7話 リフィとの別れ
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「いい? ミシェル? スキルに関して聞かれたら、魔法が媒体の超高速詠唱ですって言うのよ?」
リフィは近くに人がいないことを確認しつつ囁いた。
ミシェルのスキルが発現してから1ヶ月。
魔人反応あり、との噂から少し出立が遅れたリフィだったが、反応は反応のまま何事もなく、安全が確認された為、今日ディカナンに付いて王都へ戻ることになった。
「分かってるよ先生、必要ない時は極力見せない、でしょ?」
2人が1ヶ月ちょっとで学んだ事を整理していると、宿の中からディカナンとルミーナが出てきた。
「ディカナン殿、また私が王都に戻った際は宜しく頼む」
「いやいやこちらこそ、封印の時期はまだ遠い。それまで大尉のような強き者に元気でいてもらわんとの」
ルミーナな照れたように謙遜しつつ、2人は握手を交わした。
「ディカナン様、この度は記憶喪失の治療や、リフリーゼさんの時間を頂き、ありがとうございました」
ミシェルはディカナンに深くお礼した。
「ほっほっ、構わん、構わんよミシェル君。 君の中を見せてもらったが、ワシにも届かぬ頂があるとつくづく思い知らされたわい。 その深くに眠る力が君の助けとなるか試練となるか…… じゃが、悪きに染まらねば助けはあると知るのじゃぞ。 今回のはまぁ、君の状況から言って仕方のないものじゃ。 ワシとのツテは大いに頼るが良い」
ディカナンはそっと頭に手を置き、ミシェルの瞳の奥を見つめた。
ミシェルはその言葉の後半部分を聞き、少し目を泳がせたが、最後のセリフに対し観念したように薄く笑った。
「リルドさんに聞きましたが、ディカナン様は王国でトップの治癒士ですからね。そんな方と繋がりを持つことができれば幸運と思いまして」
前世での職癖とはいえ、浅知恵だったかとミシェルは後悔した。
印象に残るなら良い物の方がいいからだ。
「その方法がワシは気に入ったぞい。貴族連中のそれとは違い、綺麗で素直な一手じゃったと思う。して、対価の価値はあったかの?」
ディカナンは気にするなという口ぶりでミシェルに笑いかけた。
「ええ。むしろディカナン様との繋がりが関係なくとも十分な成果を得られたと思います。リフィ……リフリーゼ先生は、何も知らない私に根気よく教えてくれた。彼女自身、相当な努力を重ね得てきた知識を惜しげもなく…… 私は、心の底から彼女を尊敬します」
ディカナンは微笑みながら相槌を打った。
そして、ルミーナやもう1人の付き人と地図を見ながら話しているリフィを見つめ、小さく呟いた。
「惜しいのぉ…… 精霊の申し子とまでは言わぬとも、もう少し精霊量があれば、彼女はワシ以上の領域に立てたであろうに」
ミシェルはポツリ言ったその言葉に疑問を浮かべるしか出来なかった。
リフィ達がこちらの視線に気がつき近付いてきた。
「ディカナン様、護衛と馬車はすでに門で待っているそうです。そろそろ出発しないと次の宿場町まで日が暮れてしまうそうです」
リフィは地図をさしながらディカナンと今後の相談をした。
一通り報告を終えたのか、ディカナンとルミーナは再び話し合いを始め、リフィがミシェルの元へとやってきた。
「ミシェル、言いつけは覚えてる?」
「ああ、スキルは本当に危ない時しか使わない、ですよね?」
「そうよ、奥の手は最後まで取っておくのよ? でないと、使えばそれは奥の手ではなくなるんだから!」
わたしにも奥の手は沢山あるのよ? などとリフィは自慢げにそこそこ豊かな双丘の間を叩いた。
「そうだ、ミシェル、これはわたしとの個人塾をやり遂げた卒業記念のプレゼントよ! ありがたく大事にしなさいね!」
リフィは照れたように視線を逸らしつつ包みを押し付けた。
「なんだろ? これは……短杖?」
それは白銀色をした小枝の形に青のラインが入った30センチほどの短杖だった。
「それには詠唱補助がついてるわ。 詠唱を唱える時にその杖で発動した事のある魔法の情報が蓄積されるわ。だから使ったことのある魔法を唱え始めると頭に詠唱が浮かんでくるの。詠唱を覚えるための初心者用みたいなものね」
色々と物入りになりそうだと思っていたミシェルにはありがたい品だった。
ミシェルはそれをマジマジと見つめたあと、洗浄の魔法を自分にかけた。
再びそれを発動させようとすると、頭の中に詠唱の一文が浮かんできた。
「これは、凄いですね! あらかじめ教科書の魔法を全部発動しておけば完璧じゃないですか!」
ミシェルは面倒な暗記が不要だと喜んだ。
「あら? 暗唱の試験でそれは使えないわよ? 試験用の仕掛けの無いものね」
リフィはクスクスと笑いながら、さて、と身だしなみを確認した。
「そろそろ行くわ。だいたいは王都にいるから、王都に来た時は寄りなさい? まぁ、今回みたいに王都にいない事もあるだろうけど」
ディカナンはきっとコネ云々をリフィには言ってないのだろう。
だからこそリフィの態度は以前と変わらずミシェルに心地いいものなのだった。
ミシェルは罪悪感のようなものを覚えつつ、いたずらに明かす必要もないので、とにかく恩を返す事に専念した。
「もちろんです。王都に行く際は、治療院宛に手紙を書きますね」
リフィは国立治療院のディカナン付きという役職である。
実は平民が手紙を送ったところで会えるのは緊急でない限り半年以上待たされる。
「必ずよ! 恩師である私に挨拶せずに王都観光なんて、精霊王が許しても私が許さないんだから!」
リフィは頭の上に指で輪を作りながらそう言った。
「リフリーゼ様、ご出立の用意が整いました」
ディカナン一行の護衛の1人がリフィたちの元へ来た。
「じゃあ今度こそ行くわ。くれぐれも危ない事はしないようにね?」
「ありがとうリフィ先生。先生も気をつけて」
リフィはヒラヒラと手を振り、ディカナン達の元へ歩いて行った。
かくしてディカナン、リフィ一行を見送ったミシェル達は領軍の施設にて軽食を取っていた。
「ミシェル君、彼女との逢瀬は済んだのかな?」
ルミーナは意味深に微笑みながら問いかけた。
「逢瀬だなんて……リフリーゼ先生とはあくまで教師と生徒のようなものでしたから」
ミシェルはジュースで咳き込みつつ否定した。
「なんだ? 王都の魔法使い相手を手篭めにかけたのかぁ?」
リルドは少し酔っているのか絡み口調でミシェルを肘で小突いた。
「違いますって! っていうか手篭めとか言い方が酷いっすね!」
ミシェルはリルドの肘を押し返しつつ眉間にしわを寄せた。
「ところでミシェル君、君の軍学校入学に関してだが、卒業までの間の身元預かりはリルドとなった。今後は彼の保護下となる。卒業後は成人となるから保護からは外れるな。入学まで半年以上あるが、その間は働くなりして身銭を稼ぐんだな。あとのことは任せたぞリルド」
ルミーナは入学案内などをミシェルに手渡し、食事代をリルドへ渡したあとすぐにその場を去った。
その後はリルドが立ち入り可能な軍内部を案内したり、軍務の手伝いをしない場合の寮費の説明などを受けた。
「寮費があったんですね…… これまでの分はどうなるんですか?」
ミシェルは割とこれまで好きに使わせてもらっていたが、ツケだったらそれなりの金額になると感じた。
「あー説明してなかったか? これまでは身元不明の保護って名目だが、これからは保護付きだが立派な領民扱いだ。来月からは月に銀貨2枚だ。ミシェルはあと10ヶ月、大銀貨1枚分は稼がないとな!」
手持ちでどうにかなりそうだが、遊んでいてはすぐに底をつくだろうから働くか、ミシェルには特に働くことへの抵抗感が感じられず、そう自然と帰結した。
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