ひとりぼっち
ずっとずっと1人だった。
寂しくて、誰かに話を聞いてもらいたくて、毎日大人達のところへ行ってはすぐに追い出された。
ある日少年は見つけた。
家から離れた小さな森の中、人ひとり通れるのがやっとの木製の古びた扉。
支える力を失って、草の上にぱたんと倒れていた。
あたりに建物の残骸はなく、人の住んでいた形跡もない。
「ついに見つけてしまったか」
「…!? 大おじ!」
少年―柊巌魔は驚いて振り向いた。
かれてかすれた声の主は村の大おじだった。
年のわりに年中薄着をする大おじの服装は、本日は半袖に半ズボンである。
またどこから手に入れてきたか知らないが、蛍光ピンクに金のラメで『Happy!!』とプリントされたTシャツで、若干12歳の少年は内心かなり無理があると感じていた。
深くシワの刻まれた肌は、今まで魔界を生き抜いてきた証だ。
巌魔はある小さな村で生まれた。
人間が住む表の世界―表界とは別に存在する裏の世界。
それが巌魔の住む魔界だ。
魔界と言っても環境は表界とさして変わらず、動物もいれば植物も育つ。
巌魔は魔族の村で生まれ、両親の知り合いに育てられた。
生きるための狩りはもちろん、人間と万が一出くわしてしまった場合の対処法、魔族として自分の中に秘められた力の使い方まで、親に教わるべきことはすべて習った。
巌魔の両親は彼が生まれてすぐ、運悪く他の村の争いに巻き込まれ、命を落とした。
それがべつに寂しいことだとは思わなかった。
義理の両親は12年間、彼を本当の息子のように大切に育ててくれた。
村の大人達も優しかったし、自然の溢れる村では遊び道具に事欠くこともなかった。
けど、巌魔は寂しかった。
村で1番小さいのはもちろん巌魔で、最も年が近い人でも25歳。
木の枝でちゃんばらをしたり、鬼ごっこしたりは出来ない。
巌魔は友達が欲しかった。
1人でいいから、一緒に笑ってくれる友達がいて欲しかった。
巌魔は大おじを見上げた。
大おじはなにかあればいつも飛んできてくれるし、面倒見もいい。
ちゃんばらを教えてくれたのも大おじだ。
あいにく、ちゃんばらは腰に響くらしく、あまり相手はしてもらえていない。
また何か新しいことを教えてくれるのかと思って、巌魔は大おじに尋ねる。
「み、見つけたって…何を?」
「それじゃ、ホレ」
大おじが指さしたのは、古い木の扉。
「コレ…ただの扉じゃないの?」
首をかしげる巌魔に、大おじはニヤリと笑ってみせた。
「あけてごらん」
何が何か分からないまま、少年は急かされてドアノブを掴んだ。
金色のノブはさびた感触もなく、少年の力でも難なく回る。
普通は引く扉を上に持ち上げるなんて、変なかんじだ。
引くと同時に、突然生暖かい風が巌魔少年を襲った。
下から上に突き上げる、魔界とは違うにおいのする風。
これは…
「向こうは今春の終わりかの」
「向こう…まさか!」
「そのまさかじゃ。この扉は魔界と表界を繋ぐ…わし以外知らぬ秘密の扉じゃ」
村1番の長老は人差し指を口元に立てて、最後だけ小声にして嬉しそうに話す。
少年は目をまん丸にした。
普通、表界と魔界を繋ぐ扉は厳重に管理されて、どうしても必要なときだけ使うことが許されている。
いくら大おじが年寄りだといえ、まだボケてないはずだ。
巌魔は口を開いて、
「いいの?こんなところにとびらがあって」
思い切って聞いてみる。
答えは簡単だった。
「だめなら塞いでおる」
「…デスヨネ」
巌魔は扉の中をそっと覗いた。
もやがかかっていて何も見えないけれど、草のにおいに混ざって小さな声がする。
(子供の声…?)
巌魔は声をもっとよく聞こうとして、扉の中へ身を乗り出した。
「ねぇ大おじ、表界に僕くらいの子っているの?」
大おじは豪快に笑う。
「アリの数ほどいるぞ」
なんだか生々しい例えが返ってきた。
(そっか…。じゃあ…)
とんっ
「へっ?」
一瞬の間に体が支えをなくして、真っ逆さまに表界へ落ちていった。
手を伸ばしても、扉はもう届かない距離にまで離れてしまい、どうにもできない。
唯一頼れる人の名を叫ぶ。
「お、大おじ!」
「おお、たまには社会勉強してこい。後で迎えに行くぞ―」
「えぇ!!」
巌魔を突き落とした老人は、魔界からにこやかに手を振り、そしてゆっくり扉を閉めた。
(…帰れなくなる!)
空を切って落ちる体は、風に流されていつの間にか扉を見失った。
予想外の言葉と現実離れした出来事に、巌魔の心臓がどくどくと脈を打った。
今の巌魔の力では、くやしいけど何の役にも立たない。
半分諦めて、巌魔は流されるままに身をゆだねた。
こういうとき焦ってはいけないと父さんに言われた。
体が落ちる。
表界でひとりぼっちになって、巌魔はいつの間にか意識を手放していた。
はじめまして!
バリバリのファンタジーです。
もし楽しんで読んでいただけたなら、こんなに嬉しいことはありません!!
稚拙な文章ですがどうぞ見てやってください。
そして、読んでくださった方、本当にありがとうございます!!
…幸せ者ですっ。