もうひとつのテーブル
窓の外は溢れんばかりの光の芸術が広がっている。
「綺麗。」園子はそう言うとため息をついた。
「どうしてため息?」巧が笑って聞く。
「だって、あまりにも素敵すぎるんだもの。」
「気に入って貰えたんだ!良かった。」
「有難う、、巧。」園子が改めてお礼を言うと、優しい微笑みが返って来る。園子は幸せだった。決して激しい愛では無かったけれど、ふたりの間には、少しづつ積み重ねてきた信頼があった。
シャンパンで乾杯をする。グラスの中で弾ける小さな粒の一つ一つが、ふたりで一緒に過ごしてきた時間の様に見えて、そのままずっと眺めていたかった。
アンティパスト(前菜)に続いて、スープ、サラダと運ばれてくる。見た目も美しく、味も申し分ない。
「今度の休みに温泉でも行こうか?」ブロッコリーを口に運びながら巧が言う。
「そうね、雪景色を見ながら露天風呂なんて素敵ね!」そう言いながらまた窓の外に目をやった。っとその時、、。
ガラスに反射して巧の後ろのテーブルのカップルが映った。何気なく見たその先に、、園子は思わず息を飲んだ。そこには彼女が良く知った顔があった。『翼』心の中でその名を呼んだ。3年前に園子が夢中になって追いかけ、一緒に時間を過ごし、そして別れた人であった。
「どうかした?」巧が心配そうに言う。
「ううん、何でも無いわ。あまりにお料理が美味しくて、ちょっと吃驚しちゃっただけ。」苦しい言い訳だが、思わずそう言って胡麻化した。
「そう?それなら良かった。」園子の表情の変化に気付かない訳は無い。でも彼女の言葉のままに受け流してくれる。
『いつも巧は優しい。』園子はそう思った。そして『依りによってこんな日に彼と再会するなんて、、。』何という因果であろうか?
偶然にも隣のテーブルに、元彼の翼が、、。
園子の心中は複雑に変化していく。