母の奇行
まずはトイレに行く振りをしてリビングに行く。そこでは母が最近始まったばかりのドラマを見ている。俺はあまり見ないので分からないが、母が熱中している所を見ると面白いのだろう。
と、そんなことはいい。まずは姉に電話を掛けるところからだ。姉は俺の後ろ方の廊下の、その向こう側にある浴室にいる。母は因みに前の方、直ぐ近くでソファに座ってテレビを見ている。
俺は取りあえず今から掛ける設定を非通知にして、姉に電話を掛ける。これで姉が急いで脱衣所まで来たら面倒でも外に出てくるに違いない。
ピリリリリリリリリ
姉の携帯が鳴り出したと思ったら、音が前の方から聞こえてくる。
「?」
俺は不思議に思い前を向く、すると母が携帯を取りそのまま出た。
「もしもし?」
「もしもし?」
俺のスマホから母の声が小さく聞こえた。
やべ、俺は慌ててスマホの通話ボタンを切る。あれ?俺間違えて電話を掛けたのか?心配になって画面を見るがそこにはちゃんと姉の名前が書いてある。
俺は不思議に思って前の方の母に視線を移すと、母は何の躊躇いもなく姉のスマホをもっている。嘘でしょ?流石に母だからって娘のスマホの電話を勝手に出るのは間違ってるんじゃない?
俺は内心取り乱していた。母がこんなことをしているんだとしたら俺のスマホでも同じところをするんだろうか。別にやましいことはないがプライバシーというものは大切だ。母の前ではそれがないのかと戦慄しているところに更に衝撃が走った。
何と母が姉のスマホのロックをあっさりと解除しているのだ。そして何でもないように姉のラインとかを見ている。いやいやいや。何でそんなことするの?おかしくない?俺もう母にスマホを渡せないよ。というか家が全然安全じゃない場所のような気がしてきた。
母はひとしきり姉のスマホを調べた後、首を傾げて元に戻した。
俺は念のためにもう一度非通知で電話を掛けることにする。すると母は秒でスマホを取り上げた。
「貴方誰?」
「貴方誰?」
俺は秒でスマホを切って、適当ないつも見ているブログを開いた。
俺がそのまま適当に見ていると背後から突然声が掛けられた。
「ねぇ」
「!な、なに?」
いきなりのことで驚いて跳ねてしまったが、それでも何とか答えるだけの理性は残っていた。ただ、背筋に包丁を突きつけられているような雰囲気がしてならない。
「見た?」
「な、なな、何を?」
思わず見たと言ってしまいそうだ。だけどここで言ったら俺はもう永遠の眠りから冷めないかもしれない。あ、ちょっといいかも。
「さっきのドラマよ。面白いんだから。一緒に見に来たのかと思ったのに、違ったの?」
「へ?え、あ、ああ。ちょっと風呂に入りたくてさ。姉ちゃんが出るのを待ってるんだ。ここなら出たことも分かるしいいかなって」
「あら、そう言うことだったのね。なら仕方ないわ。もし良かったら一緒にみましょ。私たちの仲間内でもかなり面白いって評判なのよ?」
「そうなんだ。でも俺はいいや」
「そう、それは残念。だけど一応とってあるから、もし見る気になったら言ってね。家でこのことについて話せなくて寂しいのよ」
「そうなんだ、あ、CM終わるよ」
「あら、ほんと」
母はそう言ってソファに戻っていった。
母は戻って行ったが正直俺はここにいるのが怖くなった。というか当分は母と一緒に居たくない。出来ればいたとしても他の人と一緒がいい。
ということで次の案だ。