第17話 空飛ぶ箒
【幸福のワイン(仮)】は美味しかったけど、まだまだ改良が必要そうだと考え、入れる材料や分量を変えながら試行錯誤すること数日。ついに完成したしたのだ。前提条件の、透き通った色で、月の光で七色に輝くことも確認した。味も、最初に飲んだものよりも格段に美味しくなった。しかし、これで出来あがりなのか謎である。
最終的な材料は、謎の白い花から抽出した液体、蜂蜜、栄養剤(改)、蒸留水、リンゴとなった。複数ある回復薬を試したがどれも虹色に輝くに至らなかったが、改良した栄養剤に変えたところ、七色に輝いたのだ。しかし、弱い輝きだったので更に何か足そうと思ったところ、リンゴにははちみつが合うと思い入れたところすごく輝いたという訳なのだ。味も、リンゴの風味が加わったことで、甘みと酸味がちょうどいいハーモニー奏でたのだ。
取りあえず、【幸福のワイン(改)】の完成として、次に擬似的な命を吹き込む事が出来るのか研究を始めた。
結果から言うと、成功した気がします。工房を勝手に掃き掃除をしてくれる箒が出来あがったのだからね。材料も簡単なもので、藁と、木の棒、、縄、幸福のワイン(改)と研磨剤、中和剤で完成した。しかし、生きが良すぎて、工房の外には出せなかったのだ。(暴走する恐れがあったとは言えない)お店やお家も掃除できるように改良を重ねることに決めた。
どうでもいい話だけれど、生きのいい箒と命名したわ。
改良を重ねた結果、研磨剤の量を増やして、幸福のワイン(改)の量を減らしたところ、丁度いい箒に進化した。
さらに、生きのいい箒に栄養剤、風の魔法を宿した魔石と中和剤を組み合わせて、空飛ぶ箒を作り出すことに成功したと思う。工房で試し乗りした時は確かに浮いたのだから。でも、建物の中で飛ぶには狭かったので、広い場所での実験が必要だろう。
そこでお店の定休日に、街の外で実験することにした。すると、心配した駆君とタイガ君が付いて来てくれることになったのだ。折角なので、お弁当を用意してナシ湖に向かった。湖に着いた時には丁度お昼にいい時間になったので、先にご飯にすることにした。ご飯を食べていると、タイガ君が今日の実験について尋ねてきた。
「小春さん、実験したい事ってその箒と関係あるんですか?」
「うん。実はこの箒ね、空を飛ぶ可能性を秘めているのよ」
「……」
「……」
「二人とも、お願い可哀想な人を見る目はやめて頂戴」
信じてくれなかった。二人には、生きのいい箒のことはまだ黙っていたからね。信じられる要素なんて無いよね。
そんな訳で、食休みを挟んだ後に実験開始よ。
仕組みは、思念伝達式オーブンレンジ(仮)と同じね。飛ぶことをイメージして箒に跨る。すると、そよ風が吹いたと思ったら、足が地面を離れたのだ。気を抜かずにそのまま空に浮かぶことをイメージした。
「成功よ!見て見て二人とも!!」
空を飛ぶことに成功したことが嬉しくて、二人の頭上を飛びまわりながら喜びを伝えた。しかし、二人から返事がない。
「何よもう!私飛んでるのよ!見てってば!!」
思わず怒り口調で不満を二人にぶつけてしまった。
「飛んでることは分かった。すげー。でももう降りてこい!」
「なんでよ。楽しいからもっと飛ぶの。それに、どのくらい飛べるのかも調べなくちゃいけないし」
「ちっ、ちが!」
「こっ、小春さーん。違うんです。ス、スカートが!」
タイガ君の言葉ではっとした。そう言えば私、今日はスカートだったことを忘れていたわ。でも、そんなこともあろうかと、中に短パンを穿いているので大丈夫なの。なので、二人にもそのことを伝えた。
「それでもだ!箒で飛びたいならズボン着用だからな!」
「短パン穿いてるから問題ないでしょ?」
「そういうことじゃねーよ!」
渋々、地上に降りると、タイガ君はすごいすごいと褒めてくれた。そして、跨るのではなく、箒に横向きに座ればいいのではないかとアドバイスしてくれた。どっちでも変わらないように思うけど、駆君も横座りに賛成していた。更に、ズボン着用でとも、しつこく言われた。
横座りで何度か飛んでいると、だんだん飛行速度や高度が落ちてきた。持ってきた栄養剤を与えると元のように飛べるようになった。検証の結果、長時間飛ぶことはできるが、力が弱まると突然落ちることはないが、徐々にスピードや高度が下がること、栄養剤を与えると、元通りになることが分かった。二人には安全な乗り物と理解してもらえたので、今後どこかに移動する際は使ってみようと思う。二人にも使いたかったら専用の箒を作ると言ったが、何故か断られてしまった。楽しいのに残念だわ。
それと、今後箒を欲しいと言う人がいても、何かあってもこちらの所為にしないと約束できる人にだけ販売するようにと言われてしまった。そうだよね、無責任だけど、落っこちてけがをし、こちらの所為にされても困るものね。
そうしていると、日も暮れてきたので帰ることにした。その時私は、もともとは、第二王子のための幸福のワインだったということを完全に忘れていたのだった。
そのことを思い出したのは、折角おしい飲み物が出来たのだからと駆君とタイガ君、それに常連さん筆頭のメリッサさんと、あれから仲良くしてもらっているフェルトさんで試飲した時だったのだ。




