4章[救う為始まり]第7話
白銀の世界。白く染った地面と木々を抜けた先の少し拓けた場所に、彼女は居た。
[……ごめんな。俺が、考え無しだったばかりに……]
黒い荊棘の様な何か、に包まれたシャルルは、虚ろな視線を向けると、右手を此方に伸ばした。
[ッ!?]
俺は反射的に、後方に飛ぶ。
案の定、俺が立っていた場所には、数本の光の槍が突き刺さる。
[問答無用、か。]
この感じ、俺は知ってる。
あの黒いオーラと言い可能性は元より1つ、真名持ちに起こる事象、反転凶化。
[……やるしかないか。]
ルミナスを抜く。
元より、こうなったのは俺のせいだ。助ける他に選択肢は無い。
まあ、未完成とは言え策が無いわけじゃない。何とかしてみせるさ。
セカンド・リミッツ解放。
[行くぞ!!]
[……]
戦闘を始めたは良いが、正直予想以上に強い。
と言うより、魔法みたいなやつが意味が分からないくらい強い。
[くっ……]
今俺は、シャルルが作り出した光の玉から発射される、高熱の光線を避け続けていた。
魔力を込めた刀身で撃ち落とそうにも、玉の方も光線の方も、単なる熱の塊のようなものだから、整然少し刀身が赤色になって通り過ぎるだけ。
発射される無数の熱線に、本人が放つ魔法?を、今の所回避しきれているが、雪が降り積もった足場の悪い森の中では、何時下手をしてもおかしくない。
なら、長期戦は好ましくない。
[やるか……]
あれが本当に、唯の熱の塊なら、策が無いわけじゃない。
[……はぁ!!]
片方の腕で、思いっきり地面を叩いて、砂埃を立てシャルル本人の視界をまず奪う。
[ッ……!!]
そこから、思いっきり跳躍し地上数十メートルまで行く、光の玉は勿論俺を追ってくる。全て一塊になって。
[今だ!フリーズ・ブレイク!!]
追ってくる光の玉に、氷の棺桶が何重にも覆いかぶさり、魔力で数ミリ程度まで一気に収縮させる。
[……上手くいったか。]
収縮された一点が、激しい轟音を発して大爆発を起こす。
上空に翔べば、確実にあの光の玉は俺を追ってくるが、本人の意志関係なく動いているであろうあれは、ある動きをすれば重なって動く事は、ここまでの戦闘で分かった。だから、光の玉を取りこぼさず一点に集め、そこに高密度の氷の魔力を集め、収縮させる事で、急激に冷却されたそれは、大爆発を起こし消滅する。
[……終わりにするか。]
着地し、すかさず奥の手の準備に入る。
[……]
腰を落として体を開き、シャルル目掛けて右手のルミナスを水平に構え、左手は前に突き出し、突きの体勢をとる。
反転した真名持ちを助けるには、意識を飛ばし無力化するか、心の闇を精神干渉で消し去るかの二択だ。
この場合、俺は後者を選んだ事になるのだろう。
[ふぅ……]
目を閉じ、集中する。
実際に閉じていた時間は、1秒程度だろうが、体感としては、数分にも感じられた。
読み取り、通わせるんだ。
神具と、自分をーー
[……]
今度は、目を開きしっかりと相手を見つめ、神具の魔力では無い本来の力を解放していく。
[はあぁぁーー]
神具解放・覚醒の先にあるもの、神具に記録された神話を読み取り具現化し、望む形に振るう。
その際生じるエネルギーは、魔力でも元素でも無い。
神力…それが、神具の持つ本来の力。
まだ、未完成だ。
だが、シャルルを救うにはこれしか無いんだ。だから、力を貸してくれ…ルミナス!!
俺の思いに呼応するように、ルミナスが激しい轟音を立てて、光と粒子を放ち始める。
それと共に、俺自身も全力の覇気を込め雄叫びを上げる。
[はあぁぁぁぁぁーー!!]
光は剣のみならず、俺自身にも纏われる。
勿論シャルルは阻止する為に攻撃してくるが、どんな妨害も、俺に届く前に、放たれる粒子の嵐に阻まれて消える。
時を刻む事に勢いを増す粒子の嵐が、一気に剣に収縮される。
神具・根源解放
[ああぁぁぁぁーーッ!!]
そして、右足を前に出して踏み込み、剣を突き出す。
[ーーッ!?]
シャルルは、目を見開く。
一閃の光の槍となって、放たれたそれは、少女の体を一瞬すら越えた速さで突き抜ける。
[……]
実に数秒の出来事が、俺には数十分もの激闘に思えた。
シャルルも俺も、しばらくそのまま動かなかった。
[……ふぅ。]
剣を、突き出したままの体勢からゆっくりと降ろす。
そして、シャルルは少しの間ふらついた後、倒れる。
[シャル、ぐ……!?]
彼女の元に向かおうとした瞬間、剣を持っていた手に激痛が走る。
流石に、無茶しすぎたか。
動かない右手の剣を、左手で持ち鞘にしまい、彼女の元に向かう。
[おいシャルル、大丈夫か?]
シャルルの目が僅かに開く。
[ク、ロト……?]
俺が貫いたであろう場所からは、血が出ている訳でもなければ、目立った傷も見当たらない。
[分かってる。ごめん。]
[いえ……私、旅をしていた時に、トラストさんと会ったんです。
元は、他に仲間が居たんですが、色々とあって、別れちゃって……]
裏切り、か。
この界隈では、パーティーメンバーからの裏切りは珍しくない。俺はたまたま、ステラやユリカぜと言った。聖人級に出来た仲間が居たおかげで、そんなトラブルにも直面した事はなかったが、他もそうだとは限らない。
推測の域を出ないが、シャルルはその仲間だった奴らを相当信頼していたんだろう。
他にも色々とあって、ああなったのだろう。
[……帰ろう。]
[……]
それ以上の言葉は、その日の内には出なかった。
お互いに、整理したい事があったから、それが1番良いのだと理解していたから、それで良かった。
俺達は、そのまま白銀の世界を歩きながら、教会に戻った。




