第8話 いちご商店
お店の名前……うーん。全然思いつかないよ。名前ぇ。普通は、売ってる物の名前を前面に出したり、店主の名前からとったりすると思うんだけど、いろいろな商品を置こうと思うから、商品から名前は取れないし、私の名前をお店の名前にしたくないし。
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お店を開くことが昔からの夢だった。私の家は和菓子屋だった。お店は、兄が家を継ぐことになっていた。最初は兄が羨ましかったが、そのうちに、自分のお店を持ちたいと思うようになったのだ。だから、漠然としていて、具体性のない夢物語だったが、異世界に来て自分のお店を開くことが出来てとてもうれしかった。浮かれていたせいもあり、開くお店の名前について失念していた。
そう言えば、私が小さい時に亡くなったおばあちゃんが実は、ケーキ屋をしたかったと話していたことを思い出した。ケーキ屋かぁ。家が和菓子屋だった反動もあり、私は洋菓子が大好物で、良く家で作っていたっけ。
特に、苺のショートケーキが好きでいろいろなお店ケーキを食べたり、自分で作ったりしたわね。そうだ、大好きな苺のショートケーキから名前を付けよう。いちご商店が良いわ。(言っておくけど、ダジャレじゃないわよ!)
名前が決まったら、看板も設置しないとね。木の板と、鉄のインゴットと栄養剤とペンキと中和剤を入れたら、可愛い看板が出来るように想像しながら錬金窯さんに「成功しますように!」とおする。ほどなくして、想像通りの可愛らしい看板が出来あがった。楕円形に形成された板の周りを鉄が枠のように縁取り、入口の看板掛けに掛けられるように鉄製の鎖も付いている。板の部分に赤色のペンキで【いちご商店】の文字と、その周りを縁取るように緑の蔦と白いお花、小さな苺の絵が描かれている。
うん。流石錬金窯さんだわ。完璧です。
それと、お店の扉に掛けられるように、表が【営業中】裏は【閉店】と書かれたミニ看板も一緒に完成。一緒に出来ないかなぁとは思ったけど本当にできるなんて、もう、錬金窯さん。好き。
お店の名前も決まって、看板も出来た。引っ越してきた時に、ご近所さんに挨拶はしたけど、改めて明日からお店を営業すると挨拶に行かないとね。引越しの挨拶の時は、材料なんかがなくて、引っ越し蕎麦的なものの用意が出来なかったので、今回はちゃんと用意して、それを持って挨拶に行こう。
この世界に砂糖はあるけど流通の問題なのか、非常に高くて簡単に買うことが出来ないのだ。なので錬金窯さんで、砂糖が作れないか試行錯誤し、密かに完成させていたのだ。それを使ってクッキーを焼いて持っていこう。これなら日持ちもするし、甘いものも喜ばれると思うから良いよね。
早速、挨拶用のクッキーを作らないと。とは言っても、キッチンに竃はあるけど、オーブンがない。そこで、何でもできる錬金窯さんの登場なのです。何と錬金窯さんは料理も出来てしまうのです。なので錬金窯さんにクッキーを作ってもらうことにした。そのうち、お菓子を作れるようなオーブンを錬金術で作れないか研究したいところだわ。
材料を入れて錬金窯さんにお願いすると、ラッピングされて状態で完成。そうなるように、材料を入れたけど、本当にすごいわ錬金窯さん。ますます好きになっちゃう。
「小春~。なんかいい匂いがする」
そう言いながら、駆君が工房にやってきた。多めに作ったし、試食しつつ午後のお茶にしよう。
「お店の名前が決まったから、明日からお店を開こうと思うの。それで、ご近所さんにご挨拶に行こうと思って、引っ越し蕎麦ならぬ、開店クッキーを作っていた所なの。試食しながらお茶にしましょう」
「分かった、準備手伝うよ」
「直ぐだから、リビングで待ってて」
「了解」
なんだかんだと、私達はいい同居人として生活をしていた。基本的に、お料理とお洗濯は私。お掃除と買い出しは駆君と分担が決まった。生活のサイクルも、決まって来ていて、いつも3時頃に一緒にお茶をしていた。
「お待たせ。今日はお庭で育てたハーブを使ったハーブティーにしてみたわ」
「いつもながら、いい匂。それで、店の名前はどうしたの?」
「【いちご商店】に決めたわ」
「いいね、君に似合ってるよ」
「そっ、そう。ありがとう……」
素直に褒められるのがこそばゆい。話を逸らす訳じゃないけど、お店に並べる予定の商品と価格について相談してみた。私は適正だと思うけど、一応意見を聞いてみたいじゃない。
「俺も、良いと思うよ。でも、錬金術のレシピは公開しない方がいいと思うよ」
「どうして?」
「話を聞く限りだと、小春の方法は特殊すぎて、小春以外には出来ない方法だと思うんだ。そのことを知られれば、(君が)悪い奴らに狙われてしまうとも限らない」
「そっか、そのことが知られてしまったら、(錬金窯さんが)悪い人に(万が一持っていかれるような事があれば)良いようにされちゃうかもってことね」
「そう、(君は可愛いから)攫われたりしたら、何をされるか分かったものじゃない」
私は、錬金窯さんのことを思って青くなる。持ち出すことは不可能じゃないけど簡単じゃない。万が一壊されたりしたらと思うと血の気が引いた。駆君も錬金窯さんの事を思ってか、真剣な表情で心配してくれる。
「ありがとう、そこまで(錬金窯さんのこと)大切に思ってくれて」
「あぁ、(君のことが)大切だからね」
少し会話に違和感を感じなくもないけど、お互いに錬金術の作成方法やレシピについては他の人には秘密にすることに決めて、お茶の時間を終えた。
茶器を片づけたら、美味しいと太鼓判をもらったクッキーを持ってご近所さんに挨拶に行こう。




