4章[救う為始まり]第6話
[いっけぇぇぇぇーー!!]
放った全力全開の魔力解放は、男に命中する。
[……どうだ?]
[どうした?もう、終わりか?]
嘘だろこいつ、どんだけ強いんだよ。
砂煙が晴れて、俺が魔力解放を放った箇所の中心を見ると、未だにこの男は健在、既に数発は魔力解放を叩き込んでいるのにこれでは、マジで勝てる気がしない。
[ふっ…冗談。まだまだ、こっからだ。]
強気は見せておくが、正直俺は俺で、逃げられる時に逃げなければならない。
[ふむ、そうか……]
男は、剣を大きく掲げる。
[ではその覚悟、この一撃で試させてもらおう。]
掲げられた刀身が、薄く青い光を帯びる。
[霊装・カラドボルグよ、力の一端をこの者に見せてやれ。]
刀身が粒子を放つ、そして少し軋んだ。
[……来る!]
恐らく、全力全開の魔力解放でも推し返せないのがくる。
回避は不可能に近いだろうし…だったら、正面から受ける他ない!
[あらゆる理不尽を切り裂け。
カレイド・コンビクション!]
速い!
やはり遠距離から斬撃を飛ばす技か、ルミナスじゃ受けきれない!!
[アイギス!!]
手を前に突き出し、そこを中心に青色の剣が八つ、交差するように象られた盾が出現する。
アイギス程にもなれば、中文省略がやっとだが、ギリギリ間に合った。
[……ふむ。]
横一線で放たれた斬撃は、アイギスに着実にダメージを蓄積させる。
[ぐぅ……]
無敵の盾である筈のアイギスに、ヒビが入る。
嘘だろ!?
単発での攻撃なら、リアの全力すら防ぐ盾だぞ!?
[ふっ、終わりだな。]
[く、ぬぅ……]
まずい、このままじゃ持たない!!
アイギスが完全に砕けると同時に、片方の手で濁っていたルミナスを両手に持ち替えて、受け止める。
[う、おぉぉぉぉーー!!]
どちらにしろ、このまま真面に受けたら死ぬ。
受け切るしかない!!
受け切れる筈が無い。
この一撃は、先代法王すらも防ぎきれなかったのだから。
[……]
障壁は砕け、奴を守る物はあの剣1つ、終わりだな。
ゆっくりと背を向け歩き始める。
[……ッ!?]
妙な圧力を感じ、振り向くと、今まで斬撃に押されていた筈の少年は、確実に防ぎ切ろうとしていた。
[馬鹿な!?この一撃を防ぐなどッ……!!]
そこで、ある事に気付く。
[なっ……!!]
少年は、変わっていた。
魔力の質、存在感、風格、そして外見までも……
髪の色は純白に変化し、目から放たれる鋭い眼光は、命を暗黙の内にやり取りする暗殺者のそれだ。
[……成程、これも精霊からの思し召しか……]
[はぁぁぁぁぁああッ!!]
少年は、凄まじい覇気と共に斬撃を受け切った。
[はぁはぁ……]
何とか、受け切った。
何が起こったのか、殆ど朧気にしか思い出せない。
本人は気付いていないが、髪の色も元の黒に戻る。
[……明日、街の酒場に来い。
俺の名は、ディバイン・リレイド。この界隈では、ガブリエルと呼ばれている。]
それだけ言って、男は去った。
[なんだったんだ……]
これは、本人に聞く必要があるか……
[クロトッ!?]
教会に戻ると、真っ先にシャルルが飛びついてきた。
[大丈夫でしたか?]
[幸いな事にな…悪いけど、ちょっとトラストさん呼んでもらえるか?今回の事で、聞きたいことがある。]
あの人なら、シャルルが狙われた理由もそうだし、あの傭兵の事も知っているかもしれない。
シャルル本人への確認は、その後でも遅くは無い。
[……わかりました。少し待っていてください。]
そう言って、シャルルは教会の通路の奥に消えていった。
この教会は、こう言っちゃなんだが無駄に広い。
豪邸とは行かんまでも、相当な大きさはあるから、俺が自分で探すよりも、シャルルに読んできてもらった方が早いし、今は一刻でも惜しい。
しばらく待つと、シャルルが通路の向こうから、神父と一緒に歩いてきた。
[私に、何か用があると聞いたんだが……]
要件は、大体お見通しと言ったところか……
[はい、あなたに少し聞きたいことがあります。トラストさん。]
[……わかった。深刻な問題の様だな。]
トラストさんは頷くと、ついてくるよう促してくる。
[クロト……]
声がしたので振り返る。
シャルルが心細そうな顔をしていた。
[大丈夫だ。ちょっと気になる事があるだけだ。]
俺は笑顔を作って、シャルルの頭を撫でる。
[……わかりました。]
[ありがとな。]
シャルルは俯いたまま、此方を向かなかったが、この件に関しては、俺一人で片付けるには、あまりにも無知過ぎる。
トラストさんは、話の場として、1つの部屋に案内してくれた。
[シャルルくんに関する話か?]
神父が、部屋の扉の鍵をしめると、質問を投げてきた。
[ああ、今日の帰り道…ガブリエルを名乗る傭兵に襲撃された。あいつは最初、シャルルが狙いだと言っていた。]
あえて敬語は使わず、対等な立場での話し合いをする必要があると踏んだ。
[……]
[何か、知っているんだな?]
トラストさんは、少し考えると、全てを話してくれた。
[シャルルくんは、真名を持っている。
聖霊王、それが彼女の真名だ。
シャルルくんは、この力を使って精霊の力を自在に操る事が出来る、だから、一時は疫病で苦しむ人々、魔物被害によって苦しむ人々を救っていた時期があった。だが、それをしていたのは自分が持つ強力な力故に忌み子だと言われ、親から捨てられて、より深い悲しみを持っていたからなんだ。だが、国内で争いが始まるに連れて、移動は難しくなり、最終的にはその力を利用しようとする者すら現れた程だ。]
酷い話だ。
概要だけ見れば他人には救いがあったのかもしれが、本人には全く救いが無い。それが幸せじゃないとまでは言いきれないが、酷いものだ。
精霊とは、自然と密接な関係を持った存在であり、その頂点に立つ存在、大精霊の加護を受け取った者が、希に霊装と言う神具と同等レベルの武装を発現させることがある。
精霊の力を操れると言う事は、この世界で言う超自然現象を自在に操る事が出来、本来人間が直接は扱えない元素を直接扱う事が出来る。その上、精霊の加護を受けた者は呪いや肉体的な魔力干渉、体調不良などにやけに強い耐性を持つ為、物理的に倒す以外ほぼ方法が無い。
[それからは、教会で、ひっそり暮らして行く事に決めた。争いが治まるまでは、力も何もかも隠して…な。]
成程、大体状況は掴めたが……
[じゃあ何か?シャルルはこの国にいる限り、内戦が終わるまで、永遠に命を狙われ続けるって事か?]
いや…ちょっと待てよ。
シャルルの力を恐れての犯行と思えば、色々と合点は行くが、こんな内戦状態の国の中で、あんな強い傭兵を雇う余裕があるやつなんているのか?しかも、シャルル1人を殺す為だけに?
[……1つ、気になる事がある。]
[……なんだね?]
[この依頼をあいつにしたのは、国だって可能性はあるか?]
この予感が的中した場合、シャルルをこれ以上この国に居させるのは非常に危険だ。
[……可能性としては、1番高いだろう。]
やはりか、この内戦状態の国内で、1番財力があって1番自由に暗躍しやすいのは国で、それ故に1番追い込まれているのも国だ。
ここから導き出される答えは1つで、国には内戦を静める為に、目に見えた見せしめが必要だ。
それをシャルルにしようって訳だ。彼女をスケープゴートにして、戦火を一気に鎮火させるつもりなのだろう。
[本当に……]
どうしようもない国だ。
怒りを通り越して呆れすら覚える。
確かに推測に過ぎないが、国が狙っているのがほぼ確定の状況で、シャルルを目に見えて殺そうとしている。これは、もう、疑い様がない。
俺から見ても、苦し紛れ中の苦し紛れにも程がある。
内戦がここまで肥大化した時点で、もう永くないのは分かっているだろうに……
[はぁ、でもまあ、シャルルを擁護しようとして、犠牲者が出る前に……ッ!?]
扉の方に気配を感じて、振り返ると、そこには閉めていたはずの扉が開き、蒼白とした顔色を浮かべて立ち尽くすシャルルが居る。
[今の話…どう言う事ですか?]
[……]
どこまで…どこまで聞いた?
いや、この際そんな事はどうでも良い。シャルルの様子からして、不味い部分だけを聞いたことは安易に想像が着く。
[……何をどこまで聞いたのかは分からないけど、それは勘違いだ。]
だが、この言葉が失言だった。
[勘違い?あなたもその言葉で、私を騙すんですか…クロト。]
[え?]
どういう事だ?
だが、悪い方に状況が傾いてしまったのは確かだ。
[勘違い…確かに都合の良い言葉ですよね?その言葉一つで、相手からしたらどうとでも取れて、自分からしても逃げ道を作れる。]
[ちょっと待て…一体何の話をしているんだ?]
恐らく俺の言葉が、シャルルの闇に触れてしまったというのは明らかだ。
[今更何を言っても意味なんて無いんですね。ならもう…良いです。]
とてつもなく、嫌な予感がした。
[待ってくれ!シャルル!]
恐らく、俺の言葉が届く前に、シャルルは黒い粒子に包まれて消えた。
[……]
最悪だ。
そもそもして、事の重大さを分かっていながら、軽率が過ぎた。
[追いかけるんだ。クロトくん。]
[……何処に居るか、分かるのか?]
神父は頷く。
[最初に君が目覚めた場所。恐らくあそこに居る。]
[何を根拠に……]
[あの子は昔から、何かあれば直ぐにあの場所に行く癖がある。恐らく君を見つけたのも、偶然通り掛かったというだけでも、無いのかもしれない。]
[……わかった。]
俺は頷いて、部屋を出てそのまま教会を出ると、森の中に飛び込み木々を伝って突っ切って行く。




