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第16話 これはジュース

 帰宅後二人には、ちょっとした作成依頼で呼ばれたとだけ伝えた。二人はなんとなく、口外禁止の内容と察してくれたみたいで、これ以上話に上がることはなかった。


 数日後、ギルドの会議室には、城から運ばれたという貴重な資料の写しが置かれていた。持ち出しも、書き写しも禁止なので全員が真剣な表情で資料を読んでいた。私も借りた資料を読んでみたが、面白い記述があったのでそっちにばかり気を取られてしまった。何でも、擬似的な命を吹き込む材料に使えると書いてあった。えっと、ホムンクルスってやつ?の事を想像した。その後、日本にいたころ少し欲しかった。ル●バを想像した。自分で判断して掃除をしてくれるのって最高じゃないですか!これが本当なら、勝手に掃除をしてくれる掃除機的な物を作ることが出来るかもと少し脱線したことを考えてしまった。

 考えが脱線しつつも分かっている材料について考えるが、ワインと言うが葡萄が材料にないのよね。ワインの定義って何だっかかしら。お酒に詳しくないので何とも言えないわ。そう考えていると、お酒好き(?)のフェルトさんが教えてくれた。フェルトさん曰く、葡萄で作った物がポピュラーだけど、果実で作ったお酒がワインということらしい。ならば、材料で分からない物の中には、何らかの果実も含まれるのかな?

 現在分かっている材料は、蒸留水、蜂蜜、回復薬だ。他に資料から分かったことは、何かの花が必要ということと、美味しいということと、透き通った色をしているが月の光を当てると七色に輝くといったことだけ。なんだか、作れる気がしないわ。

 必要な花については、具体的な名前は不明。白い花とだけ資料には書かれていた。しかし、資料の最後の方に花の絵が描かれていたので、きっとこの絵花が必要な白い花なのだろう。う~ん。どこかで見たような気もしなくもないわね。


 結果から言うと、私は作成を諦めました。必要な材料が分からなければ作りようがないもの。それに、この世界に来たばかりなのでこの世界特有の植物なんて分からないので探しようがないもの。資料を見せてもらった日、研究する気がある者は費用を受け取って帰るように言われたけど、作れる気がしなかったので早々に辞退を宣言してギルドを後にした。たとえ根性無しと言われようが、良く分からないものを研究するよりも先に作りたいものが山のようにあるのだもの。そちらを優先したって良いじゃないのさ。




 ※※※


 依頼を辞退してから数日のことだった。その日は定休日のため、駆君とタイガ君とで庭で育てている薬草やハーブの世話に勤しんだ。駆君に依頼して、街の外で取れる薬草を根っこから持って来てもらって増やすことに成功したのだ。


 一通り世話も終わり、今日のお昼はお庭で食べようと思い、ホットサンドイッチとおにぎり、定番の唐揚げと卵焼き、それとデザートにアップルパイを用意して、以前駆君に用意してもらったガーデンセットのテーブルに並べた。今日のお茶は、お庭で育てたバーブを使ったブレンドティーよ。

 食事をしつつお庭を眺めると、お庭の隅の方に花のつぼみらしきものがあった。


「あら、あんなところに何か植えていたかしら?」

「もともと植えられていたやつだな。前は、俺が取ってきた薬草を植えているところに生えていたけど、何の花か分からないから、花には悪いと思ったが隅の方に植えかえさせてもらった。前に、夜に咲く花見たよな、あれだよ」


 そう言われて思いだした。引っ越した当初に月明かりの下で咲いている白い花を見たっけ。幻想的で可愛かったなぁ。……ん?そう言えば、資料で見た白い花の絵に似ているような気もしなくもないわね……。今夜にでも咲きそうな膨らみ具合だし確かめてみようかしら。


 そして、夜。結果から言うと、資料に合った花に非常に似ている花だった……。うん。似ているだけだよね、たぶん。出来るかわからないけど、ル●バみたいな掃除用具を作る為に、研究する価値はあるよね。そう思い直し、花を少量採取した。しかし、採取した後で、このまま朝になったら花は萎むのではと考えて、夜遅い時間だが今から着手することにした。


 たしか、ワインって葡萄を潰して置いておくと出来るって聞いたような気がする。なら、花を潰して出てきた汁と潰した花を使うことにした。これだけでは少なすぎると思い、街の外にあるナシ湖と呼ばれる湖から採取した水を蒸留した蒸留水も加えてかさ増しすることにした。それらを、錬金窯さんに入れて完成を待つ。出来あがった、謎の白い花水からいい匂いがした。微かに光を帯びているようにも見えた。その次に、蜂蜜、蒸留水、回復薬を準備。回復薬はどれがいいか分からなかったので、取りあえず傷が治る程度の物を用意した。

 錬金窯さんに用意した材料を入れて成功をお祈りする。数分ほどすると、『ポンっ』という音がしたので、中を覗くとうっすらと光る液体が出来あがっていた。念のため手元に回復薬(強め)を用意して飲んでみることにした。アルコール成分になりそうなものは入れていないので、ジュースジュースと自分に念じながら……

 匂いは、先ほど嗅いだいい匂いのまま、蜂蜜の甘さが加わり更にいい匂いになっていた。恐る恐る一口飲んでみる。


「~~~~~!おいひいです~~」


 更にもう一口。まずい、かなり美味しい。思わす、コップに注いだ物を飲み干してしまった。なんだか、いい気分。もう一杯飲みみたいかも。でも、これが【幸福のワイン】なのか確かめないといけないと思い、少しふら付く足で外に出た。幸いにもまだ、月は出ていた。液体を月の光に当てると微かに輝きを増した。しかし、虹色ではなかった。青みがかったグラデーションをしていた。それを見て、未完成ながらもそれらしいものが出来た手ごたえを感じた。


 そう思ったら、急に眠気が出てきてしまった。部屋に戻らないといけないと思いつつ、誘惑には抗えず、リビングのソファーに吸い込まれるようにして眠ってしまった。

 次の日駆君にすごく怒られた。ちょっと、ソファーで寝ていたくらい良いじゃないのよ。あんなに真っ赤になるくらい怒らなくてもいいじゃないのさ……。まぁ、ちょっとだけだらしない恰好になっていたので少しだけ反省してます。

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