4章[救う為始まり]第11話
俺達は、やっとの思いで国境を越えて、現在リレイドとの合流地点である、隣国の町であるハラスで宿を取っていた。ここで、リレイドと落ち合う約束をしている。
[お、居た居た。]
宿屋のエントランスに明らかにごつい男が居る。
[む、随分と遅かったではないか?]
[ああ、すまない。]
実際なら、もっと早く落ち合うつもりだったのだが、シュバリアとの戦闘に予想以上に時間を使ってしまった。
[……うむ、まあ良い。本題は別にある。]
[ああ。]
まあ、十中八九これからの方針についてだろうな、大方は決めているが、細かい打ち合わせはまだなのだ。
[明日の日の出前には、この町を出発し、更に隣国を目指す。すぐそこに敵地がある時点でこの国も安全とは言いきれん。]
全く持ってその通りだ。
[ああ、大方はその案で良いと思う。だけど一つ質問がある。]
[なんだ?]
リレイドは、できる限り情報を開示しようという姿勢を見せる。
[お前は何処までついてこれる?]
それは事前に聞いておきたい、ある程度まで同行して途中から別行動をとるなら、その辺も念頭に入れてプランを再確認する必要も出てくる。
[……少なくとも、この国を出るまでは同行すると約束しよう。]
いつまでも同行できないのは、集団で動く事は、逃走生活においては不利にもなり得るからだ。
[そうだな……わかった。俺はこの辺で良い。]
俺はシャルルの方に視線を向ける。
[私も、特には。]
俺が聞く前に発言する。
[わかった。明日も早い、今日はゆっくりと休め。]
[ああ、そうさせてもらう。]
そして、俺とシャルルはそれぞれの部屋に入室し、眠りに着いた。
それから、俺達の日々は過酷さを増した。
追っ手は思ったよりも早く隣国に到着し、包囲網を展開してきた。
国境の山岳地帯までは近付いたが、近付けば近付くほど、警備と地形が厳しくなってきて、リレイドに関しては全く堪えていなさそうだが、俺は若干、シャルルに至っては目に見えて疲れが見え始めてきた。
[うむ、予想はしていたが、まさかここまで展開が早いとは……]
確かに、隣国に入った後も、常に追っ手が付き纏う事ぐらいは予想の範疇だったのだが、まさかここまで包囲網の展開が早いとも思わなかった。
[……まるで、シャルルが逃げ出して、この国を経由して逃げることがわかっていた。かの様な早さだな。]
幾ら軍事に長けた国といえども、領地を越えて隣国に展開するともなれば、そう簡単には行かないはずなのだ。ただ一つ、事前に準備していたと言う可能性を除いて。
[ああ、これは、強行突破する事も考えなければならないかもしれん。]
迂回すると言う選択肢は、真っ先切り捨てた。
ここまで用意周到なんだ、それくらい念頭に入れて展開しているに違いない。そんな事をすれば、本当に脱出不可能な要塞と化してしまう。
[……まあ、それしかないか。]
俺とリレイドの二人であれば、一国の軍事戦力を丸ごと相手どれる自信すらもある。シャルルを守りながらだとしても、たった数枚の岩で出来た程度の包囲を突破すること自体は、そこまで難しくは無い。
[……奴が居る事が唯一の懸念材料だが。]
フレア・シュバリア、俺が撃破した時に、拘束してお縄にしようとしたのだが、霧に隠れて消えてしまったのだ。
[それは……まあ、言っても仕方ないだろ、作戦は念入りに練る、尽くせる全てを尽くそう。]
勿論、それでもどうにもならない時もある。現実って言うのは、何かしたからと言って、必ずしも相当した対価を得られる訳では無いのだ。
[うむ、それしか、無いか。]
こういう時は、余計なしがらみは取り払い、警戒する事と達成しなければいけない事に意識を集中しなければ、失敗する。
[ふぅ……]
俺は、夜の山風に当たる。
[まだ、起きていたのですか?]
岩の影で寝ていたはずのシャルルが、声を掛けてくる。
[ん?ああ、何か、眠れなくてな。]
体力的には問題なくても、精神的には堪えている証拠だ。
[自分の体なのにな、上手くいかないもんだよ。本当に……]
俺は、覚醒者の力を手に入れて、この世界で戦いながら生きてきて、それなりには頑丈になったとは思っていたのだが、精神的にはまだまだ子供、国を相手どって逃亡し続ける日々なんて、涼しい顔して耐え抜ける方がおかしいのだ。そんな事を当たり前の様にこなせるのは、リレイドや剣聖、ユリカゼやリアに限った話なのだ。
[……今からでもーー]
[却下だ。]
弱音なら良い、この状況でそれの一つも吐かずに平然としていろと言う方が無理だ。俺も今、若干弱音を吐かせてもらった。だが、諦める様に促されるのだけは、どうしても受け入れられなかった。
[っ……!まだ、なにもーー!]
[聞かなくても分かる、優くて責任感の強い君の事だから、どうせ、今からでも自分を見捨てろ、とでも言いたかったんだろ?]
正直、人のやる気と精神の柱を挫く様な真似はやめてもらいたい。
[う、それは……]
[弱音なら幾らでも聞く、相談でも何気ない世間話でもだ。だけど、諦める事を勧めるのだけはして欲しくない。]
そもそも、彼女はこんな思いすらしている事に対して、もっと我儘を言って良いのだ。
[君は、もっと自己中心的になっても良いんだ。今まで他人本意に動いて来たんだから、それくらいは許されて当然なんだ。]
それでも余りある時間を、払いきれない業を、彼女は背負ってきたんだ。
[やっぱり、わかりません。]
今はそれでも良い。
これからの人生、くだらない事で苦しまなくて済むようにしてあげたい。
[ここもか……]
俺達は、あらゆるルートから、包囲を抜け出そうとしているのだが、まるで俺達の行動を監視しているかの様に先回りされる。
[ふむ、少し戻る必要があるか。]
横は断崖絶壁、こんな所まで警備が及んでいるのは、少々計算外だったが、やはり少し戻って、出来るだけ警備が薄そうな所に照準を合わせて突破するしか無いだろう。
[シャルル、戻るぞ。]
[はい、わかりまーー]
シャルルが言葉を発し終える前に、足場にヒビが入って崩れ、少女はバランスを崩す。
[ぶねっ!]
俺は、間一髪の所で、シャルルの手を取り、引き上げる。
[居たぞ!]
[くそ、見つかったか!]
今の音で見張りが俺達を捉える。
[すみません、私が……]
[……気にするな、それよりも無事で良かった。]
俺達は、最後のルートを歩いていた。
[……来たな。]
[ああ。]
場に、緊張感が張り詰める。
[そこまでだ。聖女を誘拐した反逆者共。]
みるみる内に周りは包囲され、俺達は逃げ場を閉ざされる。
[都合が悪くなったら反逆者とはな…中々にいいご身分じゃないか。]
確かに、相手を犯罪者に仕立てあげてしまえば、大義名分を示して惜しみなく手を出せる。
[ふん、首を突っ込む所を間違えたな、ディー。]
そして、俺達に相対する騎士達の正面から、騎士正装に身を包んだ君主の様な男が現れる。
[ラスタ、貴様こそ身分に気負けて存在意義を見失ったようだな。]
リレイドが、返答する。
ディー、成る程、ディバインだから愛称がディーという訳か。
[なんとでも言え。今我々の国を守る為には、そこの聖女が必要なのだ。]
[散々使い潰しておいて、今度は戦争の道具か?いいご身分だな正義の騎士さんよ。]
俺が、男に向かって言う。
[最善の手だとは思わんさ。だが、私のやるべき事は、以前の様な傭兵としての公平な正義ではなく国の正義だ。]
ああ、言えばこう言うとはこの事だ。この男が言っている事を要約すると、国としての大義名分があれば一人の少女の犠牲くらいは出しても仕方が無いと言っているようなものなのだ。
[……それで?幾らあんたが強いと言っても、こっちは国家戦力レベルの実力者二人だ。一人で出来ることなんて相場が決まってるぞ?]
[……聖女を連れて先に行け、クロト。]
そう言って、リレイドが前に出る。
[……何か考えがあるんだな?]
リレイドは、後ろは向かずに頷く。
[わかった。]
俺は、シャルルの元に行く。
[シャルル、少し我慢してくれるか。]
[わかりました。さっさと抜けちゃいましょう。]
シャルルは少しも嫌がらずに、1回目同様俺に身を預ける。
俺は、先日とは同じように、片腕でシャルルの体を抱き寄せる。
[行くぜ!]
俺は、道を開く為にルミナスの神具解放を使用する。
[[[[ぐわぁぁぁぁぁあ!!]]]]
道を塞いでいた兵士が吹き飛ぶ。
その隙に、俺はシャルルを連れて跳躍する。
[行かせん!]
男が何も無いところから、全長4メートル程の赤い大剣を取り出すと、俺目がけて振りかぶる。
[貴様の相手は俺だ!]
リレイドが霊装を使用して攻撃する。
[助かった!]
俺はそのまま、断崖の山を超速で走り去った。




