4章[救う為始まり]第19話
[……成程。]
あれからクルスは、リレイドにも事情を説明した。
[依頼主を救ってくれた事には感謝する。だが……]
クルスに対する明らかな警戒、やはり流石のプロの傭兵。
[信用出来ない?]
[まあな、仲間を救ってもらったからと言って、そう易々と人に信用を置く事はこの業界では死を意味する。当然だろう?]
恐らく、本気のクルスはリレイドよりも強いだろう。
だが、それをわかっていてなお物怖じしていないのは、流石と言うべきだろう。
[どうしたら、信用してくれる?]
クロクロが起きたら、真実を話すつもりだ。
私が、外から見てきた全てを……
[……すぐには無理だ。だが、今聞いた事が本当かどうかをクロトに聞く必要があるからな。それが、本当だったなら、一先ずは疑いの目を閉じよう。]
[……わかった。今はそれで良いわ。]
とりあえず、それで話はついた。
後は……
[出てきたらどう?二人とも。]
私がそう言うと、何も無かった所から、2人の少女が現れる。
[気付いていたか。]
その2人とは、リアとユリカゼの事だった。
2人は、少し前にこの町に転移して、透過の付与魔法をかけて話を聞いていたのだ。
[迷彩の出来は流石と言うべきでしょうけど、練り込みがまだまだよ。]
リアは、わざとらしく肩を落とす。
[それはどうも、人間的な意味では極致の存在である魔神から評価してもらえるとは、光栄の至りだ。]
リアの方も、嫌味たらしく言う。
[だがな、掛けられた呪いの解呪1つ満足に出来ない魔の神など、聞いて呆れるとも、思えないか?]
[あなたに出来たとも思えないけど?]
2人の放つ空気のせいで、緊迫していく場、ユリカゼとリレイドは巻き込まれまいと傍観、ただ一人シャルルがあわあわとしている。
[[……]]
どうして会った瞬間、喧嘩を始めるのかと、ユリカゼは思った。
2人とも、自分なりに極めた魔法、その極致には、どちらも確実に足を踏み入れているが、それ故にプライドの高さに棘がある。
[まあまあ、リアさんも、今はそんな場合ではないはずですよね?]
見兼ねたユリカゼが仲介に入った。
[く、それもそうだな。]
[正論ね。]
2人とも引き下がった。
[……少し良いか?]
[私、ですか?]
[ああ、少し話がある。ついて
リレイドが、ユリカゼと一緒に宿を出る。
面識も接点も無いはずだけど。
[シキハラ・ナハト、と言う名に聞き覚えはあるか?]
ユリカゼが目を見開く。
[シキハラ・ナハト。
あなたが何故その名前を……]
[知っている見たいだな。]
[はい。……シキハラ・ナハト、その人は私の父親です。]
リレイドが眉をひそめる。
[なに?]
[本当です。]
リレイドは少し考える。
[という事は、お前が現代法王。]
[はい。確かに私は、先代法王、父さんから真名を受け継いでいます。ですが、何故あなたは私の父さんの前の名前まで知っているのですか?]
何よりもそれが気がかりだった。
父とはほとんど話した事が無かった為に、当然と言えば当然だが、ユリカゼ本人は、法王としての父の事を尊敬しこそすれ、嫌った事など1度もなかった。母も同じだ。
父が亡くなったと聞き、泣いた日を今でも覚えている。
そして、自分が次代法王だと聞いた時も、もうあの日々には戻れないと覚悟した。
だが、それでも父の面影を探した。
だが、一向に父の情報は見つからなかった。それはそうだろう。
真名持ちの家系が、情報をそうホイホイと残しているなどありえない。
父の知っても、口止めをされている者が殆どだろうと、内心諦めかけてはいた。
だからこそ、これ程のチャンスはもう二度とない事もわかった。
[うむ……話しても構わない。口止めはされているが、今更セインの家など気にしている訳でも無い。だが、聞いてどうする?]
[……胸の内では、まだ父さんに何も言えてないんです。確かに葬儀には参加しましたし、亡くなったお父さんの亡骸も見ました。でも……]
リレイドは、呆れたと言わんばかりに息をつく。
[全く、お前ら親子は……いや、親子だからこそ、か。]
リレイドは、ユリカゼに自分の知っている全てを話した。
[シキハラ、あの男は俺の友だった。何度か仕事も共にした時もあった。]
リレイド自身も思い出しながら語った。
[ディー、一つ聞いていいか?]
リレイドは現在、森の中で野宿の準備をしていた。
そんなリレイドに、一人の男が話しかける。
[……なんだ?]
シキハラ・ナハト、後のシキハラ・セインであり、ユリカゼの父親だ。
[いやなに、大した事じゃ無いんだけどさ……お前なら、自分と、自分とにとって何よりも大切な人を天秤に掛けた時、どっちを選ぶ?]
[……それは、人として俺個人に聞いているのか?それとも、傭兵としての俺に聞いているのか?]
[どっちも、だよ。]
リレイドは、少し考える。
[ふむ……俺はそう言った事には疎いんだが、まあ、後者を選ぶだろうな。]
まず、傭兵としての自分なら後者である事は間違いない。それは、一個人としての私情を挟んだとしても、変わるものでもないだろう。
[お前なら、そう言うと思ったよ。
まあ、実を言うと俺も同じなんだけどな……]
ナハトは、照れくさそうに言う。
[まだ、自分の女も持っていないやつが何を言っているんだ?]
分かりやすく肩を落とす。
[うぅ、痛いところを……]
[……お前、好きな女でも居るのか?]
[なっ!何故それを!?]
やはり、分かりやすい。
[そんな質問をするからだ。
この仕事が終わったら、何とか、とか言うんじゃないだろうな?]
[しねえわ!!それ確実に死ぬ奴が言う事じゃねえか!!]
リレイドは、怒るナハトの背中を叩く。
[なら、生きて帰られるよう、俺も少しくらいは協力してやる。]
[……へっ、素直じゃねえな。]
その後、無事仕事は終わり帰還した。




