうだ。でも前世のゲームのキャラに似てるとか、しかもこの世界じゃない方のゲームとか更にややこしくて言えない。


 微笑んで誤魔化す。


「それは誤魔化してるつもりなのか?」


 効かなかった。

 エティエンヌ様には効いたのに。

 さすが大人。


 困って何も言えない。

  

「まあ、いい」

 

 見逃す余裕。

 さすが大人。


「失礼いたしました」


 大人しく部屋を後にした。


 ふぅ、危なかった。でも、もっと話したかったな。

 また来るようにとのことだったし、これから少しずつ話してお近付きになれたら嬉しいな。



「あなデア」には全員お友達エンドというものがあって、そのルートに乗るには「全員のイベントを一切起こさないこと」なのだ。


 ただただ日常を繰り返す、穏やかというか何の面白みもないルート。

 にもかかわらず、何故そんなルートをクリアしたのかと言うと、友達エンドをクリアすると、次の周回から隣国からの留学生アルバ王国第二王子ジルベルト様のルートが追加され、それをクリアすると、さらに隠れキャラ(担任のユベール先生)ルートが発生するのだ。


 全ルート制覇したい私はもちろんクリアしましたよ。


 友達エンドならイベントが何も起きないので、魔王との戦いもスルー出来るし良いこと尽くめ!


 ゲームとしては面白くないけど、現実で魔王と戦うだなんてそんな怖いことはしたくないし、サージュ先生狙いの私には願ったり叶ったり。ご都合主義バンザイ!

 不必要に体育倉庫や音楽室や生徒会室には近付きません!


 ただ卒業間近にモーヴェ公爵が放った暗殺者にエティエンヌ様が命を狙われるイベントがあるのだけど、それだけは発生させてエティエンヌ様を助けないといけない。

 ミニゲームが発生して、ホーリーアローで暗殺者を倒してイベントクリアだ。

 くれぐれも忘れないようにしないと。


 モーヴェ公爵はシルヴァン国王陛下の王太子時代にも暗殺を計画したのだけど失敗して、今回はその息子のエティエンヌ様を狙うんだよね。執念深い。絶対に阻止しないと!

 今度狙撃用の木を下見しておこう。


 そしてその日以来、私は研究室に足繁く通った。


 サージュ先生の年齢は多分20代後半でお兄さんがいる。

 爵位はない(と言い張っている)


 彼女はいない(ここ重要!)

 好みのタイプは大人でメリハリボディ。私はまだまだこれからだから……。


 趣味は川釣り。風やせせらぎなど自然の音を聞きながらボーッと過ごすのがいいらしい。最近はあまり出来ていないとのこと。

 

 先生の得意魔法は風。

 髪が赤いから火魔法が得意なのかと思ってたけど、火が一番苦手らしい。他の属性魔法も似たり寄ったりとのこと。


 ちなみに「あなデア」には火・風・水・土・雷・氷・聖・魔・(光・闇)がある。

 ちなみのちなみに光と闇は追加ルートで出て来る。アルバ王国第二王子ジルベルト様が光属性持ちで、隠れキャラのユベール先生が闇属性持ち。

 

 サージュ先生は魔力量も多く、魔物が大量発生した時に先生も駆り出された。

 魔王は出ないけど魔物は出た。


 同じく駆り出された私は負傷者の治癒に専念していたので、残念ながら先生の勇姿は見れなかった。かすり傷一つないから治療も出来なかった。

 でも「周りに迷惑かけてないか?」と言いつつ、たまに様子を見に来てくれた。優しい。


 校舎と教員棟の間に大きな木がある。人通りが少ないため、先生はよくその木の上でお昼寝している。

 王子暗殺イベントの狙撃用の木を下見していた時に偶然先生を見つけて、それ以来たまにお邪魔している。

 闇魔法を使って気配を消してるそうなんだけど、私が気付いちゃったことに不思議がってた。


 そして私の体型(身長は伸びたがメリハリ的に)はほとんど変わることがなかったが、試験で1位になったらお願いを聞いてくれるという賭けをして「アルフ先生」「エリー」の愛称呼びを勝ち取り、徐々にではあるけど距離を縮めながら(希望的観測)、あっという間に時が過ぎて3年の、あと数日で冬休みというところまで来ていた。


 お昼休憩中に友達と卒業後の話になって、すぐ結婚するとか王宮に勤めるとか、みんな既に進路が決まっていた。というより、私が遅すぎ。

 

 途中随分割愛したけど、攻略対象者のイベントを発生させてないってだけで、私も普通に授業を受け、学園祭などの行事にもきちんと参加し、お友達もちゃんと作っているのだ。


 私、サージュ先生のことと、エティエンヌ様の暗殺を阻止することしか考えてなかった。まずい。

 そう思っていたら「エルは聖女なのですから、もう決まっているようなものでしょう?」

 とソフィアに言われた。


 ソフィアは私の友達であり、私の兄の婚約者でもある。


「やっぱりそれ以外選択肢はないのかな?」


 そしてふとひらめいた。

 そうだ!先生に相談してみよう!話す口実ができた。

 そろそろお昼寝から目覚める頃だ。

 食後の紅茶を一気に飲み干し「用事を思い出した」と言って食堂を出て、先生お気に入りの木に向かった。


 

「……」


「もう12月なのに木の上でお昼寝して風邪引きません?それより、今日はちゃんと用事がありますよ。卒業後の進路についてご相談があるんですけど」

 

「卒業後の進路?聖女なんだから相談も何もないだろ?」


「先生になるのもいいかな〜と思って」


「……本当になりたいのなら、なればいい。ちなみに俺は来年はここにいないから、一緒に働くことはないな。残念だな」


「えぇっ!?どういうことですか?代替教員とかですか?」


「お前な、いい加減な気持ちで将来決めると後悔するぞ?」


 なんか先生っぽいこと言われた。


「今失礼なこと思わなかったか?」

 先生が片眉を吊り上げた。

 

「ここ辞めて何するんですか?」


「教えねえよ」


「先生になるのが無理なら、先生のお嫁さんになるとか?」


 するとタイミング悪く予鈴が鳴ってしまった。


「お前のせいで昼休憩が終わっちまった」

 先生は大きなため息を吐きながら木から降り、さっさと去っていった。


 以前はもう少し長く話せてたのに、最近短時間で追い返される。

 でもしつこ過ぎたかな?と思って研究室に行くのをやめると呼び出される。一体何なんだろう?


 ゲームだとモーヴェ公爵にエレオノールが利用されそうになるのを防ぐために、担任のユベール先生が頻繁に呼び出してエレオノールを密かに守るんだよね。


 最初はアルフ先生がその立ち位置になったのかと思ってたんだけど、ユベールルートで起きるはずのイベントも起きないし、これだけ頻繁に会ってたらユベールルートならもうこの時期には結構甘い言葉を囁かれてたのに、全くそんな気配もない。

 

 あと数ヶ月で卒業。そしたら先生と会えなくなってしまう。気持ちばかりが焦る。

 

 するとなんとなく視線を向けた先に、黒ずくめの「いかにも」な人が現れた。


 えっ?エティエンヌ様の暗殺計画はまだもう少し先のはず。でも、間違いなくあの姿はゲームで何度も見た暗殺者だ。死角の影に隠れて待ち伏せしている。


 どうしよう。

 ううん、悩んでる暇はない。

 暗殺者に向けて手をかざした。


 途端に心臓が跳ねた。


 ゲームではホーリーアローを的に当てるミニゲームでしかなかったのに……。

 今更だけど、わかってたつもりだったけど、ここはゲームの世界に似ているだけで、現実なんだ。


 エティエンヌ様の姿が見えた。


 手加減したらきっとエティエンヌ様を助けられない。一撃で倒さないと。

 でも、人を傷つけると思うと体が震えた。


「エリー」


 名前を呼ばれ顔を向けると、いつの間にか戻って来ていた先生に頭をポンされた。


「さすがにお前には無理だろ。しょうがねぇな、目瞑っとけよ」

 

 そう言って先生は私の頭を自分の胸に抱きこんだ。


 生「目瞑っとけよ」いただきました!なんて喜ぶ余裕はなく、先生に抱きついたまま目を瞑っておいた。


 先生の放ったウインドアロー(多分)は、見事命中した(見てないけど)。ついでに私の心も射抜かれました。


「先生好き!」


「馬鹿なこと言ってないで行くぞ。いや、やっぱりお前は教室に戻れ。残党がいたらいけないからくれぐれも気をつけろよ」

 

 抱きついたまま溢した私の言葉を先生はいつも通りスルーして、私を雑に引き剥がして去って行きました。


 本気だったのに……。


 その後、事件の後処理に追われたのか、先生は学園に来なくなりました。

 


 

 しばらくして、王宮から呼び出しがあり参じると国中の殆どの貴族諸侯が集められていました。

 

 何事かと不思議そうにしている方、全てわかっている様な方、顔色の悪い方など色んな感情が溢れていました。


 国王・王妃両陛下そして王太子殿下、第二王子殿下などロイヤルファミリーのご入場の合図が鳴ったので、礼を取りシルヴァン国王陛下の挨拶があるまで頭を下げていました。


「皆、顔を上げてくれ。急な招集にも関わらず、今日はよく集まってくれた」


 頭を上げて視線を向けると国王陛下の斜め後ろに正装したアルフ先生?がいました。


 アルフ先生、だよね?

 私が戸惑ったわけは、正装していると言うことではなく、それよりも何よりも髪の色が違ったから。


 ワインレッドではなく金色だった。

 ハニーブロンドの髪が束ねることなく降ろされていた。


 金色の髪は王族の証。

 

 胸騒ぎを覚えた。

 

 まずシルヴァン国王陛下からお話がありました。

 

 国王陛下がまだ王太子だった頃に第二王子のアルフォンス様が暗殺された。

 実は一命を取り留めたものの、事件のショックで襲われた前後の記憶がなく、再度狙われることを懸念して、犯人が見つかるまで伏せることになった。

 しかし、犯人は見つかることなくアルフォンス様は長年身分を伏せたまま王の右腕として働いていた。


 そして月日は流れ、先日起きたエティエンヌ王太子殿下の暗殺計画を防いだ功労者こそがアルフォンス様だった、と。

 

「アルフォンス」


 国王陛下から王弟の名前が呼ばれ、返事をして前に出たのがアルフ先生だった。



 先生は王弟だったの?本当の名前はアルフォンス?身分を隠して働いてたって?


 王弟が暗殺されたとか、実は生きていたとか、そんなシナリオはどのルートにもなかったはず……私が「全員お友達エンドをクリア」かつモブに恋をしたせいで、過去から話が変わってしまったとか?



 諸侯にアルフ先生が紹介され、国王陛下の話の後を引き継いだ宰相の話によると、第二王子派のモーヴェ公爵はシルヴァン国王陛下(当時、王太子)の暗殺を計画したが、アルフ先生に姿を見られた暗殺者が先生を手にかけてしまった。


 でも真相がわからない当時は、優秀な第二王子が暗殺されたとしか見えず、そのため第二王子派だったモーヴェ公爵を、疑わしいとは思いつつも、充分に調べることが出来なかった。


 そのことが、彼を長く野放しにする結果となってしまい、今回のエティエンヌ様の暗殺未遂事件を引き起こしたということらしい。


 前回と今回の実行犯は同じとのことで、その犯人が捕まり、モーヴェ公爵は数々の証拠の前にとうとう観念したとか。


 モーヴェ公爵派の殆どが何らかの関与があり、罰は免れない様だ。これを機に人事もかなり刷新されるみたいで、アルフ先生もこの機会に公務に就くらしい。



「大丈夫か?」


 呆然としていると、エティエンヌ様に声をかけられた。


「聖女様には以前あったことやこれからの体制も知っておいて貰った方がいいと思って来てもらったのだが、ちょっときつかったかな?」


「いえ、お気遣いありがとうございます」

 とは言ったけど、いっぱいいっぱい過ぎて本当はもう帰りたい。でもそんなこと不敬すぎて言えない。


「顔色が悪い。今日はもう帰ってゆっくり休んだ方がいい」


 そう言うとエティエンヌ様は護衛のリアム様を呼んでくださり、馬車まで送ってくださった。察してくださったのかも。優しさに感謝です。


 王宮を離れてしばらくして、やっと大きくため息を吐いた。


 なんか盛りだくさんだったな。


 先生が命を狙われたことがあったなんて。

「一命を取り留めた」ってよっぽどだよね。

 苦しかっただろうし、怖かっただろうな。

 

 本当の名前はアルフォンスだった。

 髪の色は金色だった。

 

 そして、王弟だった。


 そっか、そっか、だからか。そうだよね。子爵家の私では釣り合わないもんね。な〜んだ、そっか。


 ……なんてね。ちゃんと現実を受け止めないとダメだよね。


「好き」って伝えて以来、会ってもらえてないんだもん。ただ単に私はそういう対象として見てもらえなかっただけだから。


 涙が止まらなかった。

 侍女のナディアが見ないフリをしてくれたので、私は気の済むまで泣いた。



 そして先生はそのまま学校を辞め、会うこともなく、私は今日学園を卒業した。


 午前中に卒業式があり、時間があるので一旦王都のお屋敷に戻り、着替えてから卒業パーティーに向かった。


 当然のことながら私にはパートナーがいないので、兄のエスコートで入場した。


 私にパートナーがいないのを気の毒に思ったソフィアが「自分も兄にエスコートして貰うから」と言ってくれたのだ。


 なんて優しい。女神!

 お兄様、絶対ソフィアを幸せにしてあげてね。


 学園長の挨拶が終わると音楽が流れ、みんな思い思いに過ごした。

 私は兄と1曲だけ踊ると、兄をソフィアにお返しした。

 

 そしてこっそり会場を出て、思い出の木の下に来ていた。


 ここで先生といっぱいお話した。

 最後にもう一回登りたいけど、この格好で登ったら汚れちゃうよね。すっごく怒られるよね?うん、間違いなく怒られる。


 でも登りたいな。

 そっと木に触れた。


「まさかとは思うが、その格好で木登りするつもりじゃないよな?」


 突然声をかけられ驚いて振り向くと、呆れた顔をした先生が立っていた。


「どっ、どっ、どっ、どうしてここに?」

 動揺が隠せなくて盛大にどもった。


「お前が会場抜け出すのが見えたから」


 だからって何で追いかけてくるの?今まで散々放ったらかしにしてたのに。


 先生の行動は本当にわからない。

 冷たく突き放す様なことばかり言うのに、気付くと今みたいに側にいてくれる。だからと言って、気持ちを伝えるとまた拒否するんでしょ?

 本当に意味がわからない。


 風に靡いた蜂蜜のような金色の髪が、闇夜にも光を含んで輝いていた。


「それが本当の髪の色なんですね。名前も本当は……」


「ああ。」


「知らぬこととは言え、数々のご無礼お詫び申し上げます」

 思い出が次々と蘇り、もう限界だった。

 その場を去ろうとしたが、腕を掴まれた。


「どこへ行く?」


「もう帰らせていただこうかと思いまして……」

 王弟に対して不敬な態度だが、泣いているのがわからない様に顔を背けたまま答えた。


「それはないんじゃないか?せっかく釣り合いが取れる様に身分戻して公爵位受けたってのに」


「……えっ?」


「何だよ」


「えっ?」


「本当にわかってないのか?」


「だって、私は子爵令嬢で……」


「はっ!?何言ってんだよ!聖女だろ!王太子殿下の婚約者候補筆頭だろ!」


「ええっ!?」

 そんなの知らない。

 だってイベントだって一切起こしてないし、エティエンヌ様の好感度も上げていないのに。


 政略的な婚約だから、エティエンヌ様の好感度は関係ないってこと?


 この3年間、本当に先生しか見てなかったんだな、私。だから周りの状況が今どうなっているのか全然わかってなかった。


「ったく、そんな人間と釣り合おうと思ったら身分戻して公爵位受けるしかないだろ?まあ、本当はすぐにでも戻れってずっと言われてたんだけどな。手柄立てて受けた方が周りも納得するだろ」


 そして先生はちょっと言いづらそうに顔を逸らした。

 

「聖女が見つかった途端にモーヴェが怪しい動きを始めたから、単にお前を見張るだけのつもりだったんだけどな……爵位も本当は面倒だからいらなかったんだが……」


「じゃあ何で受けたんですか?」


「!?何でって、だからお前……言わなくてもわかるだろ!?」


「わかりません!言われないとわかるわけないじゃないですか!いつも冷たいのに、急に優しくするし、でも気持ち伝えると拒否するし、先生が何を考えてるのかなんてわかるわけないじゃないですか!」


「言えるわけないだろ!曲がりなりにも俺は教師なんだぞ。卒業まで我慢するしかないだろ。」

 

 先生は意外にも常識人だった。


「どうしてですか?卒業前に婚約してる方なんてたくさんいるじゃないですか。別に気持ち伝えるぐらいならいいじゃないですか!」


「俺はお前が好きだ」


「はぇっ!?」


 不意打ち過ぎるし、予想外だしでびっくりし過ぎて変な声が出た。恥ずかし過ぎる。


 でも、でも、嬉しい……夢かな?


 すると先生がすごく困った様な顔をした。


「ほら、そういう顔するだろ?」


 そう言うと、先生の両手が私の顔を包み、先生の顔が近づいてきた。

 最初は何が起きているのかわからなくて、だけど、前世の記憶がないのでよくわからないけど、多分、なんか、すっごい大人のキスされた。


 やっと解放されたと思ったら強く抱きしめられた。


「気持ち伝えるだけで終わるわけないだろ?」


「……はい……すみません……」

 

「なのにお前は無邪気に近づいて来るし。少しはこっちの身にもなってくれ」


「すみません……」


 その後も溜まりに溜まった苦情を言い続ける先生に、私はひたすら謝り続けた。




*****



 その後の先生の行動は早かった。両家への挨拶どころか各諸侯への根回しも完璧だった。


 先生はエティエンヌ様の暗殺を防いだ功労者ではあるけど「聖女様はエティエンヌ様の婚約者に」という意見がまだそれなりにあったので、それらを何らかの方法で全部黙らせたらしい。詳しくは聞かないけど。

 でも、先生は意外に常識人だから、本当は正攻法だったんじゃないかと思う。


 シルヴァン国王陛下と1対1で話すことになった時は焦った。

 先生が「俺も一緒にいる」と言ってくれたのだけど、レイモン先生に引っ張り出されてしまった。まあ本気を出せば先生の方が強いんだろうけど。


 余談だけど、助手のようなものというレイモン先生はアルフ先生の専属執事なんだって。


 話は戻って。


 念のためとおっしゃって魔法で防音の膜が張られていました。


 シルヴァン国王陛下がおっしゃるには、アルフ先生は魔法の才能が凄いだけでなく、幼い頃から聡明で優しくて、ご自分よりも王に相応しいとずっと思っていたらしい。


 私はシルヴァン国王陛下の慈愛に満ちた政策もこの国の国民性には合ってると思うので、難しいとは思うけど、機会があったら一度お忍びで街を歩いてみてくださいってお伝えした。


 アルフ先生の身を守るために存在を隠していたけど、成長して誰よりも強くなったので身分を戻して公務に就く様に言ったのに、アルフ先生はずっと「今さら社交とか無理だし、爵位とか面倒くさい」と言って断っていたらしい。


 国王陛下はアルフ先生とはお母様が違うのだけど、10歳も離れているせいか、昔からずっと変わらず可愛くて大好きな弟なんだって。

 だから、弟の側にいることを選んでくれてありがとう。表舞台に戻してくれてありがとう。と言われた。


 お礼なんて私の方が言いたいくらいなのにね。なんだか泣けて来ちゃうね。


 アルフ先生が戻った時、私が泣いていたので陛下が疑われて申し訳なかった。


 話の内容を言うわけにはいかないので、「嬉しいお言葉をいただいて感動していた」と説明して、なんとか納得して貰った。



 そして1年後、結婚式を挙げた。


 2人とも親しい人だけでひっそりとしたかったのだけど、片や聖女、片や突然表舞台に現れ王太子の暗殺を防いだ英雄の結婚と言うことで、許して貰えなかった。


 でも、大勢の人に見守られ、お祝いの言葉をもらい、隣のアルフ先生を見て(結婚したんだな)と改めて実感できて嬉しかった。

 

 「あなたに出会えたなら」の世界で「Eternal Flame」の推しキャラにそっくりの人と出会って、恋して、結婚して。


 前世が薄い人生だった反動なのか、なかなか中身の詰まった濃い人生になりました。




*****



<シルヴァン>


常に国民のために働き、平和と繁栄の礎を築いた。エティエンヌに王位を継承した後はお忍びで街を訪れ、穏やかに暮らす国民を見て満足そうにしていた。



<エティエンヌ>


卒業後、王太子としてシルヴァン国王陛下の元でしっかりと学んだ。後に国王となり国民のために尽くし後に賢王と呼ばれた。



<アルフォンス(アルフレッド)>


シルヴァン国王陛下の右腕として働きながらも、エレオノールの聖女としての勤めを側で支えて、エティエンヌが国王に即位した後も長く国のために働いた。



<エレオノール>


聖女として国民のために働きながら、良き妻、良き母として幸せな日々を過ごした。その側にはいつもアルフォンスがいた。



〜 fin 〜


この度は私の拙い文章をお読みいただきありがとうございました。


本編は以上で終わりです。


次からは「番外編」として、割愛した部分のエピソードを載せています。

ご興味をお持ちいただけましたら、引き続きお楽しみいただければ幸いです。

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