第58話 変質者の正体
変質者が現れたと思ったら、今度はファニスさん達が頭を下げる事態に発展したことに私達は困惑した。
何やら訳ありのようで、話を聞かないことにはこの状況から抜け出せないと判断した私達は、ファニスさん達に訳を聞くことにした。
「頭を上げて下さい。言える範囲で良いので訳を話して下さいませんか?」
「そうですね。団長、宰相、私から説明しても?」
「頼む」
「お願いします」
二人の許可を得たファニスさんは私達に変質者について説明してくれた。
「こいつは、フィーニス・リムという。残念ながら、私の実の弟にして、聖女研究の第一人者だ」
「「「えーーー!!」」」
ファニスさんから変質者の素性を聞いた私達三人は驚いて声を上げてしまった。
ファニスさんは、苦笑いで話を続けた。
「こいつは、昔から聖女の事が好きで、聖女の研究ばかりしていた。今回の召喚についても、こいつの助力があって初めて成し得たことなんだ。しかし、聖女好きが行き過ぎているのもあって、度々周りに多大なる迷惑をかけている」
そこまでファニスさんが話すと、今度はジョエルさんが引き続き説明をしてくれた。
「実は、異世界からの召喚について不明な点があって、今まで出来なかったのだが、フィーニスのお陰で謎が解明されて、今回儀式を数百年ぶりに行うことが出来たのだ。失われた、召喚の儀式について解明してくれた、この世界のある意味救世主なのだが……。この言動のため、あまり表沙汰には出来ない人物なのだ」
確かに、見知らぬ女性に構わず抱きつく救世主だなんて表に出せないわね。そんなことを考えていると、フィーニスさんが私の顔を凝視していたことに気づくのが遅れてしまった。
「ねえ、召喚された聖女さん?君の目はもしかして?」
そう言って、フィーニスさんは手を伸ばしてきた。もう少しで私に届くというところで、駆君がその手を叩き落したのだ。
「おい、変質者。こいつは錬金術師だ。聖女は奥にいる二人だ」
そう言って、私を背中に隠すようにフィーニスさんとの間に移動して、武藤さん達を指示した。
「ちょっ!東堂、その変態がこっちに来たらどうすんのよ!!」
武藤さんは、自分達が生贄にされたと、駆君を非難しながら、ガルドさんの近くに移動した。鈴木さんも一緒にガルドさんの背中に隠れるようにしながら、駆君を睨んでいた。
鼻をひくつかせたフィーニスさんは首をかしげながら、「おかしいな?変だな?」とぶつぶつ言っていたけど、ファニスさんに「おい!お前は反省も出来ないのか!!」と叱られて、ようやく私達に向かって謝罪したと思ったけど、そうでもなかった。
「申し訳ない。ボクは聖女について研究をしている、フィーニスと言います。先ほどは申し訳ございませんでした。聖女の事になると、ほんの少し我を忘れてしまうものでして。ただ、不思議なことに、そちらの二人よりも、眼帯の少女から馨しい香りがするものでして、もっと嗅いでも?というか舐めてもいいですか?舐めたいです。ちょっとでいいので!これは、研究の一環です。ただ、趣味で舐めたいのと訳が違います。ボクのこの欲求は崇高な―――」
そこまで一気に話したフィーニスさんは駆君とタイガ君の二人に無言で回し蹴りと踵落としをされて床に沈み込んでしまった。
それを見たファニスさん達は、「この変態が申し訳ございません!!」と話が振り出しに戻ってしまったけど、これはフィーニスさんの自業自得だと思うの。




