第40話 勘違い
騎士達を引きずった姿で、二人が登場した。二人に引きずられた騎士達は、「勘弁してよ」「いい加減にして欲しい」「巻き込まないで欲しい」と悲壮な表情で何やらぶつぶつ言っていた。
「第二王子、俺達のこと分かっていて掻きまわすのはやめていただきたい」
「いったいなんのことかな?」
「この、腹黒」
「アル!一人だけずるいよ」
「いや~、面白いことは全力で!が私の信条なので」
「アルの腹黒王子」
何やら、三人は揉めているようだけどなんで揉めているか分からないわ。そこで、テーブルの上のクッキーに気が付いた。このクッキーはまだ、試作中の特別製のクッキーで、二人には出したことがないものだった。これは、二人にプレゼントしようと思い、アル様に試食をお願いしていたものなのよ。
「二人とも、ごめんなさい。わたし、アル様にだけ特別(製のクッキー)を上げてしまって。でも、どうしてもアル様に最初に私の(作った)特別(製のクッキー)を上げたかったの。二人には、黙っていてごめんなさい。でも、(プレゼントのことは)秘密にしようってアル様が……。でも知られてしまったからには、話すわ」
そう言ったろころ、鬼のような形相で二人はアル様に掴みかかった。
「おまっ!小春を食ったのかよ!!俺たちに隠れてこそこそと!!」
「だから、小春さんは僕達に彼女とか言ったの?アル、どうして?僕達の気持知っていたでしょう?」
「ちょっ、まっ、二人とも落ち着いて、私が食べたのは、ハルちゃんの」
「ここで、小春の艶話でもする気か!くそが!」
「ひどいよ!アルの裏切り者!」
まずいわ、食べ物の恨みはここまで恐ろしいものだったなんて……。もう、プレゼントとか言ってられない。二人にもクッキーを食べてもらって、落ち着いてもらわないと!
「二人とも、落ち着いて!そんなに食べたいなら食べていいから!!」
私が二人にそう言ったとたん、ゆっくりと二人は私のことを見た。えっ?なんか怖いんですけど?
「ハルちゃん。今は不味い。迂闊なことは獣を解き放つだけだよ!」
は?けもの?アル様は一体どんなペットを飼っているというの?
そんなことを考えていると、駆君とタイガ君にサンドイッチの具にされてしまった。
「けほ、苦しいし、暑いよ。これじゃ食べられないよ?」
「ごめんなさい。でも、今はこうしていたいんです。」
そう言って、後ろから覆いかぶさるように抱きついていたタイガ君が謝った。そして、正面から抱きついていた駆君は、何も言わず顔を近づけてきた。
近っ!近い近いから!
駆君の接近に焦っていると、タイガ君の抱きつく腕に更に力が入ったと思った瞬間だった。
二人は私の首を噛んだのだ。私は、左右から首を噛まれたことがショックで涙がこぼれた。
だって、私に噛みつくくらい食べ物に飢えていたなんてショックでしかない。今まで、お腹一杯になるように、ご飯を作っていたけど、あの量じゃ足りなかったんだね。きっと、私に気を使って、お腹が空いていても我慢していたんだね。
そんなことを考えている間も、二人は私の首を噛み続けた。このまま、噛み切られて死んでしまうなんて、食べ物の恨みは怖すぎるわ。
いち早くフリーズを解除したアル様が慌てた様子で、二人を私から引き剥がした。
「二人ともストップ。勘違いだから!ハルちゃん泣いてるから!」
私は、二人に噛まれたショックから立ち直れずに腰を抜かしたまま、ふらふらとへたり込んだまま動けなかった。
ただ、騎士達に動きを止められている駆君とタイガ君を見つめることしかできなかった。
二人は、そんな私を見てはっとした表情になって声を掛けてきた。
「悪い。カッとなった」
「ごめんなさい。僕、なんてひどいことをしてしまったんだ」
二人の沈んだ表情を見ていたら、少しずつ頭が働いてきた。
「謝ることなんてないから。悪いのは私だから。二人に黙って、アル様と……」
そこまで言って、また涙が出てしまい言葉に詰まってしまった。
「そうか、第二王子と……」
「小春さん……」
二人は、辛そうな顔をしてそうつぶやいた。そんなに、クッキーを試食出来なかったことが辛いだなんて、二人に隠れてお菓子作りをするのはもうやめよう。これからは二人にも相談しながらお菓子を作ろう!だって、二人は食べるのが大好きなんだものね。
悲壮感漂う私達。これ以上何も言えずに見つめあっていた。
「ストーーーップ!!勘違いだから!!私が、食べたのは、小春さんじゃなくて、クッキーだから!!二人にプレゼントするためのクッキーの試食を頼まれていたんだ!!テーブルに置いてあるだろう!!!」
アル様は、いまさら何を言っているんだろう?
「「クッキー?」」
二人はそう言った後、テーブルに視線を動かした後に、また私を上から下、下から上と見まわした後に何故か顔を真っ赤にさせた。
「ごめん!小春。俺が悪かった!」
「小春さん!ごめんなさい!!」
二人に、もう一度謝られた。どうしたんだろう?試作だったと分かって安心してくれたってことかな?
「いいの。そうだよね。食べ物の恨みって怖いって話忘れていたわ。もう、二人に黙って他の人に試食をお願いしたりしないわ。これからは、二人に最初に食べてもらうから安心して」
「「…………」」
あら?二人だけじゃなく、その場にいた全員が何だか微妙な表情をしていた。更には、アル様や騎士達は、駆君とタイガ君を哀れむような何とも言えない顔で見ていた。
駆君と、タイガ君は微妙に光が消えた暗い目で「わかった」とだけ言ってくれたけど、何か返答を間違ったかしら?




