浦島太郎・前編
ごほんっ、ごほんっ--あぁ~、あぁ~、さてさて、では今から皆様おまちかねの昔話を始めましょうか。
むかぁ~し、むかぁ~し、ある寂れた漁村に一人の若者が住んでおりました。
その若者はいつも暇潰しに釣りに行くことぐらいしかする事がない普通の、ものすごく普通の見た目をした世間一般で言うところの平均よりちょっと下のごく普通の若者です。
「おぃ、語り手…普通、普通と言い過ぎだ!ってか、若者のルビがおかしいだろ?なんだよ、モブって!しかも、普通とか言いながら平均よりちょっと下って…微妙に傷付くだろうよ!」
突如、叫び声を上げる物凄くはた迷惑な若者が現れましたねぇ…うん?うぅん?
え~っと、もしかして!?
…だれ、この人?空気読めない迷惑な人?
「誰が迷惑な人だ!いやいや、おかしいから?さっき紹介しようとしていたモ…若者ですから!」
あっ、自分でモブって言おうとしましたね?ぷぷぷっ、否定するわりに自覚症状あるんじゃないですか?
ねっ、モ・ブ・さ・ん、うふっ。
「うっさいわ!」
あらあら、まあまあ、腰簑つけて自家製のショボい釣りざおを持った若者が天を見上げながら私に膨れっ面で怒鳴ってきましたよ?
全く、だからモブは嫌いなんですよ。目上の人を敬うって事を知らないんだから…ったく最近のモブは。
「いやいや、ルビが逆になってるし…それ以前に名前すら紹介されていないんだが?この話の主人公って俺だよね?」
まぁ、なんと言うことでしょう!?
今から紹介しようとしていた登場人物自らしゃしゃり出てくる物語が今までにあったでしょうか?ないですよね?しかも私に文句までいってくるなんて!
何て罰当たりな!
「いや、あれだ…モブでいいから話を進めてくれ。いや進めてください。だってさ、この作者って何だかんだでプロット無視して脱線しまくって気付くと短編が中途半端な中編になるんだからさ」
あらぁ~?今度は作者批判?あんた何様なのさ?
「この作品の主人公様だよ!」
額に血管を浮き上がらせてプルプルと身体を震わせるモブさん。あぁ、なんでしょう…この満足感、はんぱなく気持ちいぃですねぇ~(笑)。まぁ、からかうのはこれくらいにして、お話を進めましょう。
まぁ、タイトルから分かる通りこの若者の名前を浦島太郎と言います。平凡な名前ですねぇ---。
昔話の三太郎と言えば、あの携帯会社のCMの三人が有名ですが私の中では三年寝太郎が出てこないのが解せない。
だってですね?いいですか「おぃ!」三年寝太郎と言うのはですね「おぃ!」…なんか煩いですね?
何ですか、モブ太郎さん?
「おぉ、モブ太郎って…いや、話が脱線しすぎてるってかさ、確かに他の二人に比べて俺はショボいよ。そりゃあ、鬼退治とか熊とか従えてとかないけどさぁ。俺だってね……うぅ」
あれっ?体育座りでなんだかいじいじと砂に文字を書き始めましたね?どったの?そんなに暗いオーラなんか出しちゃって?
「誰のせいだよ!」
さてさて、このままでは話が進みませんから強制的に海亀を虐める悪餓鬼に登場してもらいましょうかねぇ~。ほいっ、きょ~せぇ~召還!
出でよ、悪餓鬼&海亀ぇ~~~♪
ボンッ!!
白い煙と共に戸惑う数人の子供と海亀登場です。
「「「…………」」」
ですが、召還された子供達と海亀はどんよりと体育座りしていじけている浦島太郎を見つめて何だか居たたまれない雰囲気で互いに顔を見合わせています。
……どったの?
ほら、早くそこの海亀をボコってよ。もうね、見てるこっちが痛々しくなるぐらい狂気の沙汰で尋常なく高笑いしながら完全悪を披露してよぉ。
「「「できるかぁ~!?」」」
おぉ?見事なハモりですね。何だか気持ちいぃ~。
「語り手さん、語り手さん、ちょっといいですか?」
海亀さんが前ヒレを動かしながら声をかけてきましたけど器用ですよね。見た目塩臭くてヌメヌメした体の癖に…私なら絶対に触りたくない。
「はは…語り手さん、かなりの毒舌ですね。それは良いとして、あのぅ…出来れば私もボコられたくはないんですよね。というのも先ほどまで彼らと友好を深めていまして、その、なんていうかですね…」
歯切れの悪い海亀さんと悲しげな表情の子供達。
うん、仲良くなったんだね。だから、子供達に無理なことはやらせたくないし子供達もボコりたくないと言うわけですね?ふむ、ふむ、わかりました。
「「なら、亀さんを虐めなくていいのぉ?」」
パァーっと明るくなる子供達、ほっと安堵の溜め息を洩らす海亀の姿……うん、分かりましたよ。
子供達よ……。
「「はいっ!」」
殺れ。
「「えっ?」」
ボコれ、徹底的に完膚なきまでに…海亀を殺れ。
「「えぇーーーーーーー!!」」
驚く子供達。
君たちねぇ、分かってる?
この場面は見せ場なの。
浦島太郎って言うモブキャラ「モブキャラ言うなや!」が海亀に恩を着せて竜宮城で酒池肉林のハーレムタイム「語り手さん、言葉を選ぼうね?良い子も見てるから」を送るために必要なことなのですよ?
もうねぇ、このシーンなくなったら浦島モブ太郎「名前が変わってるぅ~♪」は普通にぼんやりと釣りしながら一日過ごして終わりなのよ?そうなったら、物語にならないじゃない?分かるかなぁ?
「「はい………」」
なんか貴方達、しゅんって落ち込んでますが仕事ですからね?分かってます?
「か、語り手さん。分かりました、もう分かりましたからその辺で子供達を許してもらえませんか?私が我慢すれば良いだけですから」
語り手の説教を慌てて止める海亀さん。
「「か、亀さん!?」」
泣きそうな表情で海亀の回りに集まる子供達。
「良いのですよ、子供達。これも語り手さんの言う通りお仕事なんですから私達の役割を全うしましょう」
「「海亀さぁ~ん!!」」
ヒシッと海亀さんを抱き締める子供達を優しく撫でる海亀さん…ってか痛くないのか、あれ?
ヒレって確かけっこう固くてざらついてると思うんだけど「語り手さん、今いいとこだから茶々いれない」ってかさっきからちょいちょい会話に入ってきますねぇ。浦モブ野郎は--「すでに名前じゃなくなってるね…はははっ」
---と、云うわけでお話を進めますね。
はい、じゃあ子供達はこれを持ってねぇ。
ドス黒く血に染まったモーニングスター♪
「ちょ、ちょ、待ってください」
うん、どうしたの?海亀さん。
「えっ、普通は木の棒とかじゃないんですかね?」
それじゃあ、インパクトがないじゃない?
「…必要ですか、インパクト?」
大事よぉ~。だって見せ場よ?
それに子供達を見てごらんなさいよ?
ヤル気満々に素振りしてるじゃない。
ブンッ!ブンッ!「「うっしゃあ~!!」」
さっきまでの純粋無垢な子供達の瞳がまるで呪われたかのようにギラギラと輝いています。
「ふふふっ、今宵もモーニングスターが血を求めてる。語り手さん、早く話を進めてください!」
今か今かとウズウズする子供達の姿に身の危険を感じ始めガクブルに震え出す海亀の様子に---。
「待つんだ、子供達!」
キリリとした姿で浦島太郎登場!!
「あぁ~、なんだぁ~?この無職野郎はぁ?」
巻き舌全開で浦島太郎を下から見上げるようにガンを飛ばす子供達、その姿に若干、怖じ気づく浦島太郎、果たして--その運命はいかに。
「ちょっ、ちょっと待ってください!」
…もう、海亀さんってば何ですか?
せっかく乗ってきたって言うのに話の腰をポッキリと折らないでもらいたいんですが?
「えっ?私がおかしいんですかね?」
周囲を見渡すと子供達と浦島太郎が冷たい視線を海亀に向けて小さく溜め息をついています。
「あっれえぇぇぇ~?」
何故か奇声を発する海亀は置いといて話を進めましょう。あっ、そうそう、ちなみに私が発した言葉は貴方達にモロに影響しますからぁ(笑)。
例えばですねぇ--海亀が不意に二足歩行で立ち上がり、口から火炎放射機ばりの炎を吐き出しました。
ボオォォォ~
「………………っ!?」
吐いた本人もビックリのこの惨状---ねっ♡
「「「ねっ♡じゃあねぇわぁ~!!」」」
辺り一面が火の海と化した場所で思わず突っ込みを入れてくる浦島太郎と子供達。
その頃、海亀はと言うと--。
「ま、まさか私はガ「言わせないよ?」えっ?何故ですか!亀が口から炎を吐くなんて、もうアレしかないじゃないですか!そう、あの怪獣ガ「色々問題があるからね?大人なら分かるよね?」…はい」
海亀さんは興奮して思わず著作権法に引っ掛かる可能性の高い発言をしようとしましたが、流石はこの物語の主人公である浦島太郎。
絶妙なタイミングでそれを阻止!
グッジョブだよ、モブ太郎♪
それじゃあ、話を続けましょう。
子供達にモーニングスターでボコボコにされそうになった海亀の前に颯爽と現れた浦島太郎でしたが…。
ヘタレは子供達に囲まれて正座をさせられます。
「おぃ、おっちゃん」
「はい…」
子供達の気迫にただただ半泣き状態の浦島太郎。
「取引しようや?」
「取引?」
微かに震えながら浦島太郎は愛想笑いで子供達を見つめます。その姿に失笑しながらリーダー格の子供がちらりと海亀に視線を向けてまさかの衝撃発言!
「鼈甲って高いよね?」
その言葉にビクッと反応する海亀。
まさか、子供が知っていたとは驚きです。こうなってくると海亀と仲良くなったのも若干、疑わしくなってきました。
まさかの鼈甲狙い。
さあ、この海亀の窮地を浦島太郎はどうやって切り抜けるのか?さぁ、時間も差し迫って参りましたので二部構成とさせていただきます(てへっ♡)。
「ほら、やっぱり……」
うん、何か言った?
「何でもございません…」
では、次回予告♪♪
子供達の豹変ぶりに戸惑う海亀--。
追い詰められた浦島太郎は苦肉の策を実行する。
それは---自らの尊厳を捨てた最後の手段だった。
次回『土下座(笑)』
君は大人の土下座を見たことはあるか--。
うん、後悔はない(笑)