父の奇行
俺は外に出て塀と家の隙間を進む。風呂に入っている所と、ここからちょっとノックして逃げるを何度か繰り返せばいけるんじゃないかと思ったのだ。ただ、間違えてそこで見つかったりするとみたくもない姉の裸を覗いた扱いをされるから、絶対に見つからないということだけは気を付けなければならない。
そう思って風呂の窓がある隙間に来ると、風呂の窓の下の暗闇で何かがいた。
泥棒!?それとも覗き!?と不安が一気に駆け巡って俺は直ぐに頭を引っ込めた。
時間は?スマホを取り出し、時計を見ると9時半それなりにいい時間だろう。しかし泥棒に入るにしてはどう考えても早すぎる時間だ。ということは覗きの可能性の方が圧倒的に高いだろう。ならばやることは一つ、警察に突き出すしかない。
そう思って警察にダイアルをしようとした所で思いとどまった。もしも見間違いだったら?それに見つけただけで証拠と言えるのだろうか?ならばもう一度確認して、同時にスマホについているカメラで動画を撮影してやるしかない。そう思った。
俺は震える手でスマホを操作してビデオモードを起動する。そしてゆっくりと狙いを外さないようにそっと頭を出した。
「!」
「しっ!」
俺は覗いた瞬間スマホを取り上げられて、口を塞がれる。そのままスマホは土の上に投げられ、スマホを持っていた右手は捻り上げられて奴に背後を取られる。ヤバい。このままじゃおれは!
「むー!むむー!むー!」
俺はがむしゃらに手を振り、足をバタつかせる。しかしそいつはかなり手慣れているようで、俺の攻撃は奴に当たらない。万事休すか。ああ、今夜で永眠になりそうだ。もう起きた時の爽快感を味わえない悲しさに涙が出そうになる。
「ちょっと静かにしろ。いいな?」
「!?」
今俺の後ろで聞こえた声は聞き覚えのある物だった。聞き覚えがあるというかさっき食事の時に聞いたばかりの声。不審に思いつつも頭がこんがらがって暴れることが出来なくなった。
「いいか、今から手を放す。大声は上げるなよ?分かったか?」
「ふんふん」
俺は首を縦に振って頷く。
奴はそっと俺の口から手を放した。
「もしかしてとう」
そう喋った瞬間またしても口を抑えられる。そんな訳はないと思っていても声からの感じでそうだとしか思えない。しかもさっきコンビニに菓子を買ってくると言っていたのに、一体何をやっているのだろうか。
「いいか、次に喋ったらこれからのお小遣いは半額にする。分かったな?」
「ふんふんふん」
俺は頷いた。一応バイト代で多少の余裕はあるとは言っても、ただで貰える物が減るのは辛い。
「そして俺と一緒に少し歩くんだ。分かったな?」
「ふんふんふん」
「よし、手を放すぞ」
そう言って父は俺を解放してくれた。
父は無言で歩き出した。俺もそれに黙ってついていく。道に出ると不自然にならないように父の横に並ぶ、いや、ちょっとだけ後ろだ。正直今の父の顔を見る勇気は俺にはない。これなら母と一緒にドラマでも見ていた方がマシだった。いや、自分の部屋で寝る前のルーティーンをしていたのが最善だっただろう。確実にそうだ。今過去に戻れるなら記憶を消して戻りたい。
しかし、現実はそんな甘いことなんてなくて、父に連れられて人気のない公園に連れていかれた。