4章[救う為始まり]第8話
[……]
どれくらい、寝ていたのだろう。
ベッドの誘惑と戦いながら、体を起こす。
[私、確か……]
私は、教会のベッドで寝ていた。
記憶が朧気だ。
ただあの後、彼と、クロトと共にこの教会に帰ってきたのは覚えてる。
[……]
私は、ベッドから降りて、部屋を出た。
[おお、シャルルくん。目を覚ましたのか。]
偶然なのか、通りがかった神父さんが声を掛けてきた。
[トラストさん、迷惑をかけてすみませんでした。]
私は頭を下げる。
トラストさんは、この力を使って活動していた時の仲間達に、裏切られた時、私に手を差し伸べて、旅にも付き合ってくれた上に、この教会に匿ってくれた。
[いや、謝罪する必要はない。何せ連れ戻してくれたのはクロトくんだ。多くの言葉は彼に掛けてあげなさい。それと、彼には謝罪ではなく礼を言ってあげなさい、きっとそっちの方が喜ぶ。]
トラストさんは、優しく微笑んで答えくれた。
[はい!あの、クロトは何処に……]
[ああ、何やら街に行くと言っていたな。夕刻には帰ると言っていたが……]
何でまた、見ていたらわかるが、無駄な事と分かっている事をする人ではないので、何か意味があるのだろうが。
[そうですか、わかりました。]
[ああ、安静にな。]
[はい。]
神父さんは、教会の奥に去っていった。
あの戦いの後、俺はシャルルを連れて教会に戻り、一晩明かした後の早朝、すぐに街に向かった。
[ここか……]
俺は、ある酒場の前で立ち止まり、一息に扉を押し開ける。
[……]
中にお客さんは居らず、一人だけ、見覚えのある男が、カウンター席に座っていた。
[聖女の暴走は、止めた様だな。]
隣に座ると、男は視線だけを俺に向けて呟く。
そう、この男は、先刻戦った傭兵の男だ。
[まあな、だけど、もう一刻の猶予も無い。]
俺は、最強の傭兵に、正式に依頼を申し込む。
[傭兵ディバイン・リレイド、いやガブリエル、俺はシャルルをこの国から逃がそうと思う。]
男は、暫く沈黙すると、重い口を開いた。
[依頼内容はなんだ?]
[俺がシャルルを国外に逃がす場合、この国の王室は必ず阻止しようとしてくると思う、だからあんたには、そいつらの足止めと国境を越える手引き、その後の同行を頼みたい。]
単刀直入に、依頼内容を告げる。
[報酬は?]
[出来る範囲でなら、言い値で出す。]
破格の条件だが、100万シティくらいまでなら、俺は学園に居た時から、お金を全くと言って良いほど使わず溜め込んでいたので、全額叩けば現金である。
[……]
男は、少し考えると、答えを出した。
[……わかった。その依頼、受けさせてもらおう。]
[……良いのか?]
それは、王室からの依頼を無視すると言う事に他ならないからだ。
[俺は自分の信念に従ったまでだ。報酬も申し分無い。断る理由など元よりない。]
半分建前の様にも聞こえるが……
[……恩に着る。]
[その必要は無い。これは我々が、お互いに、相応の対価を払い成立した契約だ。]
[ああ、そうだな。]
だが、ようやく糸口が掴めてきた。恐らくだが、この男は、本気のリアと同等レベルに強い、それは、今の俺よりは強いことを意味する。
根源解放を使えば、或いは勝てるかもしれないが、そもそもそんな隙は与えてくれないだろう。
[作戦決行は明日だ。時間を無駄にかければ、実行すら困難になる。]
[それには同意するが、作戦内容の方はどうする。]
[それなら、もう練ってある。]
俺は、思念伝達を使って、リレイドの脳内に、直接情報を送る。
[……成る程、ならば、ここをこうすると、より完璧になる。]
次は、リレイドが思念伝達を使って、俺に情報を送る。
[……わかった。決定だ。]
[お前はとにかく、聖女を守ることだけを考えれば良い、それ以外は俺の仕事だ。]
[ああ、頼む。]
これが、一番最善の策だ、俺はまだ子供だし、この世界の事にも詳しくないし浅はかだ、ならば、この力を持って、押し通れば良い、これがリレイドの作戦だ。
[明日の早朝には、もう出る。バックアップ頼んだ。]
[ああ。]
そこから、俺は教会に戻って、トラストさんと、シャルルを呼び出した。
[シャルル、驚かないで聞いて欲しい。]
俺を除いた三人以外誰も居ない部屋で、淡々と告げる。
[明日の早朝、君を国外に逃がそうと思う。]
[……]
二人とも、何も言わずに、少しの間沈黙すると、シャルルが口を開く。
[……そろそろ、頃合いだとは思っていました……]
[……すまない。今はもう、こうするしか……]
俺は、視線を落とす。
[いえ、責めるつもりはありません。ただ、少し名残り惜しいです。]
二人とも、他の皆を呼び出していない時点で、気付いてはいるだろうけど、隠密行動になるので、教会の皆にはお別れは言えない。
[別に、二度と会えなくなる訳では、無いんですよね?]
[……]
それは、俺にも分からない。
長い年月が経てば、会える確率の方が高い。だが、全員と再開できるかは、保証できない。
[……ああ、勿論だ。]
今の俺には、曖昧な返事は許されなかった。
[トラストさんも、それで良いですか?]
俺は、神父の方に視線を移して、問いかける。
[……シャルルくんの安全の為だ。是非も無い。]
[ありがとうございます。それじゃあ明日、日が昇る前には出発するから。]
シャルルは、無言で頷いた。
俺は、朝日が登る前の、薄暗い教会の前で待っていた。
[お待たせしました。]
教会の扉から、神官服の少女が出てきた。
[その杖は?]
金髪の少女は、神聖な気配を漂わせる、不思議な杖を持っていた。
[トラストさんが、持たせてくれました。若い頃に使っていた、秘蔵の杖だって。]
魔法を発動させる触媒としての完成度は、俺のルミナスすら上回る程の力を持っているであろう、恐らく神具だ。
これを、あの神父が持っていたとなると、やはり過去には相当な冒険者だったのだろう。
[……そうか、国境を越える手筈は整ってる。それじゃあ行こうか。]
[はい。]
俺とシャルルは、教会に向かって1度礼をすると、その場を去った。
私は、旅立っていく子供達の姿を、窓から見送っていた。
[彼等に、神の祝福があらんことを……]
そして、祈りを捧げた。




