4章[救う為始まり]第13話
時は、クロトが遠い異国の地で目覚めた頃に遡る。
[うぐ……ッ!]
金髪緑眼の少女は、白色での、どちらかと言うと男物のコートの裾を、雪の混じった極寒の風になびかせる。
[ふぅ……]
少しの間膝をついていた彼女だが、すぐに立ち上がり、歩を進める。
[……]
[やはり、無茶をし過ぎたか、ここまで元素回路を損傷してしまうとは……]
雪の降り積もる山に、ポツンと一つの山小屋があり、リアはそこで、体力を回復させた。
[呪いの解呪は短時間で出来たが、こればかりはどうしようもないか。]
私は、あの黒い触手に貫かれた腹を擦る。傷等の負傷は負ったものの、それはすぐに回復させる事が出来たが、重度の呪いを受けた状態で、魔力がほぼ枯れていたにも関わらず、グラビティ・フォースを無理矢理使った結果がこれだ。
[飛行が出来なくなったのは、やはり相当に堪えるな。]
そう、現在リアは飛行魔法が使えない。
クロトをランダム転移で逃がした後、途中までは飛行で移動していたが、10分もした時、急に魔力行使のコントロールを失いかけて、墜落した。
[とにかく、当面の目標は、クロトとの合流。そこまでは……]
すると、外から、近づいてくる気配を感じる。
[こんな山小屋に、何の用だ?]
私は、とりあえず、魔法で気配を隠蔽して、物陰に隠れる。
[……]
だが、予想と反して入ってきたのは……
[リアさん、私達です。]
この声は!
[セイン、何故ここに……]
そう、小屋に入ってきたのは、リアも良く知る人物、法王の真名を持つ、ユリカゼ・セインだったのだ。
[学園の方は、帰ってきた学園長と剣聖に任せて、魔力の痕跡を頼りに探しに来たんです。]
リアは、もしも自分を探してくれている、学園の生徒が居たなら、少しでも見つけやすい様に、微弱な魔力を業と垂れ流していた。
[ああ、そうか。
……セイン、私はクロトと合流する為に旅をしている、お前さえ良ければだが、一緒に来てはくれないか?]
今のリアは、万全の状態ではない。とは言え、彼女がそう簡単に負けることは有り得ないが、それでも信頼出来る仲間と一緒に行動した方が良いのは火を見るよりも明らかだった。
[それは構いませんが、その前に聞きたいことがあります。]
セインは、これが本題だと言わんばかりに、真剣な面持ちになる。
[こっちで、一体何があったのか、です。]
成る程、確かにセインならば何よりもそれを知りたがるだろう。セインは、クロトの事を非常に尊敬している為だ。
[わかった。私の知る限りを話す。]
[く、うぅ……]
こ、こは?
俺は確か、あのおっさんに負けて、それで……
だか、そこから先がどうしても思い出せなかった。
[……]
辺りを見渡すが、何も無い、本当に何も無く、ただ天には青空が広がり、地表には、その綺麗な青を移す透き通った水が張っている。
[これは……]
だが、その水は、触れることは出来ても、濡れる事はなかった。
[……そうだな。]
俺は、とりあえず立ち上がり、もう一度辺りを見回すと、武装等の持ち物を確認する。
[防具と携帯していた道具は基本的にあるな、神具も……良し、あるな。]
俺は、ルミナスを持たずにこの世界を出歩いた事は、ほとんど無い、と言うか無いに等しい、初めから持っていた訳では無いので、本当にこの世界に来たばかりの頃ぐらいだろう。
[さて、どうしたものかな。]
俺が考えていると。
[ん?こんな辺鄙な場所に来客用だなんて、珍しい事もあるものね。]
背後から、声が聞こえた為、振り向く。
[……]
こんな所に人?
いや、確かに何も無い場所だが、やはり人は住んでいるのか?
容姿は、魔女がよく被っているとんがり帽子に、背丈は150くらいで、髪は薄い緋色で、手入れをあまりしていないのか、足元まで伸びていたり、寝癖が所々にあったり、服装も緑色のポンチョとブラウスにショートパンツと言った感じだ。
[……あなた、名前は?]
俺が少し沈黙すると、少女は微笑して、聞いてきた。
[……私の名前は、クルス・アーリス、哀れな神のなりぞこないの一人。]
クルス・アーリス、彼女はそう名乗った。
ん?ちょっと待て、神のなりぞこない!?
[……クロト・カザヤ、俺の名前だ。それより君は、今自分の事を神のなりぞこないって、言ったよな?]
[そう、まあこれでも世界一つ滅ぼした魔神の1人なのよ?]
魔神、リアから話だけ聞いた事がある。
俺が異世界から来たように、世界は幾つか存在し、それと同じように並行世界も存在する。
魔神は、その名の通り神の亜種の様な存在で、その全てが世界を滅ぼす力を持っている。
[……]
[……ここね、元々世界があった場所なの。]
少女の魔神は、辺りを見渡したがら言う。
[世界が、あった場所?]
[うん。私は、私が生まれ育った世界を、自分で壊したの。]
何処か懐かしむような、いや、寂しさを紛らわそうとしているのかもしれない。
[だから、数千年の時を、ここで過ごしてきた。]
理由は、言わなかった。聞くのも野暮だと思い聞かなかった。それが、彼女なりの贖罪なのだろう。
数千年、ただの人間である俺には、永遠とも言える時だ。
俺は、気になった事をひとつ聞く。
[なあ、一つ聞いてもいいか?]
[ん?良いよ、特別に何でも答えてあげる。]
妙に羽振りが良いな。
[仲間は、シャルルは無事なのか?]
やはりそこだった。
俺が戦ったソロモンは、正直シャルルじゃ反転しても勝ち目が無い。
[ん?ああ、無事よ。あなたと一緒に居た、やたらと強い霊装使いが助けたわ。]
[そうか、良かった。]
とりあえず一安心だ。
[まあ、ゆっくりして行って、何も無い場所だけど。]
[君は、ずっとここに?]
[そう。さっきも言ったけど、数千年間ずっとよ、あなたは当ワンダーランドの二番目のお客様。]
二番目、という事は、過去に一度だけ人が来たことになる。
[……寂しいとか、思ったりしなかったのか?]
[寂しい?]
少女はクビを傾げる。
[ほら、ずっと1人なんだろ?]
[うん、そうだけど。意外とそう言うことを気にしてくれるんだ。
寂しい、か……もう何年も前に忘れてた。]
忘れはしても、降り積もっていく思いや感情そのものが消えるわけじゃない。
[そうか……そう言えば、話によると、ここは世界の狭間の様な場所なんだろ?何でそんな場所に俺は来てしまったんだ?]
[私が助けたからよ。間一髪の所であなたをここに転移させたの。]
つまり、彼女はソロモンに殺されかけていた俺を、この世界に転移させることによって、助けてくれたのだ。
[どうして、助けてくれたんだ?]
[え?うーん、そうねぇ……]
少女は、思案する様な仕草をとると。
[気まぐれ、かな。]
[気まぐれ?]
[そう、気まぐれ。別に深い意味は無いから。]
やはり、神に等しい存在の考えることは、俺には理解できなかった。
[神なんて、魔神だろうと正規の神だろうと、俗物な事には変わりないから、気まぐれに人を助けるし、気まぐれに世界を滅ぼす。そう言うもんなのよ。]
[そう言うもんなのか……]
彼女によると、すぐにでも現世には戻せるらしい。だが……
[いや、もう少しここに居させてもらうよ。]
[そう?まあ、良いけど、何で?]
まあ、理由は単純だ。
[まあ、正直純粋な興味があるから、かな。完全な神様じゃないって言っても、それでもそれに等しい力と格を持つ君が、どう言う価値観と強さを持っているのかが、知りたい。]
[ふぅん……それじゃあ、これっきりの関係じゃないかもだし、ちゃんと名前で呼び合おっか?]
確かに、話をする上で、いつまでも他人行儀過ぎるのも野暮か。
[俺は、クロトで良い。]
[うん。それじゃあクロクロは、私の事をなんて呼びたい?]
これまた唐突な。それと、クロクロってなんだよ?
[え?じゃあ、クルスって呼ばせてもらっていいか?]
[勿論、よろしくね、クロクロ。]
[ああ。]
妙な、親近感があるのも、今の俺は、違和感としてすら覚えていなかった。
後に、違和感が鑑みえる時が来る。




