2章[異世界の探求]第13話(それぞれの夜)
現在地:ファイド村
俺達は、森に向かう途中で寄った小規模な村の宿屋にて今後を改めて確認していた。
[この村からレプの森までは半日位で着きますが、明日はそのまま森に入るのでは無く、森に比較的に近い位置にあるサイド村に泊まります。]
[本格的に森に入るのは明後日にするって言う事?]
ステラが質問した。
[はい、幾ら進む道がわかっているとは言え、半日で奥まで進んでボスと戦って帰ってくると言うのは流石に無理だと思うので......]
正直言って懸命な判断だと思う、到着して直ぐに森に入ってボスと戦えば不足の事態がないとも限らない、その分丸々一日あれば何か起きても明るい間なら多少の適応も効く。
[まあそれが普通だろうな、別段急ぐ理由も無いしそれが無難だと思う。]
[私も同じ、今日は明日に備えて慎重に動くのが良いと思う。]
ここに居る全員間違いなく常人を遥かに越えた力を持っている、それでもここまで慎重になるのは理由がある。
それは今回受ける依頼が国家級の依頼と同程度か、あるいはそれ以上の危険を伴うものだからだ。
[......なあ、一つ聞いても良いか?]
[はい。]
質問に応じたのはステラだった。
[今回受ける依頼は、国家級のものと同じくらい危険な物なんだろ、それなのにこの人数で勝てるものなのか?]
[......正直言ってそれは分からないですね。]
それはその筈だ、その答えが分かっていれば依頼を受けるか受けないかをもう少し楽に決められる。
[そりゃあそうだよな、すまない気の弱い事聞いて。]
[いえ、当然の疑問だと思う、だけど、逆に勝てない相手じゃないって言うのも確かだよ。]
[......かもな。]
[疑問は解決した?]
[ああ。]
そしてステラ達は各々部屋に戻った。
[ふぅ。]
俺はベットに腰掛けた。
[......ダメ元で頼んで見るか。]
俺は部屋を出て右隣の部屋の前に立って、扉をノックした。
ガチャリという音を立てて扉が開く。
[どうしたんですか?]
出てきたのはユリカゼだ。
[ユリカゼに頼みがある、駄目なら良い、明日の朝4時に宿屋の前に出てきてくれ。]
[はい、別に良いですけど。]
どうしたのだろう?
[ありがとう、それじゃあお休み。]
そう言ってクロトさんはそそくさと自室に戻っていった。
[頼みって何だろう......]
きっとステラさんに関する事だろうと予想した、彼が頼み事をする時は殆ど彼女に関することだからだ。
[本当に......]
少し寂しい気持ちになった、クロトさんには心に決めた人が既に居る、だから自分の気持ちを打ち明けた所でどうにもならない事は理解してる。
[明日も早いし寝よう。]
そして私は部屋のベットで横になった。
[はぁ......]
何故溜め息などついているのだろう。
最近クロトは本気で笑わない、無理して強くあろうとしている様に見えるのだ。
[なんか複雑だな。]
私はもう彼に無理をして傷ついて欲しくない、依頼で怪我をして欲しく無いだとかそう言う事じゃない、私はただ一人で傷つこうとして欲しくないのだ。
[何であんなに極端なのかな......]
そう、彼は極端だ、考え方も性格も、それも優しさの方面で、セインちゃんの時だってそうだった、自分が何れだけ傷つこうと気にしないのは彼の悪いところだ、だけどそれを指摘する資格は私には無い。
私は彼に会って少し変わって、そして大きく救われたけどその代わりに彼が以前の私みたいになってしまった。
[私の言葉は結局届かないのかな......]
以前仲間と呼べる存在だった人達の声が私に届かなかった様に......
[それでも......]
それでも彼には私に無いものを沢山持っている、物理的な力だけじゃない、彼にはこの世界を確実に変えうる確信的な何かを持っている、それを持っていない私にはそれが何なのかは分からない、それでも......
[どこまでだって信じるんだ......]
彼の事を、抜け出せない連鎖の歯車と化していた私を救ってくれた彼なら以前の自分の様にはならないだろう、
揺るぎない何を持っているから。
だけど、それでも頼って欲しかった、もうあんな想いはしたくなかった、傷だらけの死にかけた状態でセインちゃんに連れられて帰ってきた彼の姿を今でも鮮明に思い出せる。
とても悲しかった、何故あんなに傷だらけになるまで止めなかったのか、選択肢などとうに無かったのかもしれない、だから彼が命を掛けても救いたかったのだろう彼女を責めることを私はしなかった、怒りがなかったと言えば嘘だ、彼女とも沢山話した、そして彼の救いたかった理由がようやくわかった気がした。
[最後まで、あの人は揺るがないんだろうな......]
彼の歩みは止まらない、歩みを止めた私など直ぐに置いていってしまうだろう、その時に私はどんな事を思うのだろう......
[寝よう。]
唐突に考えても意味がないことに気付き、思考を中断して意識を徐々に落としていった。
[......随分冷えていますね。]
宿屋の扉の前で待っていると、一人の少女が声を掛けてきた。
[まあ冷え込み始める時期の早朝だからな。]
[それで、どうしたのですか?]
早速要件を聞いてきた。
[......単刀直入に聞くけど、俺に稽古を付けてくれないか?]
[稽古、ですか?]
少し意外そうな顔だった。
[ああ、俺はまだ剣の腕は全くのどベタだ、だから一流の剣術使える君に剣術の稽古を頼みたいんだ。]
ユリカゼは少し考えた。
[......わかりました、ですが優しくはできませんよ、何分こういう経験が無い為師匠に教わった事に少しアレンジを加えて教えますので。]
厳しいのは覚悟の上だ、この前ユリカゼに覚醒者の力無しで勝負を挑んだ時につくづく想い知らされた、今のままじゃ駄目なんだという事を......
[勿論だ、体力には自信があるから厳しめに仕込んでくれて構わないぜ。]
[はい、それじゃあ行きましょうか、此処では稽古するには狭すぎます。]
[ああ]
俺はユリカゼと一緒に村の外れまで歩いて行った、これから死ぬ程厳しい稽古をこなす事になる俺だが、それの話はまた今度しよう。




