3章[王都学園]第40話
ステラは、この状況に対して不満を持っていた。
[はぁ......]
授業も上の空で、窓の外を見ながら、ため息をつく。
最近クロトくん、依頼って言って出かける事、多くなったな。
[......]
勿論クロトくんの性格はわかってる、だけど、最近はそれが更にエスカレートしている気がするんだよね。
[次は、私も連れていってもらおっと。]
今回の依頼に関しては、織りが会わずついていけなかったが、次こそはと、ステラは心の中で決心した。
この学園では、たまに冒険者の資格を持った生徒が、学園長の元に直接来た依頼を代行する。
現在クロトは、隣町に魔物討伐に行っている、昨日出発して、今日には帰るらしい。
[早く帰って来ないかな。]
彼女自身も、これが異性への特別な感情であることぐらいわかる、お互いに思っているのに気付かないのは、何ともと言う所。
この時の彼女らは予想だにしていなかっただろう。
...
......
............
それは突然、訪れた。
[あれは......]
王都が見えてきた、だが、よく目にする様な都ではなく、町を丸々、巨大な結界が覆っているのだ。
[......]
クロトは焦った、もしも、自分の大切な人達に何かあろうものなら、正気でいられる自信が無い。
程なくして、都を覆う結界の中に飛び込む。
瞬間、体が鉛の様に重くなる。
[これは、制限をかける結界か......]
この結界は、特殊な呪符を持った者以外全員に効果を発揮する。
かかった者には、運動に置ける制限、魔法使用の制限と、俺やステラ、ユリカゼを始めとした、ある程度の実力を備えていれば、あまり問題は無い、戦う時だってハンデにすらならないだろう。
[......にしても、まさかこんなに早い何てな。]
攻めて来た奴の目星は大体ついてる、事前にくることはわかっていたし、対策もしていた、だが、予想よりも数倍は早く来てしまったのだ。
[流石に一般人は眠ってるな。]
学園に向かっている途中、道端に民間人が多数倒れている。魔法に対する抵抗が無い人は、この様に、そもそも活動が停止してしまうのだ。
[頼む、間に合ってくれ......]
この時の俺は、最悪の事態を予想しなければいけなかったのだ、だが、それをしようとはしなかった、切り捨てていたのだ、物事に絶対など無いのに......
[これは......]
学園の前まで来たが、予想以上に酷い有り様だ、正門は完全に破壊され、校舎そのものもいたるところに損傷が見られる。
[......]
学園内に入ると、更に地獄絵図だった。
[おい!しっかりしろ!おい!]
廊下で横たわっているクラスメイトの、生徒に声をかけるが、ピクリとも動かない。
[死ん......でる。]
胸のうちに、声にすら出来ないほどの痛みが走った。
[......]
俺はこの世界で、様々な死を目の当たりにしてきた、目の前で他人が死んだことが無い訳じゃなかったし、この世界に来ていらい、そう言ったものを見ても、極端に言うと、何も感じなかった、だが、今は違う、ここで横たわって死んでるのは、この校舎で同じときを過ごした仲間で、一緒に笑いあった友なのだ、状況を確認しなくては、そう頭に言い聞かせ、前に進む。
[......]
教師も、何人も死んでいた。
医務室の扉を開ける。中の医療品一式は端から持ち出され、何もなかった。
次に、俺が授業を受けていた教室、中にも生徒が倒れている、全員死んでいる、そろそろ精神面での限界が来ていた。
演習場、中庭、食堂、あらゆる所を回って、寮の前まで来たときだった。
[クロト......クロトじゃねえか!]
背後から声がした。
[レオ?]
やっと、生存者を見つけた。
[無事だったのか。]
[ああ、他の皆も一緒だ。俺は何か使える物は無いかって、寮の中を探し終えて戻るところだったんだ。]
[そう、だったのか......]
俺は、まだ生きている人がいることが、何よりも嬉しかったし、救いだった、少なくとも次の事を考えられるくらいには復活できた。
[他の皆は何処にいるんだ?]
レオは今まで見たこと無いくらい消沈している、こんなレオは見たことがなかった。
[ああ、こっちだ......]
レオに案内されたのは、旧校舎だった。
旧校舎、ってことは......
[......]
隠れている場所の目星がついた。
案の定予感は的中して、皆が隠れていたのは、遺跡の深部、クリスタルのあった場所だった。
[クロトさん!]
真っ先にかけよって来たのは、ユリカゼだった。
[ユリカゼ、お前も無事だったのか、良かった。]
遺跡の中を見渡すと、あと数人の生徒が居て、微かだがリアやアインの気配もした、すぐに違和感に気付く。
[......あれ?]
思わずそんな声が出てしまった。
[ユリカゼ......]
[はい。]
俺は、目尻に涙を溜めたユリカゼに質問する。
[ステラは何処だ?それにリオも......]
[それは......]
ユリカゼは言葉に詰まる。
俺は状況が理解できなかった。
[なあ、リオは、ステラは何処に居るんだよ......]
[......]
遂にユリカゼは黙ってしまった。
[わかった、怒らないし、何も言わないから教えてくれ。ステラやリオは何処に居るんだ?]
頼む、頼むから答えてくれ。
[......わかりました。こちらです。]
ユリカゼは、躊躇ったが、遂に案内を始めた。
ユリカゼに案内されたのは、遺跡の内部にあった、部屋の一つだった。
[ここです。]
俺は、部屋に入る。
部屋の中には、リアが座っていて、治療のための道具一式が置かれていた。
[ああ、クロトか......]
リアは立ち上がると、俺の方に歩いていた来て。
[あまり長くない、しっかりと見送ってやれ。]
そう言って、リアは部屋を出ていった。
[......]
俺は、ベッドの横にある椅子に座る。
[クロト......さん?]
[ああ......]
リオは、眠っていたようだが、おもむろにまぶたを上げる。
[すまない、間に合わなかった。]
俺は、感情を抑えて、言葉を紡ぐ。
[......あなたのせいじゃない、誰も予想できなかった。来ることはわかっていても、タイミングが早すぎたんです。]
[......]
[それに、あなたがもし、この学園に残っていたとしても、状況は変わらなかった......]
確かにそうかも知れない、だけど......
[それでも......]
悔しかった、何も出来なかった事が......
[......元素回路が破壊されました。あと、5分が、私の寿命と言ったところです。]
更に唇を噛み締めた。
[......私が今から言うことを、必ず覚えていてください。]
[......]
俺は無言で頷く。
[まず、今回手を出して来たのは、カルディナと言う、連邦国です。そして、そこにステラさんが連れ去られました。]
俺は一言一句聞き逃さないように、耳をすませる。
[......向こうに行って、必ずステラさんを助け出してください、悪い予感がします。]
[わかった......]
俺の一言を聞くと、伝えたい事を伝え終わったとばかりに安心したような表情をする。
[......私から伝えらるのは、ここまでです。あとは愚痴でも聞いてもらえますか?なにしろ、これが最後なので。]
最後、この言葉の重さが、痛いほどにわかった。
[......人間には、等しく死が訪れます。誰かだから死なないとか、そう言うのはありません。]
[......]
[正直言って、死ぬのは、怖い、逃げ出せるなら、誰かを殺して助かるなら、そうしたいくらいに......]
リオは、緊張が解けたように、大粒の涙を流し始める。
元素回路は、空気中の元素を魔力に変換する器官で、魔力はこの世界の人にとって生命エネルギーなのだ、それを作ることが出来なければ、間違いなく死ぬ。
[だけど......最後にあなたに会えたから、気分が変わりました。]
[え......]
リオは、穏やかな笑みで、言葉を紡ぐ。
[もう、あなた達と過ごすことは出来ないけど、先にあの世に行って、見守ることにしました。]
何故そんなことが言えるのか、俺には、理解できなかった。
[私は、充分に幸せでした。だから、もう良いんです。あとは、あなた達が、どんな未来を歩むのか、それに、一喜一憂させてもらいますので......]
[だけど、そこには......]
そこには、お前がいないじゃないか!
[......もう、そろそろ、時間、ですね......]
リオの言葉には、段々歯切れが無くなっていく、それへのカウントダウンの様に......
[段々、眠く、なって、きました。]
徐々に掠れていく声が、命の残り火が消えかかっていることを伝える。
[そろそろ、寝ます。]
[ああ......]
リオは、目を閉じる前に、こう告げた。
[最後に、良いですか......]
[なんだ......]
リオは、満面の笑みで、
[......私を、忘れないでいて、ください。]
俺の手が徐々に震え出す。
[わかった。]
[......おやすみ、なさい。そして......]
[......]
ー私の為に、涙を流してくれてありがとう。ー
リオ・ネメア 永眠。
僕は思いました。次に書くシリーズは、もっと良い話にしようと、心から......




