神々の宴(4/5)
薪の舞から帰ってきたら、ダーチャ達を寝かしつけて探索に出る。妹がいたらこんな感じ何だろうな、等といった思いが過った。
シリカさんも、私に同じ様な思いをしていたのかな。それらしい言動は、そこかしこにみられた気が。
それは、置いておいて夜の探索に繰り出すことにする。
飲食店や屋台は、人で溢れている。神殿にはこんなに人が居なかったから、こっちが目当ての人達なんだろう。
屋台で、神殿に有った模様に似た絵の描かれた石をあしらったブローチを見つける。思わず、シリカさん用と2つ買い込んでしまった。
お酒が入ってか、通りは喧騒で満ちている。
広場には、テーブルをあしらえた屋台もあったが、この街の酒場風の店を探して、入ってみる。
扉をくぐると、一瞬注目が集まったが、以降は雑多な会話が続いている。
カウンターに座って、地酒とつまみを頼んでみる。
酒は白く濁ったかなり強そうな物だ。一口飲んだところで、むせてしまった。
私に注目していたらしいテーブルから、笑い声と、
「帝国の姫嬢ちゃんには、まだお早いですわ」
みたいな揶揄が、更なる笑いと共に飛んできた。
ここで、引き下がっては帝国の名折れ。店員に同じ酒を揶揄を飛ばしたテーブルに今は人数分出して貰う。
テーブルに近づき、
「御忠告有難う御座います。では皆さんの飲みっぷりを見せていただけますか?」
と、挑戦的な言葉を投げてみる。
目で確認を取り合ったテーブルの3人は、一気にその酒を飲んだ。が、2人はむせている。
むせなかった娘は、にやっとしてこちらを見ている。わたしは、自分の残った酒を一気に飲んで、
「ここよろしいですか?」
と訊ねてみる。
「ああ」
むせなかった娘が答える。
店員に同じものをふたり分追加して貰う。
かなり強い酒らしく、ふたりとも3杯目でむせかえってしまい、大笑いをすることになった。
彼女たちは、カリアルの隣のベクスから来ており、家具職人仲間だそうだ。
そこでわたしは、
’帝国の密命を受けて、連合の調査に来ているんだ’
と声を潜めて言うと、彼女たちは、
「姫さんは、何か勘違いをしてるんでは?ここカリアルにある特別な物は神殿くらいですよ。それだって帝国側にも在るわけだし」
「それだったら、うちの地方の家具作りの技術の方が機密度高くない?」
「姫さん、調査に来ますかー」
と笑っている。
こう言った馬鹿話のなかに、真実が隠されてきることもある。
帝国はなぜ、カリアルを割領したのだろう?神殿に何かが……
酒が回った頭での推論は無謀だ。記憶に留めて置くことにしよう。
どんな家具を作っているのかを聞くと、
「高級品から一般まで、何でもやってますよ。高級品だったら、この街の宿に幾つか納めてるのらー」
みんな酔いが回ってきて、話に成らなくなって来た。追加した酒代分はこちらで払って、彼女たちのギルドの紋を見せて貰う。
これは、家具の右上の何処かに必ずいれてあるそうだ。部屋に戻ったら家具を見てみよう。
屋台で甘いものを買い込んで、千鳥足で宿に向かう。
誰かに見られてきるような気配を感じはするが、確証は持てない。
部屋に入ったら、そのままベットにバタンキュー。神殿、これがキーワード、と薄れ行く意識の中で、その言葉が…
朝、ダーチャに起こされる。
滅茶苦茶頭がスッキリしない。ぼーっとした頭で、昨日の酒はやっぱり強いどころでは無いものだったに違いないと理解はしている、が後の祭りだ。
朝食も部屋に用意してくれるようで、色々と運ばれてきたが、食べきれるか自信はない。
携行できそうな食べ物は、ダーチャ達に包ませて、それ以外を胃に片付けていく。
「ダーチャ、クレメンス、しっかり食べておきなさい」
と言って、私の分も食べて貰わないと、片付きそうにない。
食べ終わって、出発の準備をする間に、家具を見てみる。大きな飾り棚は、彼女たちのギルドの作品だった。椅子とテーブルは違う紋章だ。
心にとどめておいて、部屋を後にする。
朝から街は、昨日と変わらず大にぎわいだ。
神殿への道すがら、そこいら中の屋台や店から声を掛けられる。殆どが連合の特産XXみたいな物だ。価格の参考情報にはなるのでメモって置く。
服に関しては、帝国側には無かった連合風の平面裁断された服が多く見られる。これを見ると、カリアルの民族衣装はどちらにも属していない感じがする。
連合風の服を一着購入しておく。
あとで、カリアルの民族衣装も違いの研究に購入しておく事を忘れないようにしないと。
既に神殿にはそこそこの観客が集まっているが、相変わらず、シリカさんの姿は、見当たらない。
向こうで手を降っているのは、昨晩のベクスの家具職人達だ。そこへ行き、一緒に座って始まるのを待つ。
彼女達も、まだ酒が抜けきっていないようだ。一番飲んだ相手とは、にやっと笑いを返すだけで、気持ちが通じ合えた気がした。
マルクトの踊りは手の動きと、大きな足さばきが特徴で、この足の振り付けは櫓では無理だと理解した。
昨日教えてもらったが、実際は倍くらいの移動をしていた。それを、軽やかに踊っているラルカはかなりの踊り手なんだろう。只、ここでも巫女の無表情には何か物足りなさを感じていた。
舞いも終わり、少ししたら帝国側への移動となる。家具職人の彼女たちは、この後少し仕事をしてから、最終日の群舞を見に行くとの事なので、暫しの別れとなるが、果たしてあの広さの会場で再び合間見えるかは疑問だ。
それ以前に、シリカさんどこ行ったんだろう?
結局マルクトで出会う事もなく帝国側への移動となる。あと何か調査しておくことは無いか?
とは言っても、もう出で立ちの時間だ。
シリカさんは、最終日まで連合側に居るつもりなのだろうか?
今はダーチャ達を連れて移動するしかない。
いつものように、脇にはラルカが一緒に歩いている。
休憩の時に今朝の舞いの足さばきの話をすると、神殿で踊ると何故かあれくらいに成って仕舞うのだそうで、他の神殿で踊ってもあそこまではいかないそうだ。
マルクト神殿に何か特別さを感じるが、何が特別なのかは、わからない。
国境越えは、最初の会場の所。そこで新たに加わるものもいれば、会場に散っていく者もいる。
例の待ち合わせ場所に寄ってみる。私のメモは無くなっているが、新たなものは無かった。
行列と共に、帝国内の神殿を廻っていく。
村、街の様相は連合側と大差は無い。老婆の言っていた、’カリアルはカリアルだから’が心の中に浮かんだ。
帝国側の最終目的地は、ハルミナ神殿。
それまでの神殿で休憩を取る度に、ダーチャと私はお絵描きに専念する。
絵柄や記号については連合側の神殿に有った物もあれば、無いものもある。ちゃんと分類すれば、神殿独自の物とかが有るかが解りそうだ。
それが、何に成るのかは解らないが、記号の意味するところが解れば色々と謎が解けるような気がする。(有ればの話だが)
ハルミナ神殿につき一段落して、いつものように絵を描いていると、実行委員の腕章をつけた者と帝国軍兵士がやって来た。
「姫様、ようこそハルミナにお越しくださいました。あいにく、街の宿泊施設が埋まってしまい、御案内できませんが、帝国軍の方に便宜をはかって頂きましたので、ご心配なく」
「カリアル方面軍駐屯軍、第2連隊所属のカリファーナ准尉であります。姫様、本晩の宿泊に関しては、駐屯地の施設を提供いたしますので、是非お使いください」
「有難う、准尉。ラミア・フォルシュゲットです。私用の旅ですので、軍の施設を御借りするのは気が退けますが、他に手立てがないと成れば御言葉に甘えさせていただきますわ」
ゲゲッ、同じ階級だ。今は休暇中という事で民間人扱いの帝国貴族、という設定を通すしかない。本当は任務中なのだけれど。
「カリファーナ准尉、軍の食事は良く知っていますので、ハルミナの美味しいお店で夕食を御一緒してから、宿舎に案内いただけます?」
「では、わたくしめが手配してまいります」
と、実行委員は准尉に何か耳打ちしてから、足早に去っていった。
准尉は、街を案内がてら少し時間をかけて、レストランに案内した。
多分ここがこの街で一番高級な所なのだろう。財布が気になるが、ここは行くしかない。
ダーチャ達には、子供向けの物をお願いする。准尉と私は店のお勧めだ。
会話の端々でカリアルの事情を聞いた感じでは、特にこのようなイベントがあっても、大きな混乱もなく、地方としては平穏な所だそうだ。
神殿については、特に調査などはされておらず、年に数回各神殿での祭りは有るが、神殿の規模に見合った程度の人出だという。
越境問題ついて聞いてみると、租税だけちゃんと納めていれば、地方内ではある程度自由にさせているとのことで、
「姫様、国境見られましたか?まあ、あんな感じですから、住民の自主性に任せた方が上手くいくんです」
と、力説している。
真面目に捉えると、とんでもない甘さだが、下手に取り締まって連合側への一体感を強められても困るのだろう。
美味しく食事を終えて、准尉の分も支払い宿舎に案内して貰う。
ハルミナでは夜のイベントは無いので明日が楽しみだ。




