プロローグ
皆さんが気になったことはある恋愛を詰め込んだお話です。学校の先生と恋に落ち、裏切られ、夜の世界の人として生き、夜の世界の人と恋に落ちる女の子のお話ですが、
今回は幼少期のお話から、どうぞ。
薄暗いバーの閉店後の店内の中で、ましてや音楽もかかっていないとなると男女の声は響く。
「うーん…どこから話せばいいでしょうかねぇ。迷っちゃうぜ。」
とぼけた調子でそう言ったのは、バー「classic」で働く田村知世だ。
「とりあえず、俺が手を動かすから、田村さんは手は動かさなくていいから口動かしなよ。」
「ひろ先輩、それ口じゃなくて手ってやつね。」
「良いじゃん別に、この場合合ってるでしょうよ。」
「ひろ先輩」と、呼ばれた男は笑ってる。
20代半ばの、少し厳つい印象の男だが、人当たりの良さそうな笑顔で話しているところを見ると、その男が、少なくとも悪い奴ではないということは誰でもわかりそうな程だった。
「そんな上手いこと言ったよね、俺?…みたいな顔されてもね。」
田村知世は人に自分のことを話すのが苦手だった。というより話したことがまるでなかった。ある日ぼそっと、言っただけの私の「寂しいよな、結局…」という言葉を偶然きかれ、その相手が偶然お節介焼きの近田裕典こと、ひろ先輩だったというだけの話だ。
「でもこういう風に無理矢理感ないと田村さん話すきっかけ一生逃すと思ったんだもーん。」
モップをかけながらひろ先輩はわざとらしく膨れてみせた。この人に捕まったら最後、どこまででも首を突っ込んでくる。はぁ…。と思わずため息が出る。
「まあ、練習だと思って先輩に話してごらんしゃい。」
「じゃあ嫌がらせのように長々話しますからね。」
「ばっちこいっ!!」
本当は誰にだって話さなくてもいい事なのに。でも過去を引きずって人間関係も恋愛も失敗いるのも事実。でも話したって今更…。
「ひろ先輩は愛の伝道師とも呼ばれた男でもあるし!どーんと来なさいっ!!」
考えている間に話進めちゃったこの先輩。もうダメだ。わくわくしてる…。
もう覚悟決めるしかない。
さてさて、それでは。記憶の一番古い印象のあるものから。
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─バシンッ
「何で言う事きかないのっ!?」
もう何度こと言葉を聞いたのだろうか。
何度頬を叩かれた事だろうか。
ただ近所のおばさんにキャンディ貰ったから、子供ながら素直に「食べたい」と言っただけのはずなのに。
幼稚園の帰りに近所のおばさんからキャンディを一つ貰った。母はお礼を言い、笑顔で帰ってきたはずだった。
私の母はとてもヒステリーだった。
すぐ大きい声を出し、怒鳴り、自らの髪を掻きむしりながら蹴る、叩く、挙句の果てに物を持ち出し暴力を振るった。
今日もたった1粒のキャンディが原因で、母が私の胸ぐらを掴み、床に叩きつけられた。
「あんな人から貰ったものなんて食うなぁぁっ!!!」
床に叩きつけられ、押さえつけられ、髪を引っ張られ、母の顔に自然とピントが合う。
「なんで食べようとするのっっ!?」
母の顔は怖い。
顔の中心にシワが寄り、怒っているのがわかる。
怖くて怖くて極寒の中に放り出された様に私はガタガタと震えが止まらない。
怖い。
怖い………っ
____なんでってどうして聞くの?
食べたいと思ったから食べようとした、それだけの理由でしかない。
「言いなさいっっ!!!」
怒鳴った母は私の頬を叩く。
母に怯え、泣きながら私は言った。
「………食べたかったから…。」
素直に、正直に答えた。
それ以上の理由がなかったのも事実だった。
「はぁぁっ?!」
母は私の頬を叩く。
なぜこんなに怒っているのかわからない。
私はなぜまだ怒っているのか何もわからず、恐ろしさと疑問で頭が支配された。
ただこれだけはわかる。
_______もっと頬を叩かれる………っ!
「なんでっ」
バシンッ。
「食べようとっ」
バシンッ。
「したのっ…」
バシンッ。
怒鳴りながら叩いてくる母。
泣くしかない私。
繰り返される母の「なんで」と言う言葉と、私の中にあるなんで怒られているのか、という疑問。
父が夜に仕事を終えて帰ってくるまでの間の生活は、こんな調子だった。
本日はここまで