第10話 ピクニック
いちご商店には定休日がある。そう、ホワイトな経営を心掛けているのよ。
この世界は、一ケ月が30日で成り立っている。更に言うと、6日で1週。その周が5週で1ケ月となっている。1週は、木の日・火の日・土の日・金の日・水の日・聖の日で成り立っている。基本的に、聖の日は休日となっているそうだ。そのため、学校の休みや国で定められた祝日が聖の日に来るようになっているそうだ。他の国では、龍の日と呼ばれているらしいが、ステイル聖王国では、その昔召喚した聖女を敬い、もともと龍の日だったところを聖女を敬う日、聖の日としたとかしないとか。
そんなわけで、いちご商店も聖の日を定休日としているのです。
私は基本的に、錬金術の研究は聖の日に行っている。誰でも閲覧自由な街の図書館を利用したり、街の本屋を覗いたりしてね。
そんなとある聖の日に、とうとう駆君と街の外に行くことになったのだ。駆君は、私の依頼で何度も街の外に採取や、調査に行ってくれているが、私が街の外に行くのはこれが初めてになる。
なせ、街の外に行くことになったかというと蜂蜜のためである。この世界では、蜜蝋で蝋燭を作っているため、簡単に蜜蝋が手に入るが、蜂蜜は何故か手に入らないのだ。そう、この世界の人たちは、蜜蝋は取っても、蜂蜜は採らないのだ。
そんなわけで、ハチの巣を求めてピクニックがてら、街の外に行くことになったのだ。
最初は、駆君が一人でハチの巣を取って来てくれると言っていたが、召喚されたクラスメイトの頑張りのお陰か、街の外は比較的安全になってきたというのだ。
それならば、一度外に出てみたいと思っていた私は、ピクニックを提案。最初はしぶっていた駆君だが、スペシャルなデザートを用意していると言ったら渋々ではあるものの許可してくれた。
ふふふ、甘党にはスペシャルデザートという切り札が良く効きますこと。
そんなわけで、定休日に初の街の外への外出となったのだ。
※※※
街から遠くない場所で、ハチの巣は簡単に見つかった。私には良く分からないが、騎士の能力なのか、駆君は簡単に蜂を追い払い、ハチの巣を採取したのだった。
早々に、目的のものも手に入れたので駆君お勧めの、安全で景色のいいお花畑に案内してもらいランチをすることになった。
駆君は、サンドイッチやから揚げなどの、ピクニックと言えば定番と言えるメニューでも喜んで食べてくれた。
そして、用意したスペシャルデザートの『アップルパイ、アイスクリームを添えて』も喜んでくれた。(アイスクリームが溶けないように、錬金窯さんで保冷剤モドキを作って準備をしたのよ)
そろそろ帰ろうかとした時だった。急に空が曇りだし、雷鳴が轟いた。更に、獣の遠吠えのようなものまで聞こえてきた。周りを警戒していた駆君は獣の遠吠えを聞いた瞬間に顔色を変えたように見えた。
「まさか、本当にここはあの時の場所なのか?」
「どうしたの駆君?」
駆君は誰にともなく、疑問を呟いていた。一体何のことだろう?
「小春。必ず君を守る。だから何も言わずに着いてきて欲しい場所がある」
とても真剣な表情でそう言った彼を見て、私は一緒について行くことに決めた。前の私だったら断っていたと思う。いや、そもそも一緒にピクニックなんて行こうとは思っていなかったわね。一緒に住むようになって数週間ではあるけど、駆君との間に信頼と友情のようなものが芽生え始めていたのは確かだと思う。
「分かったわ。駆君について行くよ」
「ありがとう」
そうして、走り出した駆君の背中を追いかけた。数分は走っただろうか、駆君が立ち止まった場所はお墓のような場所だった。
そこには、先ほど聞いた遠吠えの主だと思われる獣?が数匹いるのが見えた。良く見ると、何かを囲い込むようにして、威嚇するように唸り声を上げていた。
「小春は俺の後ろにいてね。絶対守るから」
そう言って、駆君は腰に下げていた棒切れを正眼に構えた。そう思った瞬間一気に駆けだした。私にはまったく動きが見えなかったが、あっという間に数匹いた獣?が地面に倒れて動かなくなっていた。駆君は、棒切れを払うような仕草をした後に、再び腰に戻したのだ。
私はというと、何も分からすただ、立ち尽くしていた。なぜ、彼がこんなことをしたのか考えていると、駆君は獣?が威嚇していた方向に進んでいったと思ったら、大きな木の前で立ち止まり、しゃがみ込んだ。
駆君を追いかけて、私も木の前まで進んだ。すると、木の根元に少年が蹲るようにして気を失っているのが見えた。獣?達はこの少年を襲おうとしていたようなのだ。駆君は少年の力のない腕を取って脈を測っていた。
「駆君……」
「大丈夫、弱いけど脈はあるよ」
「そっか、良かった。持ってきた回復薬があるんだけど効くかな?大きな怪我があるようなら、この薬じゃ効かないかもしれない」
「見たところ、大きな怪我はないと思うよ。念のため、飲ませてから、運ぼう。家に連れて行ってもいいかな?」
「もちろんだよ」
駆君は、意識を失っている少年に何とか回復薬を飲ませた後に慎重に背中に背負ってからゆっくり歩き出した。私は、少年を心配しつつその後を追った。
そう、私はこの時、少年の容体が心配で何故駆君が少年の危機に駆けつけることが出来たのか疑問に思うことはなかった。




