3章[王都学園]第35話
[もういいよ、昨日はクロトくんも疲れてたって考えれば、まあ、許せるし。]
[ありがとうございます。]
そもそも、散々心配をかけておきながら、当日中にちゃんと無事を伝えに行かなかったのは、俺に非がある。
[それに良く考えてみれば、何でクロトくんの事、こんなに心配してたんだろ?]
[はい?]
え、ありだけ言ったのに、今それ言っちゃいます?
俺が、少し悲しそうな顔をすると、ステラがくすっと、笑う。
[ふふ......冗談冗談、本当に心配してたし、すぐに無事を伝えに来てくれなかったのは、正直、不安になったよ......]
[ステラ......]
まあ、こんな感じの空気になっていると、ステラの後ろに居たユリカゼが割って入った。
[何朝っぱらからイチャイチャしてるんですか?
まだ恋人でも無いでしょう。お二人とも......]
[いや別にイチャイチャなんて......]
俺が否定しようとすると......
[そうだよ、セインちゃん。私がクロトくんとイチャイチャなんて、あるわけないじゃん。]
あ、断言された、何か悲しい......
俺とステラで如何にもアホそうなやり取りをしていると......
[あの......クロト兄さん。]
[ああ、すまないアイン。そっちのけにしちゃって、どうかしたのか?]
兄さん、という言葉に、真っ先に二人が反応する。
[兄さん、って、どう言うことですか?クロトさん......]
[あれぇ、おかしいなぁクロトくん?何で知らない間に家族が増えてるのかな?]
[え?ああ、別にそう言う訳じゃないと思う。兄さんってのは、多分口癖って言うのかな、恐らくそう言うものだから、深い意味は無いと思うんだけど。]
[......はい。]
今度はアインが少し残念そうな顔をする。
何その表情、お兄さんわからない。
[ふーん。まあ他にも聞きたい事は色々とあるけど、今の内は心の内に留めておくよ。]
[私もです。]
[そうしてくれると助かります。]
やっと、場が収まりそうだと、安心し、安堵する。
[それよりも......]
ステラが、アインの方に視線を向ける。
[え......]
アインは、蛇に睨まれた幼子の様に固まる。
ステラは、まるで手頃な人形を見つけた子供、あるいは可愛い子を見る中年のおっさんの様にアインに近付く、そして......
[可愛いぃぃぃぃーーーッ!!]
[......え?]
[はぁ......]
アインは、困惑の表情を浮かべる、それもその筈だろう、ステラはかなりの可愛い好き、それも熊さん人形等の物では無く、生身の人間に限る。
[また、始まりましたね......]
ユリカゼは少しトラウマを思い起こす様に見ている。
それもその筈、ユリカゼもステラのこの性格に散々振り回された者の一人なのだ。
[......。]
アインはステラに抱き締められながら、困惑のあまり口をパクパクさせている。
[クロトさん......]
[ああ......]
こうなったステラを止めることは俺でも出来ない、終わるまで待つしかない。
[今回は長くなりそうだな......]
数十分後......
[うぅ......]
俺の後ろに隠れて、半分怯えているアイン。
[あ、あのぅ......]
申し訳無さげに謝罪するステラ。
[やはり、こうなりましたか......]
ユリカゼはやれやれと言ったご様子。
[はぁ......アイン、ステラにも悪気は無かったみたいだし、そう怯えてやらないでくれるか?]
俺はアインと同じ視線をあわせて問いかける。
[でも......]
ステラが出だしを間違えたのも原因のひとつだが、アインの人間不振は普通に言えば重症レベル、この子の過去を考えれば当たり前だが、それを知るのは現時点ではユリカゼとリオ、そして今話したステラだけなのだ、彼女だってそれが初めからわかっていればそんな軽率な事はしなかっただろう。
[......それじゃあこう言うのはどうだ。
ステラとユリカゼって今日街に買い物に行くんだよな?]
俺の考えとしては、ここで了承してくれなきゃ話が進まない。
[そうですが、それがどうかしたのですか?]
[ああ、良かったらその買い物に、俺とアインも同行させてくれないか?]
ユリカゼは俺の言っている事の意図に気付いたのだろう、ステラにも説明する。
[成る程、ね......勿論良いよ、ね?]
ステラは念のためユリカゼにも視線を向ける。
[私は構いませんよ、それにこう言うのは大勢で行った方が楽しいですし。]
よし、何とかうまく行った。
[ありがとう二人とも、アインもそれで良いか?]
ここが重要だ、二人がいくら良いと言っていても、アインが嫌がっているなら無理矢理連れていくことは出来ない。
[別に......良い、よ。]
決まりだ、ここで三人に仲良くなってもらって、アインの寝泊まりする部屋もあわよくば女子寮に移したい。
[よし、それじゃあ行くか。]
そして、俺達は学園を出て、街に出た。
[先にアインの服を買いたいんだけど、良いかな?]
当初の目的も忘れていない。
今回街に出たのは、アインの私服を買うためだ、他にも装飾品や、色々と買ってあげたいが、まずは衣服から仕立てたい。
[良いですよ、私達は特に急ぎで買いたいものなどは無いので。]
[アインちゃんの服選びなら私も手伝いたい!]
二人の了承は得た、このままアインには心の中で楽しさと、暖かみを知って欲しい。
俺がここまで気にかけるのは、単純にアインが無理をしているからだ、本当なら彼女はもっと明るい子なのだろうと、少しの間過ごしていてわかった。それと同時に、彼女の負った傷の重さも計り知れない、一つ言えるのは、それは俺一人でどうこうできる程軽い傷では無いという事だ。
[......]
アインは終始無言だ。
[......アイン。]
俺が話しかけると、こちらに向き直る。
[何......?]
[余計なお世話だったか?]
直球に聞く、アインは嘘が下手な方だ、ついていればすぐにわかる。
[ううん......そうじゃないの......ただ......]
嘘はついていない、彼女自身はこの状況自体を嫌には思っていない。
[ただ?]
[やっぱり......何でもない。]
[......]
俺ではここまでが限界か......
[そうか、なら時間も限られていることだし、そろそろ行くか。]
素早く切り替えて、あるきだす。
そして、この状況に至る。
[うん、これでひとまず良いんじゃないかな?]
[そうですね、凄く似合ってます!]
試着室の中から、決まったと思える声が聞こえてきた。
[クロトくん、開けてみて。]
[はいはい。]
そう言って、俺は試着室のカーテンを開ける。
[どう......かな?]
そこには、白いブラウスに、薄手の白いアウター、スカートは鮮やかな紫、一時間着せ替え人形にした成果がこれなら、満足出来るレベルだ。
[うん、可愛いと思う、流石に二人はセンスが良いな。]
俺ではここまで良いチョイスは出来なかった。
[アインちゃんは元が凄く可愛いからね、ほら早く次行こ、時間は有限なんだから、次はエステサロンだよ。]
会計を一瞬で済ませて、店を後にする。
[楽しそうだな。]
ステラはいつもと変わらない笑顔で返答する。
[勿論、こう言うの、昔から好きなんだぁ......]
ユリカゼは、気になる店があったとのことで、後で合流することになっている、俺達はエステサロンの待合室でアインを待っている。
[そう言うクロトくんだって楽しそうじゃない?]
俺は微笑して、答える。
[まあな、この世界に来たばかりの頃は、こんなに楽しい日々が送れるなんて思っても見なかった。]
確かに元の世界に居たときと比べれば、百平和と言う訳でもないだろう。だが、今の俺の視点から見れば、これ以上とない幸せだ......
[そうだね......皆に感謝しないとね。]
[そうだな。]
今この状況があるのは、間違いなく、学園長やユリカゼ、学友達のおかげだ、その協力無くして今は無かっただろう。
待合室の扉が開く。
[おっ、アイン!]
そこに居たのは、肌が潤い、一際魅了が高まったアインだった。
[うぅ......]
本人は少し照れくさそうだ。
[うん、これで肌もばっちり。]
ステラは満足そうだ。
[クロトくん、ちょっと良いかな?]
[ん、何だ?]
ステラが耳にひそひそとしゃべりかけて来る。
[......ああ、別に良いけど、何でだ?]
[何でも!]
ステラはいたずらっ子の様に、笑みを浮かべて返答する。
[......そうか。]
危ない、可愛すぎてつい見いってしまう所だった。
[ほら、行こ、アインちゃん]
[え......クロト兄さんは......]
[良いの、後でちゃんと合流するから。]
そそくさとサロンから出ていってしまった。
会計を済ませて、俺もサロンを出る。
[さて、どうするかな......]
暇になってしまった。
[ここって......]
私は、セインちゃんと合流した後、アインちゃんをとある場所に連れてきた。
[私の仕事のつてでね、頼んだら自由に使って良いって。]
[え......]
私は、セインちゃんと相づちをうって、アインちゃんを椅子に座られる。
[それじゃあ、始めるけど、絶対に動いたら駄目だよ。]
アインちゃんは何か分からない内に、頷く。
[......]
[ん......]
街を歩いていると、ある店が視界に止まる。
[宝石、装飾品屋か......]
俺は、店内に入る。
[いらしゃいませ。]
愛想のよさそうな女の店員さんがこっちに歩いてきた。
[何かお探しでしょうか?]
[あ、ええと......]
俺は少し戸惑うが......
[その......好きな子に贈り物をしたいんですが。]
[......わかりました。]
店員さんはにっこり笑って。
[おすすめの商品をお持ちしますので、良ければ店内をご覧になっておいてください。]
[あ、はい。]
この店に入ったのは、ひとえに評判が結構良いと聞くからだ、それにしては客が少ないが、俺にはこう言うのはからっきしなので、店員さんに頼めるのはありがたい。
[お客さま。]
俺が店内を見て回っていると、さっきの店員さんがこちらに歩いてきた。
[こちらなど如何でしょう。]
数種類の綺麗な石が並んでいて、どれも美しい、だが......
[......すみません。やっぱり自分で探してみます。]
やっぱり自分で探そう。
[......わかりました。それではごゆっくり、何か御用があればお呼びください。]
店員さんは、少し残念そうに、歩いていった。
別に店員さんを疑っている訳じゃない、さっき残念そうにしていたのも、若い子の恋路を少しでも助けてあげたいと思っていたからだろう、だが、贈り物くらいは自分で選びたい。
[......]
俺は、一つの白い宝石の付いたペンダントを手に取る。
[......これ、包んでくれますか?]
店員さんの元に持っていく。
[はい、これ一つでよろしいでしょうか?]
[はい。]
[かしこまりました。少々お待ちを......]
店員さんはペンダントを綺麗に包んでくれた、俺は会計を済ませて店を後にした。
[もう、財布も空に近いな。]
俺は、待ち合わせの場所に向かう。




