感情たちの暇つぶし
「ねえ、何してるの?」
じっと画面を見る僕の顔を、友人が覗き込んだ。
「あぁ、今はゲームしてるみたいだよ。」
僕は彼女にテレビ画面を見せた。
画面には僕の主人が映っている。
僕はこの画面に映っている少年の「感情」の一つだ。
でも、これといった明確な名前はついていない。
「…ほんとだ。つまんなそー。」
僕の横に立って、顔をしかめているこいつは「恋」だ。
最近は出番がなく、ただ僕の作業にちょっかいを出すだけとなっているけれど。
「それで、これどうすんのよ?」
恋は僕の前に置かれた、「暇」と書かれた紙をつついた。
「どうするって…この顔見てれば分かるだろ?」
僕は画面に映る主人の顔を指さした。
ぼーっとした顔で暇つぶしにただ指をスライドさせている姿は、どう見ても楽しそうには見えなかった。
「はぁ。まったく、暇なら恋の一つでもすればいいじゃないのよ。」
恋はくるくると髪をいじった。
「そう思うでしょ?」
「そうだなぁ…。まあ、恋はどうでもいいとして、もっと面白いことでもしてくれれば暇をつぶせるのだけど。」
「昔はもっと高尚な遊びをしてたわ。かくれんぼとか、鬼ごっことか。」
「…それは高尚な遊びなのか?」
僕がそう言うと、恋は口を尖らせた。
「当たり前でしょ!好きな子と一緒に隠れて急接近できるし、好きな子に追いかけてもらえるのよ!?」
食い気味に言う彼女に面喰いながらも、
「結局それかよ…。」
と呟いて再び画面を見つめる。
「昔はもっと、楽しそうだったのに。」
「今は仕方ないのかもね。この時期だし。ほら、周り見て見なさいよ。」
周りを見てみると、他の感情たちもみんな暇そうにぐでっとしている。
「あんなに元気だった「好奇心」でさえ、今はあの有様。」
「…働いてるのは僕だけか。」
ため息をついて、再び画面に向き合う。
「あ!」
スマホを置いた主人が立ち上がり、おもむろに何かを取り出した。
「何かしら。」
かれこれ三時間ほど動かなかった主人の行動に、恋も興味津々のようだ。
「あ、これって―」
画面には、アルバムを持った主人の姿があった。
「…そろそろあなたの出番じゃない?」
恋が僕の肩をポンと叩いた。
「ああ、行ってくる。…お前の番も来るかもな。」
開いたページには、主人の初恋の相手がいた。
「ほら、行くぞ。」
「暇」と書かれた紙を握りつぶすと、僕は椅子から立ち上がった。
僕には名前がない。
でも、確かに存在している。
何かを「懐かしむ」こと。
それが、僕の仕事だ。
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