第59話 召喚
フィーニスさんが話す度に、降り出しに戻るということを何度か繰り返したところで、武藤さんが言った一言でその場が凍りついた。
「あのさ、聖女マニアのフィーニスさんは何がしたくて、清水さんの家に来たのさ?いい加減話し進めてよ、それに私と、香が聖女なんだし、私達が分かるように話してよ」
たしかに、武藤さんが言う通りよね。聖女である二人を無視した状態で話を進めるのはおかしいわね。
武藤さんの言葉でジョエルさんが咳払いをしつつ、改めてフィーニスさんに何故ここに来たのか尋ねた。
「ゴホン。で、フィーニスは何用で、ここに?お前はここに召喚された聖女がいることは知らないはずなのだが……」
「宰相、よくぞ聞いてくれました。ボクは、始まりの聖女探訪から戻ってきたので、愛しい幼馴染の元準聖女であるメリッサに会いに来たんですが、この家の前を通ったところで、ボクの聖女センサーが反応したんですよ。それで、気になって仕方なかったので、とりあえずチャイムを鳴らしてみると、そこの眼帯の少女が扉を開けてくれたと思ったら、ものすごくいい匂いがしたので、抱きついて匂いを堪能していたという訳です。そうそう、今回の聖女探訪で始まりの聖女の行方―――」
「待て待て!!何か?お前はその、なんだ、ここに聖女がいることは知らずにたまたま――」
「宰相!!たまたまじゃないです!!これは運命です。ボクに聖女との甘いひと時を過ごさせるために神がボクを導いたんです!!」
「はぁ。もう、それはいい。偶然ここに来た訳であって、他意はないということだな。騎士団長、副団長、当分特別室にブチ込んでおきなさい」
「分かりました」
「愚弟がいつもすみません」
「ちょっと待って、その人聖女の匂いって言ってたけど、私達から変なにおいがしてるってこと?それって乙女的にアウトじゃない?」
「さおりの言う通りね。匂いで変態が湧くなんて、怖すぎて―――」
「あの、君達二人は本当に聖女?君達からは微かにしか感じないんだけど?まだ、メリッサが幼女の頃の方が―――」
「おい、愚弟。私のメリッサの匂いって?もしかして、あれほどメリッサに近づくなと言っておいたのに、匂いを嗅いでいたのか?」
「兄さん、昔の話だよ?」
「昔の話だとしてもだ。当分特別室で過ごしてもらおうか。過去に犯した罪も含めて、十分な反省が必要なようだね?」
「ちょっと待って、私達検査の時に、ちゃんと聖女って結果が出たし、結界の維持だってできるわ。それなのに聖女じゃないっていうの?」
「そうよ!それに、もし私達が聖女じゃないっていうことだったら、何のために私達は召喚されたっていうの?そもそも、召喚って何が目的なのよ」
そう言われてみると、力あるものを召喚するって話だけど、具体的にどんな力を持っている人を呼び寄せたかったのかよく分からないわね。それに、召喚する為の方法が分からなかったって話もあったし、もしかして私達って間違って呼ばれたの?
なんだか、不安になってきてしまった。それに、今まで聖女として頑張ってきた二人はこの話の結果次第で、すごいショックを受けることが目に見えるわ。
でも、このままうやむやにするのも何か違うと思うのよね。
「すみません。とりあえず今日のところはお引き取りいただけますか?二人が大分ショックを受けているみたいなので、召喚について改めて話してもらうのは日を改めてもらってもいいですか?」
「そうね。私も、香も今は混乱していて話が頭に入っていかないわ。改めて、この件について問いたださせてもらうから。私達に説明できるように話をまとめておいてよ」
武藤さんの言葉で、ジョエルさん達は家を後にした。
こっちに来て大分経ったけど、ここに来て改めて召喚についてうやむやにしていたところをきちんと聞かないといけないという状態になったけど、話によっては私達の今後が左右されそうで少し怖いと感じてしまった。




