序章 雷帝の死
ワイルドウインドも9作目
楽しんでいただけたなら幸いです!
神樹と呼ばれる、次元を越えて3つの世界を貫き立つ大樹があった。
生き死にを繰り返す、衰退と繁栄の世界・グロウタース。
グロウタースを慈しみ、力を循環させている種族である精霊の暮らす世界・イシュラース。
命の大釜、魂の産まれ帰る場所・ドゥガリーヤ。
その3つの世界を自由に行き来し、死した魂をドゥガリーヤに葬送しながら、生きる者達を見守っている精霊がいた。
風の精霊。死を導きながら、世界に仇なすモノを狩る世界の刃たる精霊だ。
風の王・リティルを長とし、彼を慕い、風の精霊以外の精霊も暮らす城――風の城。
リティルも含め、現在総勢15人の精霊が暮らしていた。
風の王は、命を賭して戦う運命にあり、リティルは永遠を生きる精霊という種族であるのに、15代目だった。
その運命は、否応なく風の城に集う皆にも降りかかった。
8年前、リティルの息子であり、副官の雷帝・インファが命を落とした。落としたとされていた。というのは彼は、精霊達に師と仰がれるほど風以外の力にも精通していて、精霊大師範と呼ばれ慕われていた。風の城において、さほど強い精霊ではなかったが、彼の死を皆があり得ないと驚いた。軍師でもあった頭のいい彼を出し抜ける者など、いないと思われていたからだ。
インファの死を、イシュラース中が嘆いた。精霊達は、グロウタースに習って、黒い服を用意し、喪に服してくれたほどだった。
そんな、雷帝・インファが、実は生きているかもしれないという噂は、この8年間ずっとあった。
そんな噂が立った一番の理由は、彼が死んだとされる場所が、風一家の集う応接間だったことだった。
風の城は、命を狩る性質上、恨みも買う。そのため、イシュラース1、強固な守りの城だ。そして、応接間は、作戦会議をしたり、デスクワークをしたり、皆が寛ぐ場所でもあり、来客の相手をする場所でもある。そんな場所で、白昼堂々、風の王の副官を暗殺するなど、一体誰ができるというのか、精霊達は首を捻った。
しかも、寝ていたとはいえ、そばにいたのが、雷帝・インファの息子であり、イシュラース屈指の力を持つ煌帝・インジュだったことも、その噂の信憑性を増す要因になっていた。
そして、何か大規模な事案が発生していて、雷帝・インファが死んだことにしておいたほうがいいという、風の城の策略なのではないかと、そんなことまで言い出す精霊が現れた。
雷帝・インファは、頭の切れる男だった。彼の策なのでは?と精霊達は噂していた。
雷帝・インファは生きている。
この噂は、彼を慕う精霊達の多さを、物語っていた。
そしてその噂は、いつしか真実となった。
――ここはどこなんですか?
「深淵。そう呼ばれておる。もっとも、ここへ戻ってくる者は皆無だがな」
――道はつながっているんですか?
「無論。ここは、風の王が目覚める場所だ。道が繋がっていなければ、外へ出られぬではないか」
――14代目までは、ここで目覚めていたんですか。なぜオレをここへ呼んだんですか?
「気まぐれだ」
――オレに何をさせるつもりですか?
「生き返ってもらうのだ」
――殺しておいて、生き返れとは、弄んでいるんですか?
「雷帝・インファ、この城最弱の精霊。だが、それはそなたに見合わぬ」
――オレにどうしろと言うんですか?
「それは――」
深淵の主は、インファにある話を持ちかけた。