最終章[終わりの時]第1話
[やっぱりか……]
[そうなると、あの触手が厄介ね。]
まあ、各自避ける事に集中すれば、王と触手の同時攻撃くらいなら掠りもしないだろうが、問題なのは、ステラ救出を狙った場合確実に感付かれる。
そうなると、あの触手で守りを固められた場合、魔力で攻撃してもどうしようもない。
[それなら……ってのはどうだ?]
俺が提案した内容に対して、二人は少し考える。
[まあ、それしか無いでしょうね。でも、間に合うかどうか……]
[でもそれ以外ないなら、仕方ないのも確か……]
[決まりだな。]
渋々ではあるが、了承してもらえてよかった。
[それじゃあ、早速連絡しておくね。]
[ん……]
森の中で待機していると、頭の中に情報が流れ込んでくる。
[……成程、2人とも、出番だそうだ。]
[やっとか……]
[失敗しちゃったんですか?]
[いや、内容は……だ。]
2人とも、納得したようだ。
[ふむ、ならば急がねばな。]
[ああ、それじゃあ早速ーー]
出発しようとした瞬間、背筋に確かな悪寒を感じた。
[少し…待ってもらおうか。]
聞き覚えのある声だ。
まさか、このタイミングで来てしまうとは……いや、偶然にしては出来すぎている…成程、そういう事か。
[まさか、お前がそっち側に着いていたとはな。]
振り返り、鋭くそいつを睨む。
[久しぶりだな。ソロモン!!]
[ここが王室ですね。]
間違いない。
俺が来た時もここで戦った。
[苦労もへったくれもなかったわね。]
確かに、警備が薄かった訳では無いが、俺達相手では殆ど無意味に等しいレベル……王は俺達の襲撃を考えていなかったのか?
[どうする?突入する?]
[この後に及んで、立ち止まっても仕方ないだろ?
大丈夫だ。リアたちならきっと間に合う。]
今回は本格的に失敗できない。
チャンスは1度のみ、これを逃したら救出の難易度が格段に上がる。
[そう、ね。
わかった。]
良し、それじゃあ行くか。
[合図したら、俺とクルスで突入する。ユリカゼは打ち合わせ通りに頼んだ。]
[はい。]
俺は、スリーカウントをとる。
[1…]
カウントが進む事に緊張が走る。
[2の……]
そして……
[3ッ!!]
俺とクルスは、同時に突入する。
[……来たか。]
正面に構える玉座には、1人の男が座っている。
そして、その傍らの檻には、ステラが……
[ステラを返してもらいに来た。]
王は、玉座から立つ。
[返すとは人聞きが悪い。
元々、ステラは我が娘、貴様らに所有権があるとでも?]
[所有権とは言い様ね。
人を所有する権利なんて、本来誰にもありはしないのよ。]
クルスが反論する。
[では聞くが、奴隷は所有されていると表現する以外にどう表現する?]
[それはあなた達人間が無理矢理縛り付けて拘束しているだけでしょ?
確かに、奴隷に対して信頼や、好意をもって接する主はいるでしょう。
でも、それは、所有だなんて言葉では表すことの出来ない何かよ。
あなたにはどれだけ語っても分からないでしょうけど……]
クルスが、数百年の以上もの月日を生きる魔神だからこその言葉、彼女だからこそ、人間と言う生物そのものを客観的に評価できる。
[どうやら、ソロモン殿から聞いた話は本当の様だ。
いやはや、魔の神であるあなたに言われると耳が痛いな。
だが、それは貴様ら神の道理、その道理に従う義理も義務もない以上抵抗はさせてもらおう。]
周りから、例の黒い触手が出現する。
[2人とも、先に行け。]
私は、それだけ言って、2人に転移をかける。
[……さっさと追いかけて来い。]
リレイドがそれだけ言って、飛ばされた。
[ふっ、勝手な奴だ。
何だろうな…新しいメンバーとはどうも反りが合わない。]
だが、今の言葉普通に勇気が出る。
[遺言は済んだか?]
[そんなもの、必要ないさ。]
当たり前だ。
単なる傭兵風情にあそこまで言われて、黙って死んではやらん。
幾千もの魔法、術、技能を用いて、かつての……を倒そう。
[……多くは語る必要も無いか、成長を見てやろう…小娘。]
相手の実力は図るに及ばず、最初から殺しに掛からねば此方が死ぬか……相手もそれが分かっていて、敢えて捕らえるなどとは言わなかったのだろう。
[いつまでも上から目線はだな。
あまり舐めてると後悔するぞ?]
重力魔法起動。
それと同時に、私を中心とした半径数百メートルに深海の更に奥底…その場所と同じ、或いはそれ以上の圧力が掛かる。
[ふむ、成程、高速移動が出来ないように重力で圧力を掛けたか……強大な重力の前では、光すらも直進を許さない。
あくまで単純な撃ち合いを望むか。]
まあ、意図には気付くと思っていたが、本質はそこじゃない。
初めから、この爺と真正面から撃ち合おう等とは考えていない。
魔法戦での優劣は、単純な力量が拮抗している場合、経験の有無で全て変わる。
この場合、向こうに分が有るのは明白だ。
確かに動きにくくしたのは正解だ。だが、それをした理由は他にある。
[行くぞ!!]
[……]
双方ともに数えられるだけでも幾万もの魔法陣を同時に起動する。
それも、全てがこの時代に置いては、使えるだけで力量が認められるレベルの最上級魔法。
双方の魔法は超重力下でも問題なくぶつかり合い、爆裂の勢いは圧力により発生と共に封殺される。
[……]
やはり、威力も技量もあっちが上か……
唯一こっちが上回っているのが、魔力の質と量。だが、それだけでは圧倒的経験と技には太刀打ちできない。
こっちが無限の一手を所有していようが、向こうはそれを神の一手で捻り潰す。
流れた氷結魔法が地面に衝突し発動するが、下に向いた圧力に従って押し潰される。
撃ち合いは当てる当たるかの勝負。
両者ともに疲れなど一向に見せずに、高威力の魔法をほぼ正確に撃ち合い、躱し続ける。
[ふん、神話級収束砲クラウソラス。]
このままでは埒が開かないと判断したのか、魔力操作の一部を一点の魔力収束に回す。
出遅れれば負ける!!
[神話級守護方陣アヴァロン!!]
リアはそれに合わせて、相応の魔力障壁を発動させる。
両者ともに発動させたのは、自らが生きた神話の時代の魔法。
現代に置いては神の御業と恐れられる魔法の究極系。
収束は一瞬で終わり、天に描かれた何重もの巨大な魔方陣を通して神の雷が直撃すると、超重力下にも関わらず、周りの地形が変動する。
[アヴァロンは砕かれたか……]
その中心に、未だ傷一つ追わず健在の魔女。
だが、ソロモンはその隙を見逃さなかった。
[固有魔法エクスカリバー!!]
間も無く放たれる第2波。
そして、その威力は先の雷の数倍にも達する。
[くッ!グラビティフォース!!]
勿論素で受けてしまえばお終いだ。
リアは、完全に防ぐことは出来ないと判断して、重力魔法を高速回転させて、次元を歪ませ美しい盾を創成する。
[無駄だ。それでは防げん。]
[ぐ、ぬぅ……]
リアのグラビティフォースは、詠唱してこそ真価を発揮する。
無詠唱で放たれた両者の盾と矛は、拮抗こそすれ差があり、リアの盾は砕け放たれた第2の魔力砲は爆散する。
[……]
コートやスカート、黒のストッキングは所々破け、下のブラウスも裂けて生身の箇所にも傷が何個も出来る。
そこに、砂煙を掻き分けて、数本の細いレーザーの様な光が、飛翔し追い討ちをかける。
[ぐっ……]
合計4本の魔力弾を防ぐ手段は無く、あっさりと魔力障壁を貫いて四肢の内1本の腕を残して直撃し貫通する。
そして、衝撃はリアの貴社な体など簡単に吹き飛ばす。
[勝負合ったな。]
老人は余裕を残した表情で近付いてくる。
もう立つことも出来ず、ちょこんと座るのがやっとだ。
手負いの私など相手にならないと判断したのだろう。
だが……
[……]
[もう話す気力も無いか。]
確かに、両足と片腕を持っていかれた私が、正攻法で勝つのは既に不可能だろう。
だが、こっちだって奥の手の1つも無いわけじゃない。
勝負に置いて大事なのは、如何に相手に奥の手を使わせず、自分の奥の手を使うかだ。
[奥の手を最大限の効果を発揮させて使うには、布石と準備が居る。
あなたはそう私に教えたな。]
[そんな事も言ったな。
だが……今更何を布石にすると?]
そう、布石にするものが無ければ奥の手を使っても神の一手には届かない。
だが、あれば話は別だ。
そしてそこに、相手を上回る要素全てを掛ければ。
[これが、答えだ!!]
そして、温存していたある魔法を発動する。
[ん?何だ…この魔法は!?]
老人は、初めて驚きの声を上げる。
[世界創成魔法……]
あまりにも大掛かりな布石だ。
ひとつを刈り取るためにしては無駄の過ぎる愚策……だが、神の一手を越えるものを作り出すにはこれしかない。
[見せてやろう。神々の黄昏を……]
[させるとーー]
もう遅い。
[ラグナロク発動。]
唱えると、周りの景色は尽く一変し、老人の目の前に居た少女は消えていた。
[なっ!?これは、結界?
いや、そんな言葉では図ることすら出来ない。
もっと強大な。]
[お前の予想する通りだ。]
少女は、夕焼けの空に出現する。
[これが、私の持つ究極の魔法。
唯一無二の固有魔法……]
世界創世魔法
ー神々の黄昏・ラグナロクー




