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第66話 温泉とお刺身

 駆君は渋々だったけど、サナダさんが教えてくれた宿の中で、一番お風呂が評判の宿にとりあえず泊ることに決定した。

 さらに、親切なことにそこまで案内してくれるというのだ。

 宿に向かいながら、私は札に書いてあった文字と何故異世界から来たのが分かったのかについて質問をした。


「サナダさん、札に書いている文字と、私達のこと……」

「ああ、すみません。説明を忘れていました。札に書かれている文字は日本語ですね。それに異世界から来たと分かった訳ではないのです。この文字が読める人物には、そのように返答するのが我が国の流儀なのです」

「つまり鎌をかけたってことかよ」

「有体に言えば、ですが大抵はこの文字を読むことはできません。読めるのは、日本から召喚されてきた異世界人か、その関係者位ですね」

「それで、何で札に?」

「実は、東の国は日本から召喚された人達が作った国なのです。なので、日本語が使われているという訳です。普段はこの世界の共通文字を使っているのですが、役所関係では日本の文字で書類など作成されているのですよ」

「なるほど、それでその名字か」

「名字?」

「小春は気が付かなかったのか?」

「サナダ……。あっ!もしかして真田?」

「流石、異世界の方。私は真田信繁(さなだのぶしげ)と言います。こちらに滞在中に何かありましたら、何なりとご相談くださいね。姫」

「ひっ!姫!!えっ?わっ私?」

「はい」

「えっと、姫呼びはやめていただきたいです」

「いえいえ」

「やめてください」

「もしかすると、姫は本当に姫かもしれませんから」


 なんだろう?このやりとり。ちょっと疲れるというか、真田さんってちょっと謎の人だわ。


「おい、何のつもりだ!」

「いえいえ、ただ、殿が小春さんを気にいりそうだと思っただけです」

「殿?」

「いえいえ、何でもありません。気にしないで下さい」


 なんだか、これ以上深入りすると大変なことになりそうな気がするからこの話題はスルーするに限るわね。


「駆君、とりあえず気にしないでおこうよ。藪蛇になる予感しかしないよ」

「そうだな。下手にかかわると、とんでもないことに巻き込まれる可能性もあるしな」


 うん。旅行を楽しもう。わざわざ首を突っ込む必要はないわ。そう考えた途端に、タイガ君が、「う~ん。もう手遅れな気がするよ」と言ったのは聞かなかったことにするわ。


 方向性が決まったところで、宿に着いた。

 まさに、高級温泉旅館さながらの外見をしていた。

 真田さんが宿の人に何か言った後に、「それでは、ごゆっくり」と言って帰って行った。

 旅館の人に何を言ったのかは分からないけど、何故かとてもいいお部屋に案内してくれたので、何か口利きしてくれたのかな?


 部屋で一息ついた後に、夜ごはんの前に温泉に入りに行くことにした。

 ここの温泉は、大浴場のほかに、露天風呂もあるようで今回は大浴場にだけ行ってきた。

 露天風呂は、後のお楽しみにしようと思ったからね。

 それに、大浴場も檜風呂や、岩風呂、打たせ湯など、いろいろ楽しむことが出来た。

 一人だったけどね。はぁ。女の子のお友達がいたら、一緒に温泉につかって、感想言い合ったりして楽しそうなのに、私にはいない。何故だ。はぁ。


 お風呂から上がって部屋に戻ると、既に駆君達が戻ってきていた。


「ただいま。二人とも早かったね」

「そうか?普通じゃないか?」

「普通だと思いますよ?それよりも、丁度ご飯が運ばれてきたところですよ」


 そう言われて、部屋に設置してあるテーブルを見るとお料理が所狭しと並んでいた。


「わ~。タイミング良かったみたいね。それに、美味しそう。お刺身もあるのね!」


 そう、テーブルに並んでいるのは和食だった。お刺身は、こっちに来てからは食べていない懐かしいメニューだったので、期待に胸が膨らんだ。

 早速、目の前のお刺身を一口頂く。


「う~ん。美味しい~。お刺身最高~」


 何の魚か分からないけど、マグロに近い味がした。駆君を見ると、美味しそうに食べていた。だけど、タイガ君を見ると、お刺身に全然手を付けていなかった。


「どうしたの?美味しいよ?」

「えっと、これって生ですよね?」

「お刺身だし、そうね」

「火を通さなくても大丈夫なのですか?」

「大丈夫だよ?」


 タイガ君は、大丈夫だと言っても一向に口にしなかった。思い返してみれば、こっちの人って、生で何かを食べているところ見たことがないかも?まぁ、果物とかはそのままだけど、野菜も大抵火を通して食べているみたいだし。抵抗があるのは仕方ないか。

 そこで、アル様が食事について否定的だったことに合点がいった。

 つまり、生魚が口に合わないってことだったんだね。


「タイガ君、無理はしなくてもいいから、食べられそうなものを食べてね」

「はい」

「まぁ、食文化の違いってやつは仕方ないな」

「すみません」

「全然謝ることなんてないんだよ?さあさあ、楽しく食べましょう」


 こうして、東の国一日目は温泉と久しぶりのお刺身に満足しつつ過ぎて行った。

 明日も、温泉に浸かってゆっくりしつつ、街を散策してみよう。

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