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神々の宴(3/5)


 森での一夜を明けて、再び会場に戻ってくると、ちょうど神殿の巫女に率いられた第1のグループの行列がスタートするところだった。


 次の引率の神殿の巫女は、マルクト神殿の様だ。ダーチャ達に次のグループと一緒に行くから、と伝える。


 シリカさんの姿は見えない、それに私と同じ髪の帝国貴族の娘など見当たりもしない。これでは、VIP席に案内するほど稀な観光客なんだとと言う自覚を覚えるしかない。


 神殿の巫女たちが、行列に並ぶ参加者を集め始めたので、ダーチャたちと並びに行く。


 列に並ぶと、確認に回っている巫女が困ったように声をかけてきた。


「あの、姫様。最前列を用意致しますので、お移りいただけますか?」


「御祭りに、貴賤は無いのではなくて?私達はここで構いませんわよ」


 困ったように引き上げて、神官らと協議しているようだ。そして、戻ってきて、


「御無礼を致しました。姫様のお心のままに」


と言って、私達の丁度横の位置についた。


 列が延びていくにしたがって、左右に巫女が間隔を空けて挟み込む位置についている。


 神官の詔が微かに聞こえてくると、巫女達の歌が始まる。


 最初の歌が終わると、列が動き始める。次の歌は列の速度に合ったゆっくりとした曲だ。


 列はそのまま国境を離れて、連合の領土に流れていく。遠くに第一陣の列が見える。こちらとは違う方向に向かっている。


 確か各神殿毎に案内のクループが作られる筈なので、全部で5つ。私達は、連合内での最終到着地がマルクト神殿になる筈。


 帝国側の神殿のグループの多くは、一番大きいマルクト神殿が最後の筈。シリカさんが行列に参加していれば、5割以上の確率でマルクト神殿で合流できる筈だが…


 一時間位の行進の後、向こうの丘に家並みが見えてきた。手前の丘には屋台で村が出来ているようだ。


 ふたりも黙々とついてきている。村の神殿に着くと、巫女達は神殿の巫女と一緒に挨拶の舞を踊り、一旦解散となる。つぎの行進は3時間後で移動は一時間半くらい掛かるようだ。


 先程の巫女が気にしてか、声をかけてきた。


「姫様、お休みになられますなら、神殿にご案内差し上げますが」


「お気遣い、有り難う。貴方は?」


「マルクトのラルカと申します。姫様」


「それでは、使用人を少し休ませて頂けるかしら。私が村を見学してから戻ってくる間で構わないのですけど」


「わかりました、そのように手配させていただきます。それから、村の案内の方は私めが」


 厄介者には監視をつけるか、それは仕方ないだろう。主催者側として見ればここで、帝国貴族に何かあれば、と考えるのは仕方のないことだ。


「では、お願い致します」


 村の周りには、村の規模を遥かに越えた、屋台などが並んでいた。これでは、国境の屋台と余り変わりが無さそうなので、村の名物について聞くと、幾つかの店に案内してくれた。


「このお菓子、国境の屋台で買ったものに似ていますが、あっさりしていて美味しいですね」


「姫様、お分かりになりますか。屋台には、この地方でない方もいらっしゃいますので、カリアルの味を完全には真似できていないものも有るかと、こちらが元祖カリアルジャムクッキーに成ります」


 力を込めて説明してくれるし、美味しいから追加でクレメンス達の分も購入しておく。


 村を周りながら、気になっていた彼女の名前について聞いてみた。


 彼女の祖先は、この辺りの豪族でカリアルの分割時に帝国側に併合されて、爵位を授かったが今は没落していると言う。彼女自身は、連合側の親戚に巫女の候補が居なかったので、里子に出された様だ。


 一時間くらいで村を回りきると、後は神殿に戻るだけなので、帰りにマルクト神殿のお踊りの手の動きを教えてもらう。大体は姉に教えてもらっていたので合っていたが、一部ほかの神殿のが混じっていたようだった。


 彼女は私が踊りをここまで知っていることに偉く感激してくれたようだ。 総踊りの足裁きがわからない、と言うと、基本のパターンを幾つか教えてくれて、残りは即興だと言う。


「即興?でも、全員揃った動きと聞いていますが」


「姫様、演舞台は御覧に成られたと思いますが、下の2段で郡舞をします。最上段の巫女の振り付けに合わせる形で、踊りを変えていくんです」


「でも、下の方は見えないのではなくて?」


「ええ、種明かしをすると、演舞台の四方に小さな舞台があって、そこの巫女が最上段の巫女に合わせ、それに下の段の巫女が合わせていくんです」


 そんな流れになっていたんだ。姉さまも知りたかっただろうな。


「それでは皆さん合わせるのも長時間踊るのも大変ですよね」


「いえ、私達は下で入れ替えしながら踊りますが、最上段の巫女は郡舞の間中踊りっぱなしです」


 あのちらっと見かけた巫女が踊るのだろう。


「ただ、終盤に踊っている巫女が上級の巫女に替わると、その過程を踏まずに瞬時に切り替わる様に変わってきます。そう、熱気で櫓が一体化した踊りに成りますので是非ご注目ください」


 それは楽しみだ、と伝えたところで神殿に着く。クレメンス達は十分休めただろうか。


 ラルカに礼を言って、二人のところに案内してもらう。ダーチャは起きていたが、クレメンスはまだ寝ていた。


「起こさなくていいわ、ダーチャ」


 神殿の礼拝所の奥の部屋だ。

一面に、古代神のモチーフだらけだ。


 色々な記号のような、文字のような物や、絵など様々な模様で埋まっている。気に入った絵柄を、市場価格調査と合わせて幾つかスケッチしておく。


 ラルカが、そろそろ出発すると迎えに来てくれた。クレメンスを起こさないと。


 よく見ると、ダーチャは色々とスケッチをしていたようだ。シリカさんが用意して置いたのかしら、それとも神殿で頂いたのだったら、お礼しておかないと。


 ダーチャに確認したら、シリカさんが服と一緒に買ってくれたそうだ。他に何を買って貰ったかを、見せてもらうと、着替えと、髪飾りが幾つか、それに朝買い込んだ食べ物位だ。


 そうか、子供が絵を描いていても不審には思われないから、なにか必要そうなものがあったら描かせるように用意したに違いない。


 シリカさんの意図が読めてきた。私達は大っぴらに情報集めをする。悪気もない観光客憮然として。


 その間に?シリカさんは裏から情報収集を行う。つまり、こちらに目を引き付けて置くことが、望まれている。


「ダーチャ、次の神殿でも絵を描いて置いてね。さ、そろそろクレメンス起こさないと」


 神殿の外に列がならび始めているし、第2陣の最後尾に並ぶと、脇にはちゃんとラルカさんが控えている。私達付きに成ったのかしら。


 マルクト神殿のある街までは、2時間は掛からない。途中休憩で先程のお菓子をみんなで食べる。


「これが、カリアルお菓子の元祖らしいけれど、いかがなもの?」


「同じくらい美味しいです」


とクレメンス。ダーチャは、


「こちら方が、家で作っていたのに近い気がします。もう少し甘かったような気もしますが」


「美味しければ、嬉しいわ。後少しだから、頑張りましょ」


 やがて遠くに街並みが見えてくると、廻りの街道も、整備が行き届いたものに成ってくる。


 街の直前から街道沿いに屋台が出ているようだ。


 屋台に、吸い込まれていくものもいれば黙々と歩き続けるものもいる。私達は、後者。


 神殿に着くと、先程と同じように儀礼があって、一旦解散となる。神殿での行事は、夕食の後ぐらいから始まる。


 ラルカが気にして、宿の手配を神殿の娘にさせて見つけてくれたようだ。


「姫様、宿の手配が出来ました、お気に召していただけるかは保証できませんが、この街で高級に当たるものなので是非お使いください」


 高級って、今持っているカリアル紙幣で足りるのかしら?一応、シリカさんがかなり両替してくれたので、どうにか成るとは思うのだが。


「カリアル通貨の手持ちで足りるかしら?」


「帝国紙幣でもどうにか成ります。今は祭りの最中ですから」


 と言って、大体の金額を耳打ちしてくれた。よくわからない理由だが、カリアル紙幣の倍以上の帝国紙幣が有るからどうにかなるだろう。


 それに、教えてくれた金額は手持ちのカリアル通貨で足りそうな位だった。


 そこを利用するとして、マルクト神殿の催事までは、まだ時間があるようなので、神殿を見学させて貰ってから、宿に向かうことにする。


 こちらにも、先程と同じような古代神にまつわる、記号のような絵が色々と有った。ダーチャは目を輝かせて、書き写している。


 私も気に入った絵柄を幾つか模写してみた。


 神殿の駒使いの娘の案内で宿に着く、ボロくは無いが、言われた程高級と言うほどでもない宿に見える。


 それでもほぼ満室のようで、ロビーにはかなりの人が居た。私達が入ると直ぐに、給仕が迎えに来てカウンターに案内される。


 3人一泊二食付きで、ラルカの言っていたものより多少安いくらいだった。前払いで、部屋に案内されると建物には似合わないくらい、しっかりとした高級感の有るものだった。


 それでも、これを経費で落として貰わないと、来月の給料が半分に成るくらいの値段なことは確かなんだけど。


 滞在を楽しめる余裕が有れば…


 任務、任務。


 夕食までの時間、少し探索に出てみることにする。クレメンスは、疲れているようなので、お留守番。


 後で神殿には行くので、周りの探索程度に止める。


 店も屋台も盛況だ。可愛らしいブローチが有ったので、ふたり分買っておく。


 後は、夜食用のおやつを買い込んで宿に戻ることにする。


 街並みは、帝国側の村が普通に大きくなったくらいで、連合と言われなければ帝国の地方都市と言われてもわからないだろう。


 観光客の多い今では、服装についても我々が違和感を醸し出す程ではない。


 たまに聞こえる言葉には、連合の方言等が混じっている程度で、基本公用語が主流のようだ。


 ざっと見た感じでは、帝国と余り変わらない、となるがそれでは調査に成らない。夜に酒場にでも繰り出すなどしないといけなさそうだ。


 部屋に戻ると、既にルームサービスで夕食が用意されていた。


 食事をしながら、予定の確認を行う。


 夜は薪の灯りでの舞があって、明日の午前中はマルクト神殿の祭典、そして国境に移動。


 連合内で動けるのは今日の夜くらいしかない。


 帰ったら、ダーチャたちを寝かしつけて、探索に出るか。シリカさんもいるかもしれないし。


 でももし、隊長が見つかって向こうは酒場で一晩、こちらは高級?旅館のベットで休む、と言うシチュエーションは、余り考えたくない。


 任務と割り切ろう。


 薪の灯りの中での踊りは、幻想的でかつ神秘的な雰囲気で、巫女たちは無表情のまま踊っているようだった。


 美しいけれど、何か違う。胸のなかで違和感を感じるが、何が、と特定出来るものではなかった。






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