4章[救う為始まり]第14話
[クロト……]
[あの男なら大丈夫だ。何者かは知らんが、異空間に転移したのは確かに確認した。]
リレイドとシャルルは、中立国ユイティアに無事脱出し、今は宿のエントランスで今後について話していた。
[クロトも、同じ事を言っていました。]
[そうか。今の俺が出来ることは、お前を守ることだけだ。他の事は奴が奴なりに出した答えがある。帰ってくるまで待つしかなかろう。]
[そう、ですね、ありがとうございます。頭の整理がつきました。]
心なしか、さっきまでよりも顔が明るくなった。
[ならば良い。しばらくは国の追っても来ないだろう、ここを拠点にして、頃合いを見て出発する。]
[はい。]
[あの、リアさん。]
リアとユリカゼは、現在氷山地帯の頂上付近まで来ていた。
この山さえ超えれば、中立国まで一直線だ。
[なんだ?]
[いえ、ちょっと周りの雰囲気が変だなって。]
[ふむ……]
リアは、魔力の都合で一旦解除していた索敵系の範囲魔法を、全て展開する。
[いや、確かに何か近付いて来ているな、これは……]
リアは、上空を見た。
晴れ渡る空に、2つの影を確認する。
[セイン、片方を頼む。]
[わかりました。]
ユリカゼは、神具を取り出す。
[さて……]
2つの影は、凄まじい速度で、地表に降り立つ。
[探したぞ、リア・ニルバーナ。]
執事の様な服を来た奴が1人、武装に身を包んだ戦闘専門であろう奴が1人、降り立った。
[ソロモン様がお呼びだ。一緒に来い。]
[随分と偉くなったなヤナク、そんな呼び出しに私が応じると思うか?]
執事っぽい奴が、ヤナク。武装に身を包んでいるのが、ハサナだ。
ヤナクが、苛立ちながら、1歩前に出る。
[貴様の意思など関係ない。あの方が言うのだから、無理矢理にでも来てもらうぞ?]
[やれるものなら、やってみろ。]
ソロモン、神話時代最強の魔法師として、叡智の魔術王と言われていて、私の師匠でもある。
[そうか……ハサナ!]
[……!]
4メートルを越えるであろう大男が、リアに突進する。
[ぐ、ぐぉあーー!]
[なに!?]
大男は、数メートル先に吹っ飛ばされる。
[大男の方の相手は私がします。
リアさんは執事方を。]
[わかった。]
セインは、駆け出す。
[ヤナク、お前は2対1で私を相手するつもりだったらしいが、1対1の勝負で私に勝てると思うか?]
[無論だ。今の万全な状態ではない貴様には負けん。]
ヤナクは、武器無しの拳を使う近距離戦闘型、遠距離から距離を取れば負ける要素はない。
[……ライジング・フレア!]
ほぼ予備動作無しで、無詠唱の高威力魔法を放つ。
魔法は、ヤナクに命中し爆裂、したかに思われた。
[……ふッ!]
いつの間にか、近距離に詰めてきていたヤナクが、細い直剣で突きを放ってくる。
[なに!?]
間一髪の所で避けるが、それでも今のを避けられるとは思わなかった。
[……!]
そこから、間髪入れずに連続攻撃を放ってくる。
くっ!距離を……
[ぐっ!]
私が後方に飛ぶと、凄まじい速度で間合いを詰めてくる。
[やはり消耗が著しい様だな、この程度の斬撃にかすり傷を負う貴様ではなかった筈だ!]
そもそも、ヤナクは剣を使っていなかった筈、この数百年の間に使いこなしたという訳か。
[ふっ!丁度いいハンデだ!]
私は後方に下がりながら、斬撃の合間を縫って反撃に出る。
[そこ!]
[なに!?]
ヤナクの斬撃に合わせて、魔力障壁を張り、それに剣が触れた途端爆裂する。
[カウンター・ストライク…成る程、魔力障壁に条件指定で起動する起爆術式を仕込んだか。]
[正解だ。まあ、わかった所でお前に勝ち目は無いがな。]
私は、体の周りを魔力障壁で覆い、それにも例外なくカウンター・ストライクを仕込む。
[ふん、その程度で勝ったつもりとは……]
[何が言いたい?]
[なに、それは一度見た時点で封じたという事だ。]
ヤナクは、距離を詰めると、剣を突き出す。
そして、カウンター・ストライクが起動……しない。
[なに!?]
念の為、躱す準備はしていたが、剣の速度が予想よりも速く、片方の腕を貫かれる。
[ぐっ!転移!]
片腕を切り落とされる前に、転移で後方に下がる。
[首の皮一枚で繋げたか。]
血が溢れ出す腕を一瞥して、回復魔法をかける。
[くっ、予想したよりも状況が悪いな。]
あれを、使う必要があるか。
[ぐあ!]
[遅いです。]
ユリカゼは、霧雨の刀身で、確実にハサナにダメージを与えていく。
[降参することを進めますよ。]
この人、確かに硬いけど、このまま連続剣で倒しきれる。
[ぐ、ふぅ!]
大男が、両手を組み合わせて地面を叩く。
グランド・ギガスマッシュ
大男を中心に巨大な亀裂が地面に入り。断崖の刃をたてて、全方位に広がって行く。
[全方位攻撃!?]
ユリカゼは、空中に跳躍して回避する。
[ふっ。]
大男が、不敵な笑みを浮かべる。
[な!?]
無数の断崖の刃が一斉に伸びて、ユリカゼを捉える。
[しまっーー!]
数本は斬撃を飛ばして壊したものの、残りの10数本は命中する。
[ぐ……がは!]
咄嗟に張った障壁によって、身体を貫かれるまでは行かなったものの、強烈な痛みとダメージが、ユリカゼに入る。
ユリカゼは、そのまま地面に叩きつけられる。
[う、ぐぅ……]
ユリカゼは、よろめきながら立ち上がる。
[く……]
頭部からの出血、腹部を強打、四肢は問題無し、ダメージ量は大、予想以上の消耗ですね。
ユリカゼは、状況を分析する。
[あれを何とか出来ないと……]
大男は、また構えに入る。
成る程、魔法じゃない物理技だから、クールタイムが無いんだ。
[クロトさん……ごめんなさい。]
あれを凌いで、大男を、倒すには、これしかない。
[神影刀・霧雨……]
大男は、地面を叩く。
断崖の刃がユリカゼに迫る。
[神具・根源・解放]
断崖の刃が、少女の体を飲み込む。
[……]
確実に仕留めたと、そう確信を持った大男は、背を向けて、本来の目的である、ヤナクとの戦闘中でたるリアの方へと歩き出す。
[仕留めた。とでも思いましたか?]
ハサナは、驚いて振り向く。
[神具の根源解放、私の持つ神影刀・霧雨の神具解放は、単純な出力アップではありますが、根源解放は同じ武装でも使用者によって顕現の仕方が変わる。]
砂煙の中から現れたユリカゼは、雰囲気こそ別人、薄く水色かかっていた髪は、黒く塗りつぶされて、変化の程を知らしめる。
[あなたはもう、手も足も出せません。]
[……ッ!!]
ハサナは、両手を組んで振り上げる。
[……]
そして、地面に叩きつけようと振り下ろした。
[ッ!?]
だが、強烈極まる衝撃が、再び地表を襲う事はなかった。
それもその筈だ。
叩きつける筈だった腕は、根元から両方共に切り飛ばされ、宙を舞っていたからだ。
[身の程を理解しましたか?
それが、人間の手を出せる限界です。]
ユリカゼは、先の学園での事件の時に、自分の甘さを呪った。
襲撃者と言えど、真名持ち相手に善戦出来るものなどそも居るはずが無いのだ。ユリカゼは相手の制圧を目標に動いていたが、相手は違った。この違いが、生徒達を殺したのだ。
幾ら、ユリカゼやリアが強いと言っても、相手が玉砕覚悟で殺しに来ているのに対して、殺さずに制圧などと言う生温い考えで挑めば、命など湯水の様に流れていく。平和ボケで緩み切っていたユリカゼにとって、命のやり取りにおける非常さなど備わっていなかったのだ。
だからこそ、相手が殺しに来ている以上、止めたくば四肢をもぐなど構わないし、その気になれば殺すことも厭わない。
それが、彼女の答えだった。
[次は首を落とします。
降参するなら殺しはしません、逃げるという形で意思表示しなさい。]
その場で降参するなどと言った所で信用する気は無い。
五体満足で逃げたいならそうすれば良いし、腕がもげているだけなら足で逃げれば良い。
ただし、戦意喪失している者に限るが。
[愚かですね。]
大男は、一目散に逃げ出す。
[ふ……]
一瞬の後、男の頭は宙を舞った。
[私が、その手の騙しに引っかかると思いましたか?]
そう、今ユリカゼがトドメを刺したのは、男が反撃の機を伺っていたからだ。
[すみません。クロトさん。]
自分のこんな姿を見た彼は、恐らく幻滅するだろう。だが、それも守る為ならば、耐えられる、彼に見離されても、彼とその周りを守れるならば、それで良かった。




