第30話 お砂糖
「高遠君、赤くなってるけどどうしたの?大丈夫なの?」
「あぁぁ、これは、うん。大丈夫」
高遠君はそう言ってから、何故か駆君のことを生温かい目で見て何度も頷いていた。本当に大丈夫なの?
そんなことを考えていると、高田君が木箱の中身を覗きながら、駆君と一緒になって、仕分けを始めていた。
「こっちが女子用で、こっちが食糧。はぁ~。いい匂い。早く支払いを済ませてもらって、食いたい」
「店に置いている物の価格は決まっているが、置いてない物については、要相談って感じだな」
「そうだ、お砂糖のことでちょっとご相談が。良いですか、ジョエルさん」
「お砂糖ですか?」
「こっちでは、お砂糖は高値で取引されているじゃないですか、錬金術でお砂糖作ったんですけど、金額設定について相談したくて。こちらの砂糖の売値に影響が出ないようにした方がいいと思って」
「砂糖ですか、そうですね。1キロあたり、金1枚ってところですかね?」
「うちのお店で、お砂糖を1キロあたり、銀1枚とかで売ったら、怒られちゃいますよねやっぱり」
「銀1枚!!それはちょっと販売は控えてもらいたいですね。現状、砂糖はすべて他国から輸入しているため、私の一存で判断は出来ませんが、簡単に砂糖が作れるのなら、そのレシピをこちらで買い取って、広く販売することも視野に入れて検討させてください」
「分かりました。一応、砂糖は少量持ってきてたんですけど、普通のお砂糖の金額を聞いちゃうと、売るのもあれなので、サービスってことにしておきますね」
そんなやり取りの後、代金をもらい、そろそろ帰ろうかと思ったときに事件(?)は起こった。
「折角、材料があるのに、誰も料理できねーのかよ」
「なによ、料理は女子がしないといけない理由でもあるの?」
「はぁ?普通の女子ならできんだろ?」
「こっちには、コンロもレンジもないのよ!無理に決まってるじゃん」
「米って生でもいけたっけ?」
「とりあえず、マヨがあれば何とかなんべ」
誰が調理するかで揉めてるみたい。そうだよね、こっちの調理器具は扱いが大変だもんね。う~ん。初期サービス?で1食分は作ってあげた方がいいかな?
「あの~。お米はお鍋で炊けるから、炊いてから食べてね。それと、今回だけご飯作っていくから、喧嘩はしないで欲しいな」
「小春、甘やかしは為にならないから、ダメだ」
「でも……」
「一度作れば、また次も要求してくるぞ」
「う~。毎回は困るかも」
「パンも焼いて来てるんだ、更に作ってやる必要はない。米の炊き方だけ教えれば十分だ」
駆君にそう言われてしまい、とりあえずお米の炊き方だけはレクチャーした。
※※※
お米の炊き方もレクチャーしたので、今度こそは帰ろうとした時に、聖女になった武藤さんが話しかけてきた。
「清水さん、今日はいろいろとありがとう。持って来てもらったシャンプーとか大切に使わせてもらうね」
「いっ、いいんですよ。私は女の子の味方です!」
「そう言ってもらえると、嬉しいわ。元の世界にいた時は、あまりお話する機会が無くって、良かったらこれからはもっとお話ししたいわ」
「!!よっ、よろこんで!!実は私も、本当は皆とお話したかったんだよ」
「なら良かったわ」
そんなことを話していると、駆君が割り込んできた。なんだか、もとの世界にいたときみたいだわ。
「そろそろいいか?タイガのことも心配だし」
「そうだね。帰ろっか。武藤さん、またね」
「あらあら、東堂はいつまでたっても、心が狭いわね。ええ、清水さん。またね。」
「言ってろ」
通された部屋を出た後で、ロジエルさんに声を掛けられた。
「小春君、その……。さっき箒に乗っていたけど?」
「ああ、作ったんですけど、どうしました?」
「いや~、その~」
「どうしたんですか?」
「小春君。僕は、錬金術師としての好奇心を抑えきれない。失礼と分かっているが、是非そのレシピを!いや……なんでもない。今のことは忘れてくれ……」
「レシピですか?別にいいですけど?」
「そうか、別にいいのか……。っえ?いいの?」
「はい。錬金窯さんの事や、ワインのことも知っているので、別に話してもいいかなと」
「まっ、まさか。あのワインを材料にしているとか……」
「はい、そうですけど?」
「なんてことだ……」
「あのワインに興味が出たのって、見せてもらった資料に、擬似的な命を吹き込むという記述があったので、そっちの研究のついで?のような感じですね」
「ゴホン。あぁ~、実は、これから暇なので良ければ、工房の見学とかできたらいいなぁとか、思ったり思ったりしてみたり……」
「いいですよ」
「そうか、いいのか。っ!いいの?」
「はい。そろそろ、お昼時ですし、よろしければ昼食でもとりながら錬金術話でもしませんか?」
「「是非!!」」
あれ?声が二重に聞こえたような?
「なんで、宰相も一緒になって返事をしてるんですか!」
「だって、ロジエルだけずるいんだもん」
「いい年したおっさんが「もん」とか言わないでくれますか?それに、僕は錬金術についての」
「それなら、昼食後に伺えばいいじゃないですか!」
「小春君が折角誘ってくれているんです。行かない理由はないでしょう」
「それなら、私も行きます。それに、アレの打ち合わせもしなければいけませんし。良いですよね?」
「はい。どうぞ?」
そんな訳で、今日のお昼は大勢で囲むことになりました。




