4章[救う為始まり]第5話
今日は、俺の新しい装備が仕上がる日だ。
と言う事で、俺はシャルルと一緒に町まで来ていた。
[おう、来たか。]
鍛冶屋の扉を開けると、オヤジが待っていたと言わんばかりに反応する。
[ああ、もう出来ているのか?]
[仕上がりの方は期待しろ、最高の品を用意したと思ってる。]
そう言って、オヤジが店の奥から、装備1式を持ってきた。
[そこに試着室がある。着替えてみろ。]
[わかった。]
俺は、オヤジから装備を受け取って、試着室に入った。
[嬢ちゃん。黒のアンちゃんとはどう言う関係なんだ?]
私が、クロトを待っていると、鍛冶師のおじさんが話しかけてきた。
[クロトは…私の恩人です。]
[だから一緒に居ると?]
[はい。私は、彼の悲しみを知ってしまったから、と言うのもありますが。]
おじさんが、うむと唸る。
[やっぱりあのアンちゃん、訳アリだったか……]
[気付いてたんですか?]
[まあな、これでも何人もの人を見てきた。しかしまあ、嬢ちゃんは、今のあいつの目はどう見える?]
この瞬間、凄い観察眼の持ち主だと思った。
[……正直、分かりません。]
今のクロトは、普通の人が見れば、普通の青年にしか見えないだろう。だが、神父さんも気付いていたけど、正直ここまで傷の深さが垣間見えると、彼の心が未だに囚われている事が分かってしまう。
[俺もまあ、同じ様な意見だ。あいつの目は、あの年で持つにはあまりにも、不自然だと言うことは分かるが。]
二人がそんな話をしていると、クロトは試着室から出てくる。
[おう、着心地はどうだ?]
出てきたクロトは、新しい装備に身を包んでいた。
カッターシャツのうえから紺色のコートを着込み、ズボンは黒のカーゴパンツと、確かに軽装だ。
[ああ、中々良い。それに結構動き易い。]
それに、耐久性も前の装備よりずば抜けてたかい。
[正直、予想以上の出来だよ。]
[そう言ってもらえると、鍛冶師みよりに尽きるってもんよ。]
[それと、あと一つ良いか?]
もう一つ、やって欲しいことがあったんだ。
[なんだ?]
[軽くで良いから、これの手入れをして欲しいんだ。]
そう言って、俺は神具を差し出す。
[成程、剣の手入れか。]
勿論、自分でも手入れをしてはいるが、それでも、プロの鍛冶師に見てもらった方が、今後に響かないだろう。
[……凄い業物だが、これは何処で手に入れたんだ?]
俺は、ルミナスを手に入れた経緯を説明する。
[成程……わかった。多くは聞かない。しっかりと整えさせてもらうぜ!]
そう言って、オヤジは店の奥にルミナスを持って入っていった。
[シャルルは、今日は買う物とか無いのか?]
[はい。今日はあくまで、クロトの装備を受け取るだけの予定でしたし。]
だとしたら、悪い事をした。
この町まで来るまでの道のりは、そう短くない。着いてきてくれるのは、迷う事が無くて助かるが、申し訳ない。何処かで、埋め合わせするか……
[終わったぜ。相当使い込んでたんだな。]
[まあな、代金はどれくらいだ?]
オヤジは、丁寧に計算し始める。
[装備と合わせて、20万シティーくらいか。]
20万と言うことは、金貨20枚分か。
銀貨が1枚1000の価値があり、銅貨が1枚100の価値、紙幣が1枚1の価値がある。
[ほら、金貨20枚だ。]
[まいど!]
まあ、妥当な値段だろう。
ルミナスは神具なだけあって、手入れする時に要求される技術も、コストも、普通の剣とは比較にならないし、俺の場合尚更だ。
装備は、オーダーメイドだから、お金が掛かるのは仕方が無い。
まあ、今までお金は使わずほぼ貯金してきたから、残高は割と多いから、問題は無い。
[分割無しの現金で出してくるとはな。今の冒険者は、そんなに財布が潤うのか?]
[いや、俺は危険な依頼とか、知り合いのお偉いさんからの伝で受けたりもしてたし、それ殆ど貯金してたからだよ。]
[ほう。成程、まあ納得はした。お前さんが、裏に関わる仕事でもしてるのかと思ったぜ。]
[はは、まさか。]
まあ、関わってこなかったかと言うと、言葉に詰まるが……
[とりあえず、良い仕事をさせてもらった。感謝する。]
[ああ、こっちこそ。また来るかもしれないから、その時は頼んだぜ。]
[おう!]
そんな感じで、俺とシャルルは店を出て、やる事も無かったので、そのまま町を出た。
[……]
町から帰る時は、森と平原の境目にある街道を通るのだが、まだ昼なのにも関わらず、やけに人気が無い。
確かに交通量が多い訳では無いが、国唯一と言うレベルの安全地帯だからか、割と人は通る方だと思う。
[人が少ないですね。]
シャルルも、異変に気付いたようだ。
長い事ここに住んでいるシャルルが言うのだから、いよいよ怪しくなってきた。
[……なあ、シャルーー]
俺は、シャルルにある事を聞こうと、振り返ると、後ろを歩いている彼女の後ろに、全長4メートル程の大剣を振り下ろそうとしている、男が居た。
[何です……え?]
間一髪の所で、シャルルを抱えて後方に飛ぶ。
[……]
危ない。接近に気付かなかった。
それに、何故人気が無いのにも、そこでわかった。
[成程、人払いか……どうりで。]
男は、口を開く。
[今のを、躱されるとされるとはな……何者だ。]
[それはこっちの台詞だ。いきなり、そんな得物を振るうなんて……どうせ、真っ当な人間じゃないんだろ?]
俺は、2メートルちょいはある、難いの良い男を、睨む。
[名を名乗るつもりは無いが、その娘を殺しに来た、傭兵とだけ言っておこう。]
傭兵が殺し?
暗殺者じゃなくてか……だが、見れば分かるが、奴が放っている覇気は、リアや剣聖にも似たそれだ。
と言うことは、化け物級に強いのは目に見えてる……か。
[シャルル、ここから全速力で教会まで戻れ。]
教会には、俺の居候を許してくれた神父、トラストさんが居る。
あの人も、他のシスター何かには隠しているらしいが、過去には相当な実力者だっただろう事は、普段の物腰からわかる。
教会にさえ戻ってしまえば、結界を使って、安全地帯の確立が可能になる。
[え?でも、クロトは?]
[俺は時間を稼ぐ。大丈夫だ、これでも修羅場は潜ってる方だから、ちょっとやそっとの事で負けるつもりは無い。]
まあ、それでも勝てはしないだろうが……
[何言ってるんですか!?あの傭兵は、国内でも最高の実力者なんですよ!そんなのと、1人で戦うだなんて無茶です!!]
まあ、すんなりと帰ってくれるとは思わないけど、この状況で2人とも逃げるなんて不可能だ。
なら、仕方が無い。
[状況を考えろ……お前なら、何が最善なのかわからない訳じゃないだろう?
狙われてるのはお前だ。だから、直ぐに帰れ。]
目一杯の覇気を込めて言う。
シャルルも、一瞬怯んだが、尚も食い下がる。
[意味が分かりません!だったら、2人とも逃げれば……]
飛んできた魔法を、シャルルを抱えて難なく躱す。
[そろそろ、良いか?]
流石に長話が過ぎたか。
俺は、シャルルを降ろしてもう一度言う。
[俺だって、引き際くらいわかってる。だから、頼むから行ってくれ。]
殺気を込めて言えば、流石のシャルルも引くかと思うが、仲間に殺気を向けるなんて冗談じゃない。
[でも……わかり、ました。]
シャルルは、渋々了承して、走り出す。
[逃がすとでも?]
男が、凄まじい速度で追うが、それを割って入って、止める。
[お前の相手は、この俺だ。]
今度は殺気を込めて言う。
[無謀と勇敢は違うぞ?若き神具使い。]
男の斬撃を、ルミナスの刀身で受け止める。
俺の剣のカテゴリは当然わかるか。
[こちとら無謀でも、勇敢でも無いんだよッ!!]
競り合っていた剣を押し返して、距離を取る。
[ふむ、確かにある程度はできるようだな。立ちはだかるのならば、此方も、押し通るのみだ。]
男は、腰を落として大剣を横水平に構える。
[……]
俺も、ルミナスを中段に構える。
あの剣、恐らく神具では無い……けど、ただの剣とも思えない。
用心すべきか。
[ッ!?]
俺は、悪寒を感じて、剣で地面を叩き付けて、勢いよく砂埃を立てる。四方八方から、見えない刃の様なものが、砂埃を掻き分けて迫るのを確認する。
[ほう……]
すかさず砂埃から抜け出して、背後から奇襲を仕掛ける。
砂埃を立てたのは、攻撃を確認する為なのだが、実質勘と反射でやったもので、狙ってやったものじゃない。
[だが、まだ甘い!!]
[ふッ!]
背後からの攻撃も、振り向きざまの大きな横薙ぎで阻止され、少し後方に飛ばされる。
[ぐっ……]
リーチが長く1発の威力が高い、大剣ならではの戦法、それに衝撃も凄まじいものだ。
既にセカンドは使用中だ。
神具解放は…無理っぽいな。どうしたものか。
[……やるだけ、やって見るか。]
さっきの見えない攻撃と言い、今の反応と言い、正直正攻法で勝つのは不可能だ。
こう言う敵は、リアや剣聖と同じで、戦意喪失級だから、戦う自体アホみたいに思えてくる。
[まだ、手を残しているようだな。]
[まあ、な……]
攻撃の間を空けてくれるおかげで、下準備は完了した。
[煌皇剣・ルミナス、神具覚醒。]
そう短く唱えると、ルミナスは刀身を軋ませて薄い光を纏って性質を変化させる。
[ほう、それが神具の性質変換か。]
男は依然として、余裕と緊張感のバランスを崩さない。
[ああ、これが今の俺の全力だ。]
今の状態になるのは、牛悪魔の終局種と戦った時以来だ。
[ふむ、ならば恐れずして掛かってこい。若き神具使いよ。]
[そのつもり、だよッ!!]
両者ほぼ同時に踏み込み、一気に距離を詰めて行き、刀身同士を激突させる。
[……]
1人の少女は、助けを待っていた。
ただひたすらに……
部屋には窓ひとつなく、手足は錠で拘束されて、極めつけは呪いを常時付与し続けると言う……
明かりが最小限しか備え付けられておらず、周りが視認しにくい暗闇の中で、1つの足音が、鉄格子を挟んで、正面の階段から降りてくる。
[気分はどうだ?]
そこには、自分の実の父親にして、自分を拘束し、大切な人達を傷付けた張本人が居た。
[……]
私は、その男を、キッと睨む。
[ふむ、まだ抵抗を続けるか……身動きひとつ取れん拘束状態で、これ程に闇を取り込んだのにも関わらず、我ながら強情な娘だ。]
[私を…あなたみたいな、男の…子供じゃない。]
苦しながらも、絞り出したその言葉。
[ふん、態々自分をたすけに来た男に、自分が死ぬ記憶を植え付けておきながら…良くそのような事が言えたものだ。]
男は大して意に介さず、手を私に向かって翳すと。
[呪いの量を倍にしよう。早く堕ちてもらわねば、此方にも無いのでな。]
瞬間、全身を激しい痛みと、目眩が襲う。
[う…ぁぁ……
声を上げることも叶わず、意識は落ちる。
ごめんなさい。
クロトくん……




